ありがとう/感謝【前編】 | 車椅子の会サイレントフット toshiのブログ

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その喜びは独りぼっちの小さな力を大きな力に変えていく。
皆で分かち合えることがサイレントフットの大いなる喜びです。

NHK厚生文化事業団/障害福祉賞…エントリー「選外」作品

(作)佐藤利章(車椅子の会サイレントフット)

第二章「ありがとう/感謝」【前編】

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(脊髄梗塞)

数日後、K医師より検査の
結果が伝えられた。

「病名は脊髄梗塞です」…
「発症の原因については不
明です」…「治すことは出
来ません」

「脊髄梗塞?」聞いたこと
のない病名だった。


医師の説明では、脊髄神経
が何らかの原因で破裂して
出血を起こし、下半身に行
く神経を妨害しているとの
ことであった。


簡単な話し、脳梗塞の症状
が脊髄で発症した様なもの
らしい。


確かにMRIの画像で脊髄
の8番~10番当たりが、
にじむ様に濃く写り、出血
していることを物語ってい
た。


「本当に治らないのですか
?」疑う私に医師は、「治
るのは奇跡ですよ」そう答
えた。


私は二度と歩くことが出来
ない死の宣告とも言える言
葉を淡々と話す医師の説明
に、納得が出来ず怒りを感
じた。


私は悔しさと信じられない
思いで、医師の言葉を聞き
ながら太股をつねった。


太股は、医師の言葉を証明
するかの様に何の反応も示
さず静かに清閑していた。

心の中では、「なぜ…?ど
うして…?」と繰り返し何
も考えることが出来なかっ
た。



(心の変化)

8月3日の暑い夏の時期、
私はKリハビリテーション
病院(通称、Kリハ)に転院
をした。


KH病院は、治療目的の病
院で、治療方法が無い私の
病は転院を余儀なくされ、
障害者としてのリハビリを
受ける以外に道は無かった。


Kリハは、障害を持つ人た
ちが社会復帰をするための
厚生施設の様な所で、院内
では、車椅子で逞しく動き
回る人たちが各々の訓練に
励んでいた。


医師から、「治ることは無
い」と告知を受け、絶望を
感じる私には、懸命にリハ
ビリを受ける人たちが妬ま
しく思えた。


「障害を追った身体で何の
ために頑張るんだ」私は心
の中で懸命にリハビリする
人たちを嘲笑った。


私は、不安と苛立ちの中で
自問自答を繰り返すうちに
肉体のみならず心に大きな
障害を追っていた。


心のコントロールを失った
私は、「こんな身体で生き
ていて何になるのだ!」と
不自由な身体を憎み、先の
見えない人生に不安を感じ
ながら、未来を放棄するこ
とを考えていた。


転院して3日目の夜のこと
、不安が頂点に達していた
私の思考に「死にたい、死
のう…」そう強く感じた。

私は、車椅子に乗り人目を
避けて、非常灯で照らされ
た薄暗い廊下を進んだ。


ひっそりと静まり帰る非常
階段の手前で立ち止まり、
下り階段を見つめた。


「このまま車輪を前に押せ
ば階段から落ちる」そう思
った。


私は、車輪を前に進め階段
の手前で止まり、目を閉じ
て今までの出来事を振り返
った。


脳裏には、これ迄の楽しか
ったことや家族、友の顔が
走馬灯の様に蘇った。


「今までありがとう…そし
て、ごめんなさい」そうつ
ぶやき、ゆっくり目を開け
、階段を見つめ直した。


「ここから落ちれば、死ね
る!」そう思った瞬間、身
体の震えで手が動かない。

あと5センチ前に進めば落
ちるのに…「怖い!死にた
くない!」突然、強い恐怖
を感じた。


死に対する恐怖を感じて震
える私は、その場から動く
ことが出来なくなっていた。


中途半端な決意でその場に
居る自分を情けなく思い、
死に対する恐怖に震える我
が身がいとしく思えた。


しばらくすると震えも止ま
り、階段を後にした私の心
には、ポッカリと穴が空き
孤独感と人生への不安感か
ら心の行き場を失っていた。


私は、「どうすれば良いの
か?」消灯を過ぎ、静まり
帰る病室のベッドの上で考
えたが、答えが出ないまま
寝付けない長い夜を過ごし
た。


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本日もお付き合いくださいありがとうございました音符
次回は第二章「ありがとう/感謝」【後編】をご紹介しますメモ
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