2022年12月7日。

無敵艦隊と言われたスペイン代表は、ワールドカップベスト16の舞台で負けた。

相手は快進撃を続けるモロッコ。

PK戦の末、優勝候補はサッカー最高の舞台から姿を消した。

 

スペインの黄金期を知る人は、FCバルセロナが受け継いできたパスサッカー、「ティキタカ」の全盛期を見ている。

 

オランダのレジェンドプレーヤー、ヨハン・クライフがバルサに持ち込んだ、美しいポゼッションサッカーは、2010年に全盛期を迎えた。バルセロナのサッカーは、国内最大のライバルである、銀河系軍団レアル・マドリード相手にも圧倒的な強さを見せ、レアルはバルサを無謀なタックルで止めようと試んだため、エル・クラシコは大荒れした。ラ・リーガだけでなく、チャンピオンズリーグでも強いバルセロナは、まさに最強だった。クライフのティキタカをバルセロナの下部組織時代から習っていたペップは、パスサッカーのレベルを一段と上げた。ジョゼ・モウリーニョなどの名将らですら、バルサを止めることはできなかった。

クラブサッカーだけでなく、バルセロナの選手たちは、ワールドカップでもティキタカでボールとゲームを支配し、南アフリカを沸かせた。2010年の決勝、オランダ対スペインを鮮明に覚えている人も多いだろう。スペインの伝説的守護神イケル・カシージャスがロッベンとの1対1を制し、105分にアンドレ・イニエスタがオランダのゴールネットを揺らした、なんともドラマチックな試合だ。2010年、スペインのティキタカサッカーは全盛期であった。誰もが疑わなかった事実である。

 

しかしそこからスペインのティキタカは落ちぶれていく。

カシージャスは、同僚のレアルの選手との溝が深くなっていき、マドリディスタも分割するような冷戦が起こっていた。ロッカールームでの対立はより一層真剣になり、カシージャスはサンチャゴ・ベルナベウでブーイングを受けるようになった。スペイン代表に大きな亀裂が入る。カシージャスと監督の対立は、スペインのサッカー界を巻き込んだ、泥臭い一事件として歴史に刻まれた。

 

2012年、ペップ・グアルディオラはバルセロナの監督をやめる。クラブ史上最高の記録と共に、カタルーニャを去った。

 

2014年ワールドカップ。スペインは、2010年決勝で勝ったオランダに、5-1での敗北を喫する。かつてカシージャスが阻んだロッベンもゴールを決める。チリにも負け、グループステージを敗退した。スペイン代表団は、屈辱と共にマドリードに帰国した。

 

 

 

これは「ワールドカップの呪い」なのか。2014年優勝国ドイツは2018年、グループステージで敗退している。2006年優勝国イタリアは、2010年、これまたグループステージを敗退している。

2022年、快進撃を続けている2018年王者フランスを例外に、ワールドカップ優勝国は、次の大会で負けている。やはり王者にのしかかるプレッシャーは想像以上なのか?スター選手が消え去ったからなのか?スペインの場合、ペップがいなくなったからなのか?

 

私はこれらは全て違うと考える。ペップが去った後のバルセロナも、ヨーロッパでは圧倒的であった。メッシ、スアレス、ネイマールら”MSN”を前線に置いた2015年のブラウグラナは、チャンピオンズリーグ決勝でブッフォンが守るユベントスのゴールを3度揺らし、欧州王者になった。一言で言うと、くっそ強かった。

さらに、エンリケ監督が就任したシーズンは、クレにとっては忘れられない、パリサンジェルマンへの大逆転劇、La Remontada がある。チャンピオンズリーグ1st legで0-4という敗北を喫し、誰もがバルセロナの敗退を予測した。しかし、エンリケ監督と選手たちは違った。残り時間20秒を切る中、74分に出場したセルジロベルトがネイマールのアシストをゴールに押し込み、バルセロナが6-1(6-5 agg)で勝利した。決して、バルサは弱くなっていない。

しかし、バルセロナは運営を完全にミスった。就任したバルセロナのバルトメウ会長は、向こう見ずな経営で、大きな借金を残した。2018年、ネイマール、2020年、スアレス、そして2021年、メッシが退団。バルセロナはそこから2シーズン通して、ヨーロッパリーグでプレーすることになる。

 

2022年。スペインは、グループステージで日本に負け、グループを2位で通過し、ベスト16でモロッコにPK戦で負ける。PKのスコアは、0-3と、最悪な結果である。

バルサとスペインのキャプテンを務める、ブスケッツに批判が集中した。黄金時代から残り続ける大黒柱である。ガビ・ペドリと組み、スペインのティキタカを1番大事な場所、ボランチ(船の梶という意味)として支えているブスケッツが悪いのか。いや違う。PKを外したのはそうだが、ブスケッツはスペインの要である。彼が攻撃の拠点となり、守備の最重要ポジションである。近年のブスケッツは3試合に1回ほど覚醒するが、覚醒していない試合は、チームの敗北につながっている。

バルセロナのポゼッションサッカーは、決して衰えていない。むしろ、ガビ・ペドリにより、より強化され、新たな時代が作られている。ティキタカまでの流れはいいのだが、スペインはどうしてもゴールを奪えない。決定機を外すフェラン。出場しても目立たない、バルサの10番アンス・ファティ。ゴールを運ぶまではうまいのに、ゴールを取れない。勝てない。それがバルセロナの1番の弱点であり、スペインの弱点である。

 

四年後、スペイン代表はどのように戦うのか。

ティキタカサッカーは時代に背くのか。

時代の大きな流れとして、ラ・リーガよりもプレミアリーグの方が強しとされる風潮はある。イングランドの市場価値の方が高いし、イングランドの存在感は、政治的・歴史的にそうであったように、サッカーでも強い。しかし2021年、レアル・マドリーは信じ難い逆転劇を繰り返し、チャンピオンズリーグを制した。スペインを「古い」や「全盛期は終わった」と言ってもいいが、スペインは、サッカー界の絶対的強豪国として、決してその座を譲らないという意地を見せつけている。バルセロナも、シャビ監督の就任、レヴァンドフスキ・ラフィーニャの移籍などを受け、まだまだ来シーズンの期待は大きい。身長や、体の強さなどのフィジカルを重んじるプレミアリーグに対し、ラリーガはより技術的に繊細で、戦術に富んでいる。これもスペインらしい。また、カンテラと呼ばれる下部組織の充実はすごい。ガビ・アラウホ・シャビシモンズなどを排出しているバルセロナのラマシアは、今でこそメッシやイニエスタは出てこないものの、世界一のアカデミーと言えるだろう。カンテラがより充実することを願うばかりだ。スペインは、強い選手というよりも、うまい選手を輩出するのが得意だと言える。

ティキタカサッカーは、世界一である、ただ、ビジャやペドロなどの、決定力に富む選手がいないと、ティキタカサッカーは完結しない。結果論だけが唱えられてしまう。ゴールを奪って何よりの世界で、そこまでのプレーで沸かせるバルセロナは確かに時代に背く。インテルに屈したバルセロナを見ても分かるが、「何かが足りない」と多くのクレは思う。何が足りないのか。メッシか。

四年後のスペインは、ガビ・ペドリを中心にチームが形成されているはずだ。圧倒的な運動量の中盤2人が4年後どうなっているか楽しみだが、ペドリ、ガビに依存する試合は良くない。ガビはピッチ状を動き回るため、中盤に穴ができてしまう。それを補える運動量を持つ選手が必要だし、逆にペドリにはスペースが足りていない。ガビとペドリを輝かせないといけない、と多くの人が考えるように、とにかくゴールを決めやすいアシストを出しやすいように、中盤を輝かせないといけない。

 

そして、バルセロナは、経営面でも問題を解決していかないといけない。全てのクレが望んでいる、メッシ復帰を、いち早く叶えないといけない。そして、移籍に関してはもう少し経営を考えてほしい。確かにあっと驚くことを望むのがクレだが、クレの機嫌をとっているばかりでは、バルサは倒産してしまう。カンテラからもっと出てきてほしい。ディフェンスをなんとかしてほしい。カウンターアタックに弱すぎる。だからバイエルンにいつも負ける。

 

私がこれだけティキタカにうるさいのは、汚い、や頭が悪いと言われるサッカーにおいて、サッカーの美しさや奥深さを完全に体現しているのがティキタカだからである。ティキタカのないサッカーはサッカーでない。ティキタカが見ていて1番楽しい。ティキタカ、サイコー!となるわけだ。

 

 

 長々しい文章で申し訳ない。でもこれを読むと、サッカーの知識は必ずつく。あなたも、バルセロナのファンにならないかい?