高校のとき、夏の日の稽古の想い出話。


 稽古場にはクーラーという涼しくしてくれる文明の利なんてなく、窓を全開。本音は水着でプールで泳ぎたいと思いつつ、廻しで苦しい稽古に励んでいた。そう、強くなるために!でも正直なところ、はやく終わらないかなぁと思うこともよくあった(笑)


 ときおり、部外者の奴が覗いてきて、このクソ暑いのによくやるな~という目でみられていた。稽古場はまるでサウナ状態。でも、直射日光の炎天下でやるわけじゃないんで、まだマシだった。


 そんな熱気ムンムンの稽古場は山に近いというのもあって、いろんな虫が入ってきたりもしていた。セミが入ってきて、大音量で鳴きだしたりもした。どうでもいいけど、セミってあんな小さい体で、ものすごい大きな音を出せるパワーがすごいと思う。自分たちもセミのような大音量ではないが、稽古中に声を出して気合を入れていた。


 で、セミのように大声で鳴いて自分の存在をアピールしてくれる虫ならいいが、自分の存在を消してやってくるやっかいな虫もいた。それは英語で言うと「モスキート」。日本語で「蚊(か)」っていう一文字で表される虫だ。


 いつもはそんなやっかいな蚊を避けるため、稽古のときは「蚊取線香」を焚いていた。しかしながら、たまに忘れたりして蚊取り線香を焚かないこともあった。そんなとき、蚊は汗臭い相撲部員の血がごちそうだとやってくるのであった。そんなわけで、蚊に襲われることがよくあった。


 四股を踏んでいると、耳元にぶ~んとやってきたりしてイライラ。汗をいっぱいかく重量級のHなんて蚊にとってはかっこうのターゲットで体中至る場所の血を吸われてた。献血してるのか?って聞きたくなるくらいどんどん蚊がやってきてたので、自分の体をバンバン叩きまくってた。どんだけ吸われとんだと見てる分には面白かった。


 蚊に血を吸われた跡は、膨らんで痒くなってしまう。Hには足やら腕やらいろんな場所に血を吸われた跡があった。しかし、全然痒くないと言っていた。どういう神経をしてるんだ(笑)


 そんな自分もいっぱい血を吸われていた。どういうわけか自分の場合はいつもお尻の血ばかり吸われて、お尻がすごい痒かった。


 で、その日はピンチにみまわれた。お尻だけじゃなく、股下のあたりも痒くなってきたのだ。タマタマの裏側もすんごい痒い。どうやって入ったのか蚊が廻しの中に入り込んで、血を吸ったらしかった。下半身を集中攻撃され、あまりの痒さに苦しんだ。でも、そこはかくわけにはいかない。かくとイン〇ンと思われるから!正直に痒いって言うと、何を言われるかわからない。だから、「我慢だ~!!」と必死に我慢してた。そしたら主将の先輩に「いつもより気合入った顔をしてるな!」と言われたりもした。


 痒みはどんどん増していった。ムズムズとどうしようもなく痒い。そうだ、そういうときは声をだして気合を入れるんだ。暑さと痒さで、わけのわからんことを叫んでた(笑)


 じっとしていると痒いのでとにかく動いたりもした。でも、限界だったんで、周りにバレないように、密かにかいた。最初は廻しの上からかいたが、生地が厚いので痒みが消えてくれず。だから、前袋の上から軽く掴むような感じでかいたりして痒みを和らげていた。痒みを消すってのは快感なんだとそのときおもいしった(笑)


 一度かくと癖になってしまって、稽古の途中でさりげなく何度もかいていた。もちろん誰もみてないのを確認しながら(笑)ちなみに相撲を取っているときは痒みは感じなかった。


 そんで、稽古の途中のことだった。その日は主将の先輩に気合が入っていると評価され、稽古相手にされていた。稽古はもち真剣にやっていた。そんな空気の中、相手の主将の先輩が突然、自分の下半身を指差して言った・・



  「いちもつが出てるぞ!」


 それを言われてあわてて確認すると、なんと自分のいちもつが前袋の横からひょっこりと顔をだしていた。あそこをかきすぎて、廻しがゆるくなりすぎていたのだ。あわてていちもつをしまって、廻しを締めなおしたが、周りの爆笑の波はしばらくおさまらなかった。あのときの恥ずかしさときたら、穴があったら入りたい。



 それ以来、廻しに虫除けスプレーをつけるようになったとさ。めでたし、めでたし!?



追伸 本当はいちもつはひょっこりと顔を出したわけじゃなく、横から見たらみえたくらいだったんですが、ちょっと大袈裟に言ってみました(笑)