類は友を呼ぶ【2】
10分・・・30分・・・・・・まだ戻ってこないっ!
バイト二人が取り残された店内は、お客さんの出入りはあるものの重苦しい沈黙が続いていた。
一体どうしたというのだ?
本当にご飯を食べているのだろうか?
ベテランバイトさんがブチ切れないうちに呼びに行かなければっ!
そう思った時、食堂から野村さんが現れた。
続いてもう一人、エプロンを付けた男も出てきた。
二人はクラブマンの前で何やら話していたが、軽く挨拶をするとエプロンの男は食堂に戻っていった。
野村さんもやっと戻ってきた。
何だか嬉しそうな顔をして店に入るなり、
「いやぁ~あの食堂の人もバイク乗りだったよ!俺のニンジャ見て気になってたんだって!今度走りに行く約束してきたよ!」
いえ・・・そういう事じゃなくて・・・
「藤井君、店閉めたらあの食堂で晩飯食べていかない?食堂の人、なかなか面白い人だよ!」
あ、あの・・・他に言うことがあると思うのですが・・・
そんな野村さんに呆れていると、沈黙していたベテランバイトさんが立ち上がった。
遂にブチ切れた!?
緊張が走る!!!
「野村さん・・・バイクの話をしている時は本当に楽しそうだね。私も昔バイク乗ってたんだよ。」
へ?
予想外の言葉に驚いてしまった。
聞けば独身時代はバイクが好きで良く乗っていたそうだ。
結婚して子供が生まれたのを機に手放してしまったらしい。
野村さんに火がついた!
こうなるとバイク談義全開である。
ベテランバイトさんまで仕事がお留守に・・・
私も二人の会話を聞いていたが、話題について行けず黙々と写真のチェックを続けた。
楽しそうに話す二人が羨ましく思えた。
・・・つづく
類は友を呼ぶ【1】
小さな写真屋の前に大きなバイクが停まっている風景に馴染んだ頃、私の中ではバイクの存在が大きくなっていた。
街を駆け抜けるバイクを見ては
「どんな人が乗っているのかな?」
と、いつの間にか気になるようになった。
気になるといえば、道路を挟んで向側の食堂の前に停まっている銀色のバイクもそうだ。
いつも同じ場所に置いてある。
しかもほぼ一日。
野村さんのニンジャより小柄に見えるそのバイクは、エンジンが剥き出しでシンプルないわゆる「バイク」の典型だった。
素直に格好良いバイクだと思った。
「あのバイク、いつもあの場所にありますよね。何てバイクですか?」
野村さんに聞いてみた。
待ってました!と言わんばかりの勢いで説明が始まる。
「あれはホンダのクラブマンだよ、GB250クラブマン。シングルエンジンを搭載して…」(以下略)
またしても熱く語ってくれたが、とにかく名前を覚えることは出来た。
「あの食堂の店員さんが乗ってるんですかね・・・」
と言いつつ、手を止めていた写真のチェックを続けようとすると
「ん~どうなんだろ?…ちょっと聞いてくる!」
なんと!野村さんは店を出て向かいの食堂へ行ってしまった。
・・・って、おいっ!仕事はどーすんのっ!?
食堂の窓越しにカリフラワーの影が動いて見える。
すぐ出てくると思いきや、どうやら席についてしまったようだ。
まさか、メシ食うつもりですかいっ!?まだ16時なのに・・・
結果、私とこの店一番のベテランバイトさんは店に放置されることに。
「これって、私のせい・・・ではない・・・ですよねぇ???」
何も言わず黙々と仕事を続けるベテランバイトさん・・・何だか怖いオーラが出てません?
非常に気まずい空気の中、静かに時間は過ぎてゆく。
・・・つづく
そいつはいきなりやって来た!【3】
写真屋の営業時間は午前9時から午後8時まで。
閉店後、その日の売上を本社へFAXで報告して業務終了となる。
野村新店長は業務マニュアルを見ながらとは言え、テキパキと仕事をこなす。
「野村さんはこの仕事長いんですか?」
「いや~色々仕事はしたけど、写真屋は初めてだなぁ~」
・・・へ?色々?
今年26歳になるというが、その歳で仕事を転々て?
聞けば最初は某私大に入ったそうだが、どうもしっくりこなくて中退して以来、仕事を転々としているらしい。
「まぁ~いつかやりたいことが見つかるんじゃない?」と、ニコニコしながら言う。
今まで自分の周りにいないタイプの人間だ。
店に慣れたころにやめてしまうのかな・・・そんな気がした。
「さて、帰りますか!」
野村さんは奥からヘルメットやウエアを持ってくると、バイクのキーを取り出して表に出てゆく。
キーを差し込んで・・・次の瞬間!
重低音を轟かせながらそのバイク、GPZ900Rニンジャは目覚めたのだった。
街行くバイクをただ何となく見ていただけの自分にとっては、こんな音を発するバイクがあるとは思わなかった。
900ccという排気量を持つ二輪車が目の前にあることも驚きだが、何よりその音に度肝を抜かれたのだ。
だが、そのバイクを駆るのはトム・クルーズではない。
ちょっと背の低いカリフラワー頭の新店長「野村さん」なのだ。
何だかそのギャップがおかしくもあったが(失礼)、走り出すまで見送ることにした。
エンジンが暖まり、エンジン回転が安定してきたところで、野村さんはニンジャに跨ると
「んじゃおつかれ!また明日!」
と言い残し、そりゃあもうエライ勢いで、まるでロケットみたいなスタートで走り去ったのだった。
小さくなってゆくカリフラワー・・・もとい、ニンジャを見送りながら、自分の中で何かが弾けた様な気がした。
そう、そいつはいきなりやって来た!のだ。
・・・つづく
