朝目が覚め、ビザgetを翌日に控えたこの日、仕事に行く前のアスから
「パスポートを持ってないから、外には出歩かないように」と言われて家でおとなしくしていた。


すると、ナイジェリアの試合に異常な興奮を示すナイジェリアンと、
サッカーアフリカネーションズカップを観戦し、一息ついた時、家のドアがノックされた。


ドアが開けられると、そこにはスーツを着た、いかにも威厳のあるおっさん。


「お前らはここに住んでるのか?」


「なぜここにいる?」


完全に怪しまれている。


話をしていると、このおっさんは家のオーナーで、アスはこのオーナーに家賃を払って借りているらしい。
そして、ここを出入りしていることを知った彼は、確認に来たようだった。

オーナーとしては、勝手に部屋貸し出しのビジネスをするのは許さんといった様子。


アスは第一婦人の村に行って今はいない。
こんな最悪な状況で出くわしたからには、追い出されることは確実の雰囲気だった。


いつどうなってもいいように荷物をまとめ、アスの帰りを待つ。

日が沈みかけた頃、アスが帰ってきて開口一番、


「ジャポネは今日家を出る」


「ナイジェリアンは明日家を出る」


そういう流れになったらしい。

最後に彼は、空港の近くにいる友人の家を紹介すると言ってくれた。


以前、一緒に家でメシを食った男の家へ。
面識もあったので、その行為に甘えることにした。


彼らの事を知るのは難しいが、アスはお金が大事と思う気持ちと、
純粋に助けたいと思う両方の気持ちが不安定に同居し、

さらに酒が入っているときと、入ってないときを含めると、大きく4つの顔を持つ男。


「この状況になって最後までHELPできなくて、Sorry」といってきた。
なかなか「Sorry」と、はっきり言う人は少ない。


この状況で、行為に甘えないのは逆に申し訳ないし、こちらとしても有難い。

金の話はさておき、ここには十分お世話になった。
100ドルでも街の宿に泊まれば5日でなくなる金額。
その上、酒を飲んでないときにはいろいろ協力してくれ、4泊も泊まらしてもらったのも確か。


家を出る前には、以前彼が着てて「ナイスだね~」と褒めた長袖をくれた。



暗くなって、酒屋の前でこれからお世話になる男と落ち合う。
酒屋の前ということで多少やな予感がしたが、今回ばかりは大人しい。


よくわからない男・アスと別れ、バトンタッチしたのはガンビア人。
テンションが異常に高く、やたら丁寧に相槌を打つこのガンビア人は、
危険はないものの落ち着きがなく変な男。


アスの家から近い、居住区の奥に入り込み、大西洋沿いに彼の寝床はあった。
アスの家が頭に残像として残っていたので、今回の寝床もまあ問題ないだろうと思っていた。
なにより、寝ることに関してはかなり天才的なので、寝袋がある今は、外だろうが多少汚かろうが問題ない。


インド&アジアの旅で、汚い環境は慣れているはずだ。


そう…… おれは慣れてる。


壁が剥がれていようが、


虫が歩いていようが、


シーツの色が変色していようが、ベットに多少人間のニオイが染み付いていようが大丈夫なおれが…



このおれが……



この俺様が……!!



臆している!!



臆してしまっている!!



ここでこのガンビア人と寝るのは……嫌だ!!



   Go For  シルバーバック      Go For  シルバーバック


廃校になった運動部の物置に、「オ~ケ~」の相槌の度に瞳孔が開くガンビア人と、

同じマットレスで寝るのは……



はうあ!



誰!?



電気の来てないこの部屋で、ろうそくの火がかすかに照らしたのは、
マットレスの上をひた走る特大のゴキブリ先生。



畜生!



ゴキブリでビビるなんて。


かすかに聞こえる大西洋の波の音。

セミダブルサイズのマットレスで部屋が埋まるほどの空間。


そこで長い長い夜を越す。



そこはさすが眠りの神降臨。

寝袋にさえ包まってしまえば、すかさず眠りの中へ。


と、安心したのも束の間、蚊野郎がすごい。

横で寝ているガンビア人は体を叩きまくっている。


寝袋の隙間を狙い続けてくる蚊に悪戦苦闘しながら、ほぼ熟睡できず夜を越す。

出発の日までいても問題ないと言ってくれているが、夜中の3時の時点でホテルに行く意志は固まった。



早朝、7時。


目覚めて起き上がっている俺を気づかってくれてか、ガンビア人も目を覚ましローソクに火をともす。


あまりにうまい英語が気になり、何ヶ国語話せるか聞くと、5ヶ国語+ローカル言語4の

合計9種類の言語を話すと言う天才肌。

半年集中すれば話せるようになるという彼に、アラビア語も話せるのか聞いてみた。

すると、無造作に置いてあったアラビア語で書かれたコーランを突然読み出す。


早口で読まれる呪文のような響きと、ローソクに照らされ、とり憑かれたような彼の表情が逆効果。

なおさら早く出たくなってしまった。


アホな事を聞いてしまった自分を責める。



そして、待ちに待った夜明け。


泊めてくれた彼にお礼を言い、バックパックを背負い明け方の町を歩く。


オ~ケ~。


さあ、街で宿を見つけて、今日こそビザGET。




part4へ続く……