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                         <突然現れた道を埋めるヤギの大群>


超多忙の1日




■第一部 カーリー寺院 ~ヤギ、吠える~



カーリーとは、ヒンドゥー教神様の一人。


コルカタでも有名なこの寺院では、毎日カーリーに捧げる生贄にヤギの首がはねられる。
人々の生活習慣と思想に、密接に結びついたヒンドゥー教の寺院を訪問すべく、朝8時パラゴン出発。


宿を出るとすぐに二人組のインド人に話しかけられる。
一人は、日本に奥さんがいるらしい日本語ペラペラ&日本に住んでるらしい青年で身なりは小奇麗。
一人は、ブッタガヤからコルカタに遊びに来ている大学生。
ここでは彼のことをピュア君と呼ぼう。理由はあとで。


日本に住んでるらしいインド人は、路上の床屋ではなくハイクオリティーの床屋に行くらしく、
最低でも1時間はかかる。そのためピュア君は時間を持て余すため、

おれと一緒にカーリー寺院に行きたいらしい。


コルカタも3回目でカーリー寺院は行ったことがないらしい。
英語はわかりずらいけどコミュニケーションは取れるから、とりあえず「いいよ」と言って二人で向かうことに。

ちなみにピュア君は出発前、日本在住インド人の友達におこずかいもらってた。


ピュア君と二人で地下鉄に乗り込む。
適当に人に聞いて行こうとしてたけど、ピュア君が代わりにヒンディー語で人に聞いて最寄り駅に到着。


駅に到着してからもピュア君絶好調。
パーフェクトなヒンディー語を操り、狭い路地を歩いて、なんなくカーリー寺院到着。



到着すると、入り口にあるお供えもの屋のおっさんが、
「サンダルはここで脱いで、この花とお香をカーリーに捧げるんだ」と説明してきた。

おっさんの慣れまくった雰囲気の中、あまりにオートマティックに事が進む。

一応、花&お香の金額を聞くと21ルピーだと言う。

ピュア君はサンダルを見てるから、俺が帰ってきたら交代で行くと言っている。


店のおっさんが慌しく先導して、寺院の説明をしながら中へ。

そこにはインド人でごった返している。

狭い内部を説明されながら、カーリーの偶像がある本丸へ。


おっさんが俺に忠告。
「内部にはいい奴も悪いやつもごった返している。貴重品含め気をつけるように!」


俺としては、案内のおっさんに気をつけたい。


早速狭い入り口には物乞いの子供たちに足を引っ張られ、人ごみでうまく身動きが取れない。
おっさんが俺を引っ張りカーリーの前に。


黒っぽい肌で切れ長の目と口のでかいカーリー顔面が目の前に。

神様らしいが、お面のようなその顔は、はっきりいって不気味だった。

山賊のお面のようでもあり、槍を持ってジャングルで狩りをする狩猟民族のお面のようでもあった。


左右には、お祈りしているヒンドゥー教徒たち。

その表情は、何かを乞うようでもあり、助けを求めるようでもある。


おっさんに言われた通り、お供え用の一輪の花をカーリーの前に投げ入れる。
そして、壁に塗られた塗料を、俺の額にピタッと塗りつけてくれた。
よくインド人が額につけている赤っぽいあれを。



蒸しかえるような室内から汗だくで外に逃げ出すと、今度はカーリーに捧げるヤギの首刎ね場所へ。

もうすぐ神聖なヤギの首刎ねが行われるらしい。


待ってる時間がもったいないので、外で待ってるはずのピュア君を呼んでもらうことに。
お供えの花を両手で抱えたピュア君が緊張した様子で登場。



待ってる間、サリーに身を纏った信仰の厚いだろう女性が次の順番でお祈りを捧げている。

1、何かをつぶやきながら空に手をかざす
2、両手を合わせながら胸元に手を合わせ何かを唱えている。
3、手は合わせたまま、地面にうつ伏せになり、地面に体を擦らせながら何かを唱えている。


これを繰り返しながら、徐々にヤギの首刎ね場の中まで続けている。
その目は、完全に現世の世界を見てる目ではない。


信仰にすべてを捧げている女性がゆっくりうつ伏せになると、周囲の人は右手で彼女の足に触れ、
そして自分の額をタッチする。

まるで、彼女を通してカーリーのエネルギーをもらっているようでもあった。


そうこうしてるうちに、太鼓の音が聞こえてきた。
人が集まる。
おっさんは俺らを首刎ね最前線1.5メートルのところに先導してきた。


儀式をとり仕切るインド人が、子ヤギの前足を強引に子ヤギの背中の後ろにやる。
ボキッと骨が折れる鈍い音が聞こえたような。
背中にまわった子ヤギの前足を握っていると、宙吊りになった子ヤギ、吠える。


太鼓の音が勢いを増す。


木製の柱の間にヤギの頭がセットされた瞬間、三日月型の刀で一気に首が切り落とされた。

首が目の前を転がる。
体は切断された後もしばらく動き、もがいている。


そして地面や木製の柱に付着した大量のヤギの血には、ものすごい勢いで人が集まり額に塗っている。


生贄になったヤギは、施設に隣接したキッチンで恵まれない子供達に振舞われるらしい。


この儀式はほぼ毎日行われている。


殺されたヤギがまだ動いてる様子も確かに強烈ではあったけど、
それよりなにより、ヒンドゥー教徒の儀式とカーリーに対する祈りの姿勢が醸し出す
雰囲気のほうが強烈で異様だった。


宗教を人に聞かれたら仏教だと答えるけど、特に信仰していない俺にとって、
ヒンドゥー教を信仰している人たちの張り詰めた信仰心は異様な光景に映った。


ただ、彼らにとっては絶対的で、部外者が軽はずみに扱っていいものではない事は確かだ。


ピュア君も興奮した表情で寺院を出る。

するとおっさんがおれらを沐浴場のようなところに連れて行った。


そこには小さなシヴァ神が祭られている。
面白いことに、さっきまでカーリー神にお祈りしてたのに、ここではシヴァ神。


神様チャンポンはありらしい。



マスターと呼ばれるおっさんが現れ、軽く自己紹介。


そしてまず、マスターの言うとおりにシヴァ神に向かってお祈り。


マスター:「ナマステー シヴァ」

うちら : 「ナマステー シヴァ」


マスター:「あなたの健康と仕事の成功を祈って一輪の花をシヴァの前に置いてください」
      「あなたのお父さんの名前を言って、花を一輪」
      「お母さんの名前を言って、花を一輪」
      「兄弟の名前を言って、花を一輪ずつ」


おれとピュア君はマスターに言われた通り、お供えの花をシヴァ神の像に置いていった。

お祈りがすべて終了すると、マスターが小さなメモ帳を見せてきた。

そこには名前と国籍と1000とか2000とかいう数字が書いてある。
マスターとおっさんがそこに名前と国籍と数字を書くよう促がしてくる。


おれ知らないフリして動かないでいると、ピュア君が書かされている。

おれも名前のサインを変えて他の人と同じように適当に書いた。


『 AKIHOME  JPN  1000 』


すると、マスターとおっさん揃って、「DONATION」(寄付)と言ってきやがる。
正当に使われるはずもないだろう寄付を要求。
ここはインド。やはり噂通りの展開で芸がない。


するとピュア君、鳩が豆鉄砲食らった表情で「えっ!?えっ!?」と言って、落ち着きがなくなる。
インド人のピュア君が混乱している。
逆にピュア君のリアクションに面食らう。


おっさんとDONATIONマスターはPUSHを続ける。

ピュア君、混乱のままポケットから弱々しい手つきで1000ルピーを払ってるではないか。


なにしてるんピュア君!!!
しっかりしろ!ピュア君!!


そして、次のターゲットはやはり俺。
神聖なるシヴァ神の前で悪気もなく強烈PUSHをかませてくる。
もちろんNOと言っても言うことは聞かない。


マスター達:「君の友達は1000ルピー払った。君も払ってもらおう」
おれ   : 「DONATIONは、自分自身の気持ちが決めることだろ?YOUに関係ない」

マスター達:「手帳にお前のサインがあるだろ」      
おれ   : 「わかった。はい、10ルピー。」

マスター達:「お前は1000だぞ!」
おれ   : 「だから1000パイサ!」


1ルピー = 100パイサ (パイサはルピーよりさらに小さな通貨単位)


ナイスなアメリカンジョークが時を止める。
ジョジョ風にいうなら『THE ワールド』


マスター達:「いらん。もう帰れ!」
        「でも隣のお前!もう500払え!」


またしても、標的はピュア君に。
まさかと思ったけど、ピュア君、恐る恐る払っちゃってるじゃないの!


ピュアのばかやろう!!

ってかピュア超金持ち!


マスター達は納得したらしく、解散。

おっさんの店に行ってサンダルを履くとおっさん、予定通りおれに21ルピーを請求。

DONATION事件以外は、かなり熱心に説明してくれたし、わかり易かった&お供え・サンダル保管で
最初に言ってきた金額だから、ここは素直に21ルピーお支払い。


寄付しなかったおれに不服なのか、イラついた表情でさらに法外の案内料を請求してきた。

「そんなん最初に言ってなかったし、お願いもしてないから払わない」と言ったら、
「さっさとあっちいけ!」だと。。


平気でこんなん言えちゃうとこが、すごいよなー。


帰り道のピュア君は完全に口数少ない。

インド人に騙されるインド人をはじめて見た。


明らかに落ち込むピュア君は、
「君はHAPPYだろうけど、僕はあんまりHAPPYな気分じゃない」


慌てて励まし。
「きっと君と君の家族に幸せがくるね」


ヒンディーの価値観がわからんから、ピュア君の気持ちはわからんけど、すぐに元気になる。
そして、20ルピーのたばこを1000ルピー札で買おうとして断られるピュア君。


そりゃ無理だろ。


それよりまだ1000ルピー持ってたのか。。
ちなみにその時のおれの所持金90ルピー。


喉が渇いたらしく、路上で売ってる粉末ドリンク屋に俺を誘う。
ご馳走してくれるはいいけど、壺から取り出される水が、使いまわされたコップに並々注がれる。
明らかに現地の水。


そこにココアのような粉末を混ぜて、最後に茶色の粉を上にふりかけ、謎ドリンク出来上がり。

味はココアとカレー粉のMIXしたような味でとてもヘビーな一品。

水的にも3分の1飲んでギブアップ。


飲んでから30分以内はおなかの調子を気にしてバスに乗りこみ、
なんとかホテルのあるサダルストリートに戻ってきた。


そこに日本在住のピュア君フレンドがお出迎え。だがまだ床屋空いてないなかったみたい。



嵐のような1日の始まり。