今住んでいるところからコンサートに出かけるのがなかなかに大変なこともあって、そういう私にはBS NHKのクラシック・コンサートは楽しみの一つになっています。

かなり前になってしまいますが、庄司 紗矢香さんのヴァイオリン・コンサート -昨年の11月にサントリーホールで収録されたもの - を拝聴しました。

彼女に関しては、その華々しいデビューこそ知ってはいたのですが、売上至上主義のような初録音が嫌で、ついついこの放送まで聞き逃していました。早いもので、デビューから10年以上も経っていたのですね。

さて、その演奏ですが、「クロイツェル・ソナタ」の最初の一音を聞いた瞬間に背筋が凍りつきそうになりました。ベートーヴェンがヴァイオリンの魅力を最大限に活かすべく作曲したこの曲の魅力を、隅々まで汲み取ろうとするかのように、時に繊細に、時に力強く、そしてどこまでも美しく響かせます。強弱のつけ方から歯切れのよいピッチカートまで、まったく気の緩みのない集中力で、小さな楽器から波動を柔らかく、果てしなく広げていく姿に、かつてのあどけない面影はありません。

テンポこそは非常にゆっくりとしていますが、この表情の深さと構造の見事さは例えようがありません・・・ふと、この立派な構造は、どこかで耳にしたことがあると思い当たったのが、エミール・ギレリスによるベートーヴェンのピアノソナタ31番です。わずか20代半ばの彼女は、すでに大ピアニストが達した領域に足をかけるまでに至っているのだ、瞬間的にそういう思いが心をめぐりました。

第三楽章に至って、何とも言いようのない高揚感で心が満たされていくことに気づきました。そして、彼女が最後の一音を弾き終えた瞬間、観客席の観衆と一体になって心の中でブラボーを連呼している自分がいました。

是非とも、次回はコンサート会場に足を運びたい、そう思わせるコンサートでした。