『1000円からお預かりします』

 一時期、コンビニでこの言い方を聞いて、〝何じゃそれ!〟とむかっ腹を立てていた事がある。 早速、テレビや新聞で言葉に厳格な人や有識者から厳しく批判されたが、そのせいか、いつの間にか『1000円で宜しいですか?』に変わっていた。


 今は『何々円で宜しいですか』を聞かない日はないくらい耳にしている。


 この言葉なら「お出しになる小銭はございませんか」を裏に含んだ言葉なので、それほど違和感はなくなった。


 つまり、「1000円からお釣りをお渡しいたしますと、小銭がとても多くなってしまいますが、それでも宜しいですか」という文の省略形と解釈しているのだ。


 ところで、原型の『1000円からお預かりいたします』はどういう意図で言っていたのだろう。というのも、コンビニは全国展開しているので、言葉遣いなども本社(本部?)で決め、研修で叩き込まれたと思うからだ。


 何々からというのは、まずお釣りを渡す意図があるということはわかる。


 よって、「ただいまお預かりした1000円からお釣りをお渡しいたします」ということだったのだろう。しかし、実際の現場では『1000円からお預かりします』という馬鹿げた順番入れ替えと省略をやってしまい、おじさんや他の人々の神経を逆撫でする結果となったと推測する。


 さらにお釣りの切りが良くなるように小銭を出す人も多く、馬鹿げた省略倒置は姿を消し、そちらに重点を置いた『1000円からで宜しいですか?』 に取って代わられたという次第だ。


 コンビニでは、預かった札をレジの前に止めておいて、後から高額の紙幣を渡したというクレームを避けている。この手の恥知らずは昔から多くて、古くて新しい手口と言える。その防止のために幾らの紙幣を預かったかを口頭で復唱するという意味もあったのだろう。


 大勢の人間が集まる所は、言葉の変化もダイナミックである。それに言葉に無頓着な店員が加わり、ちょっとした喜劇を生む。


 世は平和である。世間は事も無し。