妙な夢を見た。
夢の中で私は
小さな温泉宿のような所(どうやらそれが私の実家らしい)に滞在している。
古いばかりで、効能があるのかないのか
小さな露天風呂と内風呂がひとつずつあるきりの宿である。
私が内風呂から上がって、白いバスタオルで体を拭っていると
丁度そこに来た客人を、母が露天へと案内する。
内風呂のすぐ横に細長い入口があり
渡り廊下を少し歩くと、岩に囲まれた風呂が見える。
岩のむこうは、植木。
ああ、なんだ。
私はもう何度か、この場所の夢を見ているじゃないか。
現実ではただの一度も思い出しはしなかったのに
夢の中では時々、夢の内容を思い出す。
その証拠に、植木のむこうに見える不可思議な生き物に覚えがある。
それは三角のおにぎりを三つ繋げたような妙な形をして
四本の脚は山羊のように細く
三つのおにぎりのそれぞれに
模様とも目玉ともつかないものが一対ずつ、ぎょろりと付いている。
毛並みはゴッホの油絵のようにべたりとして
その色は孔雀や苔玉のような、黒とも緑ともつかない色である。

「あれ、天然記念物だよね…?」
半ば独り言のように言うと
「そうだよ。守り神で天然記念物なんだよ」
母は山姥のように、含みのある笑い方をする。
どうやらそれはとても有難い存在で、滅多に見かけることも無いようで
だからこそ是非にと、客人に露天を薦めたのだろう。
けれど、しかし―――
……気味が悪い。
どこが、と言われれば分からない。何故なのかも分からない。
それは神と呼ばれる、皆が手を合わせ崇め奉る存在なのに
私だけなのだろうか、どうしても受け入れ難いのだ。
そんな私の心の内を知ってか
殆ど山姥となってしまった母が、横目で鋭く私を伺う。
私は自分の直感を信じつつも
守り神に対する背信と、母の視線に戸惑い
自分が人として間違っているのか
それとも直感こそが本物で
この場だけは取り繕って過ごすべきなのか逡巡する―――。
そこから先の夢は、覚えていない。
守り神の姿も、似たようなものを現実世界で見た気がするけれど
とうとう思い出すことができなかった。