1992年から西岡力(にしおかつとむ)により、植村隆の慰安婦記事がジャーナリストとしてあるまじき捏造ではないかと数え切れないほど指摘されていた。それに一切答えることもなく、いつの間にか朝日新聞を退職し、大学教授になっておられたのか、なろうとして邪魔されたのか、いずれにしても今回植村自身の必要があって、文藝春秋というほぼ朝日と真反対のメディアで手記を発表なさった。


 朝日新聞出身の人々は、退職しても読むに堪えない文章しか書かない(書けない?)御仁が多く、植村もそうであろうと予想しつつ、目を通してみると、案の定、自分に非はないということを言うために、小学生のような過去の記事の弁明と、家族がバッシングされ、職を失った被害者だと主張することに費やされている。これほど自分の予想が当たるかと嗤うくらい、皆さんが想像されている通りの見事?な手記だった。


 今回の脅迫事件の一面だけを捉えるとその通りだろう。おじさんも脅迫はだめだと訳知り顔で言うことはたやすい。しかし、この男(朝日新聞)が振りまいた虚偽記事で、どれほど日本という国家の品位が傷つけられたかを思えば、万死に値すると考えている人間は多いのではないか。その反省なしに、突如脅迫を受けたと言わんばかりの物言いに、朝日的真実を見るのである。


 まず、西岡が言って来たのは、それほど難しい事ではない。二転三転する慰安婦の言葉の裏を何故取らなかったのか、ということである。二転三転するということは、記憶が薄れていることもあれば、嘘を言っていることもあり得ると、まともなジャーナリストなら考える筈だが、植村はそれをしなかった。


 しっかり裏を取っていれば、長年にわたり日本を貶め続け、今も日本を非難し続ける韓国大統領に口実を与えることはなかったのだ、と言いたくなるが、おじさんは、もともと含むところがあって書いた物だから、裏取りの必要を感じなかったというより、自分(朝日新聞)が持って行きたいストーリーから外れる言葉は、はなから聞く耳をもたなかったと推測する。


 この機会に日本に仇為す植村こそ叩いておかなければならないが、植村の記事と西岡の論文を時系列に整理するのが大変だなと思っていた矢先、早めの『正論』2月号が届き、そこに西岡力の文藝春秋の「植村手記」批判が掲載されているではないか。まさに天佑としか言いようがない。


 西岡の論文は、【特集】朝日新聞を追撃すると題された中の論文の一つとして発表されたものであり、タイトルは『許せない 植村隆氏の弁明手記』となっている。


 冒頭部分は、文藝春秋が植村の手記を載せるにあたって、批判し続けてきた自分に一言の話もなかったとの非難めいたもので占められているけれども、結果的に『正論』で書くことが出来たので「相互批判の形になった」で終わっている。この辺りは女々しいと受け取る向きもあるかも知れないが、実際手記の中で自分の主張をバッシング扱いされ、慰安婦問題追及の急先鋒であり、第一人者と自負する西岡の無念の表明として、おじさんはおおらかに受け止めた。


 女子挺身隊と慰安婦を混同した点につき、植村は混同したのは自分だけではない。当事者がそう説明していたと弁明するが、西岡の指摘する点と微妙にずれている。植村は1991年8月11日の記事でこう書いた。上記正論2月号の西岡論文に引用されている通り引用する。但し、傍線はアンダーラインにし、文字に着色はされていない。


 日中戦争や第二次世界大戦の際、「女子挺身隊」の名で戦場に連行され、日本軍人相手に売春行為を強いられた「朝鮮人従軍慰安婦」のうち、一人がソウル市内に生存していることがわかり、「韓国挺身隊問題対策協議会」(尹貞玉・共同代表、16団体約三〇万人)が聞き取りを始めた。同協議会は十日、女性の話を録音したテープを朝日新聞記者に公開した。テープの中で女性は「思い出すと今でも身の毛がよだつ」と語っている。体験をひた隠しにしてきた彼女らの重い口が、戦後半世紀近くたって、やっと開き始めた。〉


 アンダーライン部分は、発見された朝鮮人慰安婦の一人の経歴を述べているのは、誰が読んでも分かる。ところが、表に出ている限り、当の元慰安婦金学順は一度たりとも強制連行とも、女子挺身隊とも口にしていない。14歳で母親によってキーセンに売られ、キーセンの店主(養父)によって、軍隊の慰安所に連れて行かれた――慰安所に売られた――と言っている。


 これが、この慰安婦の真実だと推定されるが、これのどこを叩けば「女子挺身隊の名で戦場に連行され」たと紹介できるのだ。女子挺身隊と〝従軍〟慰安婦は自分以外にも混同している人があってと、先の朝日新聞慰安婦検証も今回の植村手記も弁明しているが、そもそもここに女子挺身隊を登場させたのは、植村おまえではないか。おまえでないなら、朝日がそう付け加えたのか。


 もし捏造は事実無根だというのなら、韓国挺身隊問題対策協議会から公開されたというテープを公開しろ。そこに金学順が女子挺身隊と述べ、日本政府なり軍なりに強制連行されたと述べているなら、植村はこの件に関し捏造していないと納得しよう。つまり、身の潔白を証明するためには、テープの公開しかない事が理解できるだろう。
続く

(文中敬称略)