長いコピペですが、興味のある方はどうぞ。

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谷口恭の「梅田のGPがどうしても伝えたいこと」

新型コロナで患者激減、だから医療通訳は不要でいいのか?
2020/06/16
谷口 恭(太融寺町谷口医院)
プライマリケア
外国人医療
新型コロナウイルス感染症
COVID-19
 このコラムを開始するきっかけは僕が主催して開催した「関西の外国人医療を考える会」だった。「診察を拒否された」「たらいまわしにされた」といった外国人患者からの声が急激に増えており、また、太融寺町谷口医院(以下、谷口医院)から、病院に紹介したいと依頼しても却下されるケースが非常に多く、このままでは外国人がまともな医療を受けられなくなると考え、日本プライマリ・ケア連合学会でのセッションをきっかけにこの会を立ち上げたのだ。そして、それをPRさせてほしいと日経メディカルにお願いしたところ、「それなら連載を持ちませんか?」と言われたのが経緯だ。

 「関西の外国人医療を考える会」を始めたおかげで、大勢の医療者が外国人医療に関する悩みを抱えていることが分かり、医師以外の医療者、看護師、薬剤師、医療通訳の人たちや、さらに外国人医療に貢献したいと考えている学生とも意見交換をすることができたのは僕にとって収穫だった。この連載を読んで外国人医療に興味を持ったという人からもメールをいただき、これはとても嬉しい。これからも外国人医療の重要性・必要性を訴え続けていきたいと考えている。

 そんな外国人医療が大きな変化を迎えている。COVID-19の影響である。

 谷口医院は繁華街の近くに位置していることもあり、つい最近までは近隣のホテルからよく問い合わせがあった。「宿泊中の外国人が〇〇を訴えているから診てほしい」というものだ。谷口医院ではその患者(もしくは家族)が英語(か日本語)を話せば原則断らない方針だ。母国語が英語以外の外国人もたいていは英語がある程度はできる(少なくとも多少の読み書きはできる)ので、実際には断ったことは(ほぼ)ない。

 コンスタントにあったホテルからの依頼が3月以降皆無となり、また4月以降は海外からの旅行者を診る機会もほぼゼロとなった。日本在住の外国人はこれまで通り通院しているが、患者数は減少傾向だ。

コロナ不況で減る外国人、だが医療へのニーズは増えている

 外国人の患者が日本全体で大きく減少しているのは事実なのだから、全国的にも「外国人医療に積極的に取り組まねば」という声は急激に減っていることが予想される。医療通訳の採用を見合わせる(あるいは解雇する)病院も既にあると聞くし、外国人を積極的に診ようと考えていた若い医師や看護師が将来の方向性を見直すかもしれない。つい最近まで、「オリンピックに向けて外国人を受け入れる体制を!」といろんなところで言われていたのが遠い過去のようだ。

 先日、あるメディアの記者から「関西在住で日本の医療問題にコメントしてくれる外国人を探してほしい」という依頼を受け、早速、谷口医院をかかりつけにしている外国人数人にメールをしてみた。驚くことに、そのうちの数人は既に帰国しており母国から返事が届いた。その取材を受けてくれたフランス人からも「COVID-19のせいで仕事がなくなり帰国することにした」と連絡が来た。

 現在も主に生活習慣病で定期的に受診している英国人からは、「仕事を解雇されてうつ病を再発した。日本が大好きだが、いつまでいられるか分からない」と言われた。いつもハイテンションでジョークの絶えない米国人が先日受診したときは「いつ解雇されるか分からず眠れない。睡眠薬を処方してほしい」と訴えられた。

 当院が気に入っていると言ってくれていた外国人が次々と帰国していくのはやはりどこか寂しいものだ。「医療機関は受診しないのが理想」と繰り返し、「患者と医師は友達になってはいけない」と言い続けている僕も、どこかで患者との結び付きを求めていたのかもしれない。

 だが、センチメンタリズムに陥っている場合ではない。上述したように、COVID-19のせいで精神に不調を来す外国人は増えている。言葉が十分に通じない外国で、不透明な将来に不安を抱え、いつ解雇されるか分からない緊張感を持って生活するのはかなりの苦痛であることは想像に難くない。帰国すればいいではないか、という声があるかもしれないが、彼(女)らの多くはそもそも日本が好きで、中には日本に永住するくらいの覚悟でやってきている人たちもいるのだ。既に一戸建て住宅を買ったという外国人もいる。それに、コロナ不況は母国に戻っても同じだろう。すぐに仕事が得られる保証はない。

 僕は医療ツーリズムというものにまるで興味がなく、経済目的でインバウンドを増やすという政策にも関心が持てない。だが、日本が好きでやってくる外国人が医療に関連する困りごとがあるときに医療機関を受診できないという不条理には耐えられない。英語を話しているのに受診拒否されるのは世界広しといえども(ほぼ)日本だけ、なのだ。

 先日、ある医療者から「先生(僕のこと)はどうして新型コロナの患者を積極的に診るのですか?」と問われた。実際に見ているのはCOVID-19患者というよりも、発熱が原因で他院から断られた患者、保健所に相談して冷たくあしらわれた患者、客観的には不定愁訴なのだが自身はコロナに違いないと思い込んでいる患者、“ポストコロナ症候群”と思われる患者(関連記事:長期的視野で「ポストコロナ症候群」に備えよ!)、thinkihadititis(関連記事:「私きっとコロナ流行前に感染していたと思う病」が日本でも流行中!? )が疑われる患者などが多いのだが、これら全てに共通しているのは「行き場をなくした人たち」だ。

 これは「診察拒否はいけない」とかそういう理屈でなくて、僕はこういう人たちをどうしても放っておけないのだ。「医療は誰にでも平等」と言えば、正論のきれいごとに聞こえるが、そういうものではなくて、「身体や精神のことで困っているのに(それは治療の対象でなかったとしても)医療機関に拒否された」ということに耐えられないのだ。そういう意味で、COVID-19関連のことで医療機関から拒否された人たちと、外国人だからという理由で拒否された人たちは僕にとって共通するところがある。

 もっと言えば、僕が開業を急いだ理由の一つは「HIV陽性の人たちに貢献したい」というものであった。今では随分と改善されたが(とはいえ「札幌ケースワーカー内定取り消し事件」関連記事:「HIV内定取消事件」で医療者の取るべき行動とは?」のような許しがたい事件が今もある)、開業した2007年当時は、HIV陽性者を診ているクリニックはほとんどなく、(エイズ拠点病院以外の)大きな病院でさえも受診を拒否されたという“事件”は枚挙に暇がなかった。だから彼(女)らは、HIV感染を伏せて、抗HIV薬を内服していることを隠して医療機関を受診していたのだ。当時よく使用されていたプロテアーゼ阻害薬は薬剤の相互作用が複雑なのだがそれを言い出せず副作用のリスクを抱えていたのだ。

 最近はHIV陽性者を診ないという医療機関は減ってきていると思う。ただし、いまだに「HIVは診ません」と言う医療機関や医師が多く、現在でもとても満足していいレベルではないが(関連記事:HIV陽性者の診療拒否は「日本の医療の恥」だ)。COVID-19に関していえば、ワクチンや特効薬の登場はまだ待たねばならないが、PCRが唾液で採取できるようになったことで状況は変わっていくのではないだろうか。これまではエアロゾル対策が十分にとれないという理由でクリニックから拒否されていた症例も、今後はインフルエンザなどと同じように一般のクリニックでも診察できるようになるのではないだろうか。

 問題は外国人である。COVID-19の影響を受け外国人の患者が減ったが故に外国人医療に対する取り組みがなおざりになり、これまでよりも受診しにくくなるという事態は防がねばならない。

 最後に、これを読んでくれている全ての医療者に問うてみたい。

 あなたが好きな国を訪れて医療が必要になったとき(世界共通語であるはずの)英語を話して受診を拒否されたらどんな気持ちになりますか? 日本が大好きで日本にやってきた外国人が医療機関を受診して英語で病状を訴えたとき、我々医療者はどうすべきでしょうか?