以前関東大震災のときの朝鮮人虐殺についての記事を書いたのですが,できて間もないブログなのに来訪者が急増して,関心の高さが伺われました。
ただ,記事を読んだ人の中にも,”そうは言っても朝鮮人が略奪を働いて回ったのは事実だろ!”と反感を抱いた方も少なくないと思います。この記事は,そうした方のために書きます。
…”朝鮮人が井戸に毒を入れて回った!”とか,”半島から皇太子を暗殺しに来たテロ集団がいた!”とか信じてる電波な人はさすがに対象外。相手するのがしんどすぎるから。
とりあえず写真という明確な実例がある,ハリケーン・カトリーナの事例から考えてみましょう。カトリーナの際には,”なぜ黒人やラテン系ばかりが略奪に奔ったのか?”が議論されました。
以下の写真はいずれも,そのカトリーナの被災地域で撮影され,AP通信とAFP通信を通じて配信されたものです。
1枚目。
有色人種の少年です。キャプションには"after looting (略奪の後)”と書かれています。
2枚目。
有色人種の男性です。こちらのキャプションには"A looter(略奪者)”と書かれています。
3枚目
白人の男女です。キャプションには”Two residents...after finding(住民は…食料品などを雑貨屋で見つけてきた)”と書かれています,”buying”でも”looting”でもないところがミソですね。道徳的に非難するニュアンスは一切ありません。経済活動が途絶した被災地で生き延びるためにやむを得ない行為とみなされたということでしょうね。
これらの写真を比べてみると,その違いははっきりと分かるでしょう。有色人種と白人は,同じ行為を行ったとしても,道徳的にまったく異なる意味を付与されるということです。有色人種ばかりが略奪を行ったのではなく,同じ行動を取ったとしても,有色人種は略奪を行ったと解釈されたのに対して,白人はそうは解釈されなかったのです。
より厳密な実験においても,同様の現象が示されています。
例えばPayne (2001)では,黒人の顔をプライム(先行刺激)として提示した場合には,白人の顔をプライムとして先行刺激として提示した場合よりも,銃を素早く銃だと同定し,また銃でない画像を銃だと誤認する確率も高まることが示されています(これはおそらく,黒人を,銃を持っていると誤認して射殺してしまうというような悲劇の原因の一つでしょう)。
またWittenbrink,Judd, & Park (1997)などの多くの実験で,黒人(単語や顔写真)をプライムとして用いた場合には,白人をプライムとして用いた場合よりも,ネガティブな概念がより活性化されている
(たとえば単語の判断時間が早まる)ことが示されています。
こうした現象は,社会心理学者の間では潜在的偏見(implicit prejudice)と呼ばれ,近年盛んに研究されてきた現象の一つです。
この過程の怖いところは、本人の意図・意識しないところでそっと忍びこんでくるところです。
どんな風にかは、ハーバード大学の“IATテストホームページ”で試してみてください。まず自分が他の人よりどっち側を、どのぐらい好意的に評価しているかを予想してみてからテストしてください。もしかしたらあなたの予想通りの結果が出るかもしれないし、予想と全く違う結果がでるかもしれない。
日本においてはどうでしょうか?
髙(2008)は,在日朝鮮人に対する潜在的偏見を測定しました。その結果,やはり日本人も,在日朝鮮人に対する潜在的な偏見を抱いていることが示されました(リンク先の学会論文集は0との差を比較していないけれども,0との差は有意――偶然とは思えないぐらい偏っていたということ――で,在日朝鮮人にネガティブでした)。(この段階でサンプルが小さいことなどについてはこちら:専門用語の分からない方のために説明すると朝鮮人に対する態度の場合自分で意識する態度と無意識・無意図に忍び込んでくる態度の間にはほとんど関係が見られないということです)。
つまり,カトリーナの例と同様に,日本人と朝鮮人の行動に異なる意味づけをするだろうと,考えられるのです。
もちろん,そうしないと生命に関わるからといって,震災で破壊された商店から物品を調達ないし略奪した朝鮮人は,許されないかもしれません。火事場泥棒は,日本人の最も嫌う犯罪の一つです。
そして他者――日本人――も同じことをしていたからといって,朝鮮人の犯罪を相対化し,不問にするのも,ばかげたことかもしれない。
ちょうど,放っといても列強の植民地になるからといってアジアを侵略した火事場泥棒を正当化したり,それを他の帝国主義国もしていたのだからと相対化したりすることがばかげたことであるのと同様に。
でも,もし震災下の日本人が,朝鮮人に対して偏見を持っていなかったら。朝鮮人の行動を,日本人の行動を見るのと同じ目で見ることができていたら。そう考えるのは,多分有意義なことだと思うのです。
事実にまったく基づかないデマや,悪意のある流言飛語――関東大震災のときの虐殺では,軍や警察などによる組織的な流言飛語や虐殺もかなり重要だったのですが――の類は,また別の話ですが。
*これはけっして、震災下では誰もが略奪するというシニカルな考えではありません。物資を持っている人がそれを出し合い、支えあってほしいのです。
◆引用文献◆
・Payne, B. K. (2001). Prejudice and perception: The role of automatic and control led processes in misperceiving a weapon. Journal of Personality and Social Psychology, 81, 181-192.
・Wittenbrink, B., Judd, C. M., & Park, B. (1997). Evidence for racial prejudice at the implicit level and its relationship with questionnaire measures. Journal of Personality and Social Psychology, 72, 262-274.
*画像はいずれもYAHOO!NEWSより引用しました。
ただ,記事を読んだ人の中にも,”そうは言っても朝鮮人が略奪を働いて回ったのは事実だろ!”と反感を抱いた方も少なくないと思います。この記事は,そうした方のために書きます。
…”朝鮮人が井戸に毒を入れて回った!”とか,”半島から皇太子を暗殺しに来たテロ集団がいた!”とか信じてる電波な人はさすがに対象外。相手するのがしんどすぎるから。
とりあえず写真という明確な実例がある,ハリケーン・カトリーナの事例から考えてみましょう。カトリーナの際には,”なぜ黒人やラテン系ばかりが略奪に奔ったのか?”が議論されました。
以下の写真はいずれも,そのカトリーナの被災地域で撮影され,AP通信とAFP通信を通じて配信されたものです。
1枚目。
有色人種の少年です。キャプションには"after looting (略奪の後)”と書かれています。
2枚目。
有色人種の男性です。こちらのキャプションには"A looter(略奪者)”と書かれています。
3枚目
白人の男女です。キャプションには”Two residents...after finding(住民は…食料品などを雑貨屋で見つけてきた)”と書かれています,”buying”でも”looting”でもないところがミソですね。道徳的に非難するニュアンスは一切ありません。経済活動が途絶した被災地で生き延びるためにやむを得ない行為とみなされたということでしょうね。
これらの写真を比べてみると,その違いははっきりと分かるでしょう。有色人種と白人は,同じ行為を行ったとしても,道徳的にまったく異なる意味を付与されるということです。有色人種ばかりが略奪を行ったのではなく,同じ行動を取ったとしても,有色人種は略奪を行ったと解釈されたのに対して,白人はそうは解釈されなかったのです。
より厳密な実験においても,同様の現象が示されています。
例えばPayne (2001)では,黒人の顔をプライム(先行刺激)として提示した場合には,白人の顔をプライムとして先行刺激として提示した場合よりも,銃を素早く銃だと同定し,また銃でない画像を銃だと誤認する確率も高まることが示されています(これはおそらく,黒人を,銃を持っていると誤認して射殺してしまうというような悲劇の原因の一つでしょう)。
またWittenbrink,Judd, & Park (1997)などの多くの実験で,黒人(単語や顔写真)をプライムとして用いた場合には,白人をプライムとして用いた場合よりも,ネガティブな概念がより活性化されている
(たとえば単語の判断時間が早まる)ことが示されています。
こうした現象は,社会心理学者の間では潜在的偏見(implicit prejudice)と呼ばれ,近年盛んに研究されてきた現象の一つです。
この過程の怖いところは、本人の意図・意識しないところでそっと忍びこんでくるところです。
どんな風にかは、ハーバード大学の“IATテストホームページ”で試してみてください。まず自分が他の人よりどっち側を、どのぐらい好意的に評価しているかを予想してみてからテストしてください。もしかしたらあなたの予想通りの結果が出るかもしれないし、予想と全く違う結果がでるかもしれない。
日本においてはどうでしょうか?
髙(2008)は,在日朝鮮人に対する潜在的偏見を測定しました。その結果,やはり日本人も,在日朝鮮人に対する潜在的な偏見を抱いていることが示されました(リンク先の学会論文集は0との差を比較していないけれども,0との差は有意――偶然とは思えないぐらい偏っていたということ――で,在日朝鮮人にネガティブでした)。(この段階でサンプルが小さいことなどについてはこちら:専門用語の分からない方のために説明すると朝鮮人に対する態度の場合自分で意識する態度と無意識・無意図に忍び込んでくる態度の間にはほとんど関係が見られないということです)。
つまり,カトリーナの例と同様に,日本人と朝鮮人の行動に異なる意味づけをするだろうと,考えられるのです。
もちろん,そうしないと生命に関わるからといって,震災で破壊された商店から物品を調達ないし略奪した朝鮮人は,許されないかもしれません。火事場泥棒は,日本人の最も嫌う犯罪の一つです。
そして他者――日本人――も同じことをしていたからといって,朝鮮人の犯罪を相対化し,不問にするのも,ばかげたことかもしれない。
ちょうど,放っといても列強の植民地になるからといってアジアを侵略した火事場泥棒を正当化したり,それを他の帝国主義国もしていたのだからと相対化したりすることがばかげたことであるのと同様に。
でも,もし震災下の日本人が,朝鮮人に対して偏見を持っていなかったら。朝鮮人の行動を,日本人の行動を見るのと同じ目で見ることができていたら。そう考えるのは,多分有意義なことだと思うのです。
事実にまったく基づかないデマや,悪意のある流言飛語――関東大震災のときの虐殺では,軍や警察などによる組織的な流言飛語や虐殺もかなり重要だったのですが――の類は,また別の話ですが。
*これはけっして、震災下では誰もが略奪するというシニカルな考えではありません。物資を持っている人がそれを出し合い、支えあってほしいのです。
◆引用文献◆
・Payne, B. K. (2001). Prejudice and perception: The role of automatic and control led processes in misperceiving a weapon. Journal of Personality and Social Psychology, 81, 181-192.
・Wittenbrink, B., Judd, C. M., & Park, B. (1997). Evidence for racial prejudice at the implicit level and its relationship with questionnaire measures. Journal of Personality and Social Psychology, 72, 262-274.
*画像はいずれもYAHOO!NEWSより引用しました。