一ヶ月ほど前に先輩の真言宗の和尚から電話があり、久しぶりに一杯やらないかというので、二つ返事でOKして約束の居酒屋に向かった。
真言宗の開祖、弘法大師(空海)
出典:NAVERまとめ(varaさん)
生ビールを飲みながら、近況を報告したあと、その時、一緒に来ていたお弟子さん(昔からおじさんも知っていて統合失調症の治療をしたりしなかったりと聞いている弟子)の話になり、日頃から宗教家として欠落している部分があるので、僧籍を与えることが出来ないと何度も聞いていた。
話を続ける前に、座った位置関係を説明しておこう。座ったのはカウンターで、行ったときにはカウンターを正面に見て、右端に弟子、師匠と座っており、おじさんはその師匠の左に座ることになった。おじさんと師匠は顔を見て話すので、師匠は弟子に背中を向けることになるし、おじさんからは弟子の様子も見える。
さて、今回も、既に聞いた話や初めての話をひとわたり聞きながら、弟子の様子を観察していると、僧籍の件は聞こえている筈なのに、一向に伝わっている様子がなく、ちょっとイラッときたので、君はかけられた愛情が理解できないのかな、期待に応えるという気持はないの?、感謝するという気持もないの?、と訊くと、何も言わず、いわゆるシカトして、黙々とつまみを食べている。
自分に都合の悪い話は聞こえないんだ、と和尚が言うので、これ以上、部外者がとやかく言う事ではないと口を噤んだ。
もう少しその弟子の情報を入れると、彼はK君と言って在日朝鮮人である。ここ数年間に何度もこのメンバーで飲んだことがある。と言っても、かれは運転手として来ているので、師匠がアルコールは飲ませない。
あるとき同じように飲みに誘われたとき、彼が迎えに来てくれたことがあった。助手席が物で一杯だったので、おじさんは後部座席に乗り、道すがら車の後ろと前で会話をすることになったのだが、K君は在日だと聞いているけど韓国かと聞くと、違うと答える。じゃあ北朝鮮かと尋ねると、みんなそう言うけど、分断された個々の国のどちらでもなく、朝鮮半島全体の国籍がないから、朝鮮国籍を選択した、朝鮮籍にはそう言う人がたくさんいる、と回答してきた。
当時おじさんは不勉強にも、韓国籍と北朝鮮籍があると思っていたので、在日朝鮮人はいずれかの国籍保持者だと思っていた。そこへその話を聞いたので、後に自分でも調べてみたところ、K君が言うような経緯であることが判明した。
しかし、彼の経歴を訊くと、北朝鮮系の金融機関へ就職し、そこで虐めに遭い、紆余曲折を経て、先輩の寺へ流れ着いている。つまりは自分の祖国は朝鮮半島全体だと言っても、現実には北朝鮮系の朝鮮総連に属し、北朝鮮系の企業に就職しているのだから、北朝鮮と分類されても致し方ないであろう。
さて話を居酒屋に戻すと、彼の様子から愛情とか感謝と言った感情が理解できないのかも知れなと思い、〝サイコパス〟と言われる人間があって、君がそうではないかと思う。サイコパス診断というものがあるから一度やってみたらと言うと、和尚の方が興味を示し、サイコパスのことをあれこれ質問されのだが、こちらは専門家ではないし、知識は薄っぺらである。
それでも何とか、もともとシリアルキラーと呼ばれる連続殺人犯を調査した心理学者が受刑者に色々な質問をしたところ、同じような回答が返ってきた。そこで、逆にそれを診断の材料にして、こういう質問にこういう回答をしたらサイコパスだという風に、サイコパス診断というものに結実した、といった事を説明した。
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さらに、サイコパスの全員が連続殺人や反社会的凶悪犯罪を犯すとは限らないが、共通した精神的傾向が存在する事が明らかになっている、といった事を説明し、君はサイコパスだと弟子にジョークまじりに言ったところ、今までにないほど興味を示してきた。
師匠と弟子の両方がサイコパスに食い付いてきたので、サイコパスがいい方に出ることがある。ビジネスに役立て、会社を経営している人も沢山いるようだし、立志伝中の人物や歴史上の人物の中にも、サイコパスと考えるとうまく納得できるいく人も居る。僕は織田信長がそうだったのではないかと疑っている、といった話をした。
すると師匠が例えば、どんな質問がある。何個か言ってみてくれというので、記憶にある質問を二つ三つ出してみたところ、弟子の方はピント外れの回答だったが、師匠の方はすべてビンゴであった。
それを伝えると、明日、寺のPCでやってみると何故か大いに気をよくしていたので、そんなに喜ばしいものではないと思うけどと疑問を呈しておいた。
弟子のピント外れの回答の方は、正常人の正解が100%だとしたら、70%ほどの出来で、それでは解決一歩手前で、解決していないんじゃないと言うのだが、何をプラスすればいいのかは聞いて貰えなかった。のれんに腕押しというか、いつもカチッと会話の歯車が合ったためしがない。統合失調症のせいなのか、彼の知能のせいなのか、よく解らない。
師匠に言わせると、K君は頭はいいらしい。お経はすぐ覚えるし、所作も完璧にこなすそうだ。ただ、心がないという。経文の意味も一通り解っているようだというが、さらに一歩踏み込んで書物を読み込んだり、思索し理解を深めるといった事もしないらしい。それに共同で別々の所作をする場合の、臨機応変さにも欠けるそうだ。
例えば、真言宗なので護摩行というものがあり、祈願者が氏名や祈願の内容を護摩木に書き、ほとんどは本堂の護摩檀に火を点け、教を読みながら焼(く)べていくのだが、年に数回、外の庭へ出て大きな護摩檀に、山伏の恰好をした修験者10人ほどが拍子木のような大きな護摩木を焼べるお祭りがある。これはちょっと芝居じみた流れがあり、修験者同士の掛け合いのような〝場面〟があるのだが、周りが腹に力の入ったよく通る声を出すのに比べ、一人だけ聞き取れないような声を出して、張り詰めた場をシラけさせるのである。
翌日、師匠から電話があった。サイコパス診断をしたら、全部ビンゴだったハハハというものだった。こちらは一瞬、言葉に詰まった。この師匠、おじさんなどより余程辛抱強く、おじさんならすぐに追い出してしまうような劣悪な人間を複数弟子に取り、件のK君などは寺に住まわせている。そんな彼が、自分亡き後、どうやって生きていくかを案じている。そんな人物がサイコパスなら、サイコパスとは一体何だ。また課題が出来た。
by 考葦(-.-)y-~~~