島田紳助が芸能界を〝引退〟してからずいぶん経つ。


 双璧であったさんまが孤軍奮闘し、紳助の抜けた穴は99やその他、次世代と目される芸人が曲がりなりにも埋め、今や紳助は忘れ去られようとしている。


 紳助の笑いは緻密な計算の上に成り立っている芸だ。即興に見える絶妙の〝返し〟も、計算され尽くしている。


 物を喩える言葉にしても、昔、街のアンケートでどちらと付き合いたいか、という集計の数を競うクイズで、当然、ハンディーがあり決められた票を取れば勝ちとなるルールだが、磯野貴理子と人気若手女優の対戦で、ハンディーの高さ(少ない数で勝ちになる)に貴理子が文句を言うと、エルメスと紙袋、好きな方を持って帰れと言われ、誰が紙袋を取る? と紳助は切り返した。


 秀逸この上ない比喩で、笑い転げたおじさんは、そのゲームの結果を記憶してない。


 何時か使おうと準備していて、最高のタイミングで繰り出した訳だ。今の若手芸人に、いや、全芸人と言い換えていい、普段からこれだけ緻密な計算をして準備している者がいるか。その引き出したるや数え切れないほどに違いない。


 日本のお笑いにとって、紳助の引退を惜しむのである。