この男は今の朝日新聞を象徴するような人間で、『中国の旅』という連載で《南京事件》を〝ルポルタージュ〟なさり世間に衝撃を与えた。


 各方面から数多の指摘を受けたが、朝日がしっかりガードしたのか、本人の弁明は聞こえてこず、逆に多くの賞をお取りになった。


 ところが、保守速報さんが紹介されている2ちゃんねるの投稿によると、本多が写真の誤用・捏造を認めたようだ。ただその弁明が、彼らしく中国が言ったことを書いただけだから、そちらに聞いてくれ的な発言をなさったようだ。ただ昔から誤用と分かり切っていた写真を誤用と認めた意義は大きい。これも朝日の〝検証〟の一環か。



『朝日新聞は南京事件でも捏造していた!!!元朝日新聞記者の本多勝一、写真捏造を認める!!!|保守速報』
  http://hosyusokuhou.jp/archives/40276448.html


 詳しくは記事をお読みいただくとして、今回おじさんが言いたいのは、この本多が日本語に関する著書を数冊出していることだ。


 わかりやすく相手に伝わるように書けとか、句読点のつけ方などにも目配りされているようだが、本多から何かを学ぼうとしても、能面制作に喩えれば、頬の曲線はこうだとか、この作業はこの鑿(のみ)を使うといった小手先の技術だけを知識として得ることが出来るだけであって、どうすればこの面に命を吹き込めるのかといった〔心〕や〔道〕については何も学べない。


 その理由は言わなくても分かると信じているが老婆心で述べておきたい。ルポならこの問題については、誰々はこう言った。誰々が出してきた資料ではこう書かれている。また誰々はこう言ったが、この人物はこの事件ついて偏った立場なので、額面通りに受け取ることは差し控えておく、といった自分の見解を添えて紹介してもいい。


 常に客観的立場に自らを置いて、資料に拠るときは資料が誰によって作られ、どういう経緯で自分の目に触れるようになったのかを自らの手で調査し、安全だと判断したものだけを用い、真実を追い求めていく姿勢が必要とされる。そうでなければ、小手先だけの、レトリックに満ちてはいるが薄っぺらな、誰かが言いたいことを代弁したような代物が出来上がるだろう。


 つまり本多が決定的に欠いているのは、誤った事を伝えてはならない、読者を誤誘導してはなら、誤って誰かを傷つけてはならないというジリジリとする責任感である。


 ご紹介した保守速報さんの記事でお分かりのように、本多が言ったことは、間違った写真をくれたのは中国である。もしその写真のキャプションが間違っているとしたら、中国が間違っているのだ。確かにこれは間違っているが、自分には責任はないということだね。


 資料はこちらで用意するから、こういう趣旨で書いてね、と言われて書くゴーストライターと同じじゃないか。どこが違うというのか?


 あなたが文章を学びたいなら、間違ってもこんな男を先生にしてはならない。もっとも、ゴーストライター専門になるのなら話は別だが……。


 おじさんは小説家の文章読本はほぼすべて読んだ。なかでも一番為になったのは、丸谷才一である。丸谷が師と仰ぐ石川 淳もおじさんの師だ。妙な文章上達本を読む前に丸谷の『文章読本』を推薦する。

文章読本 (中公文庫)/丸谷 才一
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 丸谷にとってはおじさんが勝手に弟子を名乗っているのはまことに不本意だと思うが、こんな本を上梓したからにはそれも想定済みと思って貰わなければならない。


 丸谷が逝去したときの新聞記事を紹介した際の拙稿があるので、お時間があればお読みください。