「静寂機械」//-002
夜の種族のみなさんこんばんは。
静寂をたたえた夜の時代、芸術が魔術だったころに思いを馳せて
さて今宵から数回に分けて物語を書きます。
タイトルは「静寂機械」
-招待状-
まだ誰も知らない秘密の劇場に招かれた。
古い紙特有のすえた匂いと真新しいインクの匂いが混ざりあった招待状には、日付と場所がひっそりと記されていた。差出人は古くからの友人。
彼(または彼女)がここ数年どこで何をしていたか消息は聞いていないものの突然配達されたその招待状にはたいそうな魅力を感じざるを得なかった。
彼(または彼女)は私と親交のあったころ「音」を創りだすことに熱心だった。いや熱心というにはあまりにも偏執狂的な態度で全ての時間を「音」に注いでいた。そんなありさまなので次第に友人達も離れてゆき最後は私が唯一の話し相手としていくつかの季節を過ごした。しかし私も自分の人生が複雑になりすぎていて彼(または彼女)との時間は次第に減ってゆき、その付き合いは少しずつ記憶の暗部へと沈んでいったのである。
-香水瓶-
開演時間までまだ間があるからだろうか、入り口から覗き込んだテントにはまだ明かりも灯っていず、観客は一人も見当たらなかった。町外れの掘削機の音が微かに聞こえてくる以外はまったくの静寂と僅かな香の薫りがテントの内部を支配していた。
ほんのりと小さな明かりのついた方へテントのカーブに沿って歩くと分厚い布製のテント生地がバサバサと音をたて、その空間が予想外に大きなものである事を感じさせた。
明かりの場所に到着するころには寒い季節にそぐわない汗が額に滲んでいた。
空っぽの香水瓶や古い画集と楽譜、閉じられたままの小さな詩集が乱雑に載せられた木製のテーブルに置かれた布製のシェードランプが明かりの正体だった。
-彼(または彼女)-
小さな詩集を手に取ってハラハラとめくっていると背後で物音がしたので振り返るとそこに彼(または彼女)があの頃と同じ複雑な笑顔を見せて佇んでいた。
静寂をたたえた夜の時代、芸術が魔術だったころに思いを馳せて
さて今宵から数回に分けて物語を書きます。
タイトルは「静寂機械」
-招待状-
まだ誰も知らない秘密の劇場に招かれた。
古い紙特有のすえた匂いと真新しいインクの匂いが混ざりあった招待状には、日付と場所がひっそりと記されていた。差出人は古くからの友人。
彼(または彼女)がここ数年どこで何をしていたか消息は聞いていないものの突然配達されたその招待状にはたいそうな魅力を感じざるを得なかった。
彼(または彼女)は私と親交のあったころ「音」を創りだすことに熱心だった。いや熱心というにはあまりにも偏執狂的な態度で全ての時間を「音」に注いでいた。そんなありさまなので次第に友人達も離れてゆき最後は私が唯一の話し相手としていくつかの季節を過ごした。しかし私も自分の人生が複雑になりすぎていて彼(または彼女)との時間は次第に減ってゆき、その付き合いは少しずつ記憶の暗部へと沈んでいったのである。
-香水瓶-
開演時間までまだ間があるからだろうか、入り口から覗き込んだテントにはまだ明かりも灯っていず、観客は一人も見当たらなかった。町外れの掘削機の音が微かに聞こえてくる以外はまったくの静寂と僅かな香の薫りがテントの内部を支配していた。
ほんのりと小さな明かりのついた方へテントのカーブに沿って歩くと分厚い布製のテント生地がバサバサと音をたて、その空間が予想外に大きなものである事を感じさせた。
明かりの場所に到着するころには寒い季節にそぐわない汗が額に滲んでいた。
空っぽの香水瓶や古い画集と楽譜、閉じられたままの小さな詩集が乱雑に載せられた木製のテーブルに置かれた布製のシェードランプが明かりの正体だった。
-彼(または彼女)-
小さな詩集を手に取ってハラハラとめくっていると背後で物音がしたので振り返るとそこに彼(または彼女)があの頃と同じ複雑な笑顔を見せて佇んでいた。