本日バイロイト音楽祭でタンホイザーを堪能した。
112回目の開催で、7月25日から8月27日まで続く今年のプログラム、指揮者はタンホイザーはシュトゥッツマンだった。サイモンラトル、小澤征爾の言ってみれば弟子。ほぼ全員が総立ちの、凄いスタンディングオベーションだった。
他の作品の指揮は、トリスタンがビシュコフ、パルシファルがカサド、オランダ人はリーニフ、指輪はヤング。ヤングは始めての登場。
さて、シュトゥッツマンのタンホイザーだけど、彼女は歌手出身だから、もしや、指揮しながら、歌手を兼務するのかな、とこっそり期待したのだが、さすがにそれはなかった。歌の大会を行うというシナリオだから、一曲くらい、アンコールで披露してくれても良いのに。
まぁ、そんなことをするのであれば、昨年が彼女のバイロイト初演で、同じタンホイザーだったのだから、事前にネタバレになるか。
とにかく、あちこちで映像を駆使する凄い演出。演出はクラッツァーの仕事だ。 演出自体は数年前からあるもので、2019年はゲルギエフも振った。その時にみたのだけど、同じ演出ではあるものの、プロジェクション映像は少し変化している。こうした映像を使う演出は、非常に効果的だ。映像を好まない昔ながらの演出を好む人も多いが、僕は好きだ。
今回のバイロイトは、ナタリー・シュトゥッツマン、オクサーナ・リーニフ、シモーネ・ヤングの3人が女性だ。もしかすると、2023年は、チケットが売れ残ったので(たぶん歴史上はじめて)、変化をつけてきたのかもしれない。
ヤングは、シドニーオリンピックで開会式の演奏をした人なので、世界的にも知れ渡っている。本当はジョルダンを登用するはずだったが、キャンセルされたので、ヤングに変更したと発表されたのが、今年に入ってからだった。ジョルダンは、今年が2020から就任したウィーン国立歌劇場での音楽監督の、任期最後の年になるので、そちらに力を入れるのかな。
昨年のザルツブルグは、ジョルダンが見事なマクベスを仕上げた。マクベス役はザルツブルグの華、グリゴリアンが圧倒的な存在感で歌い上げて、素晴らしかった。この時は、なんとジョルダンは代役で、本当はメストが指揮する予定だったので、ピンチヒッターだったわけだから特別な緊張感があったはずだ。珍しくBDメディアで販売されるので、ぜひ聞きたい。DTS-HD MA 5.0chで収録されるようだ。
(残念ながらAuro-3Dは入らない。こういった、ここぞという音楽で採用されてほしいのだけど)
今年のバイロイトは、指輪が2サイクル(zyklus)繰り返される(つまり8夜やる)、非常に恵まれたプログラムになっている。来週に2回目のサイクルがあったあと、最終日に演奏されるのも、今夜と同じタンホイザーだ。
ここのホールは、昔ながらの木造で、圧倒的に音が良い。1Fの席では音がホールに溶け込み、オペラ全体が心地よい。
2Fのバルコンではステージからの直接音がダイレクトに来るので、ドイツ語さえわかれば、何を言っているかわかる(昔のドイツ語でうたうので凄まじい語学力が必要だけど)
なお、未だに古い情報がはびこっているが、この音楽祭では、正装を強要されていない。タキシードの人は、2割程度。10年以上前だと、大半が正装であったのだが、いまやそんな人はいない。理由は簡単、暑いから。
オケのピットは密室でもっと蒸し暑いので、楽団はTシャツである。だから観る我々も、薄いサマージャケットを手にもってゆけば十分であり、しかもカッターシャツは半そでにすべきである。
とはいえ、
グラインドボーンが「オペラの内容は初めてだし知らんしピクニックで酒を楽しむ音楽祭である」、に対し、こちらは、「オペラを知り尽くし予習までしてきて、しっかり中身を楽しむ音楽祭」、である。