バイクを魔法石蔵之助に収めて、路地を花猫三世と歩き出す。
昼間でも薄暗い。
「ここらにあるの?」
旅路の途中、花猫三世の黄金時代の古巣に寄ることになった。
「ああ、この店だ」
扉を開け、店を見渡す花猫三世。
マスターが「花猫三世じゃないのかいっ?」と声をあげると、店でくだびれていた男たちの大半が、え、と驚いた。
「まさか、まだみんなたむろしてたの?」
「お嬢ちゃんっ」
「レイモンド?」
「そうだよ、レイモンドだよ。待っていて、今みんなそろえるからね~」
そう言って店を飛び出した男を見送り、花猫三世は囲んでくる男たちと挨拶をかわす。
中には泣き出すやつもいて、昔何があったんだろう、と思った。
一時間くらいして、レイモンドなる男が複数人つれてきてからは、店の雰囲気に大きな花が咲いた。
話に花咲かせながら酒をあおり、カウンターにのぼった花猫三世が言った。
「今日は私のおごりだ。飲んでくれっ」
「僕が昔のように音頭をとるよ。さぁ、みんな、そろそろ彼女の誕生日だ。宴を楽しもうっ。乾杯っ」
勝手に酒をかざすと、一杯を一気飲みして倒れるレイモンド。
眠っている。
「レイモンドが倒れた!乾杯っ」
店をかしきって始まった宴に、壁際の花をしている俺は、そのはしゃぎぶりに少し呆れている。
さすがに宴三日目でへろへろになった彼らから花猫三世を取り戻し、勘定をしてホテルに戻った。
しばらく眠り続けた花猫三世は、目を覚ますと、まるで夢を見ているようだと幸せそうに言った。
彼女が風呂に入っているあいだに、バルコニーにディナーを用意してもらった。
彼女がバルコニーに出てきたところを見計らって、電飾が光りだした。
花束を贈る。
ふたりでディナーをして、加工した人魚の涙のイヤリングを彼女に渡した。
「嬉しい」
「綺麗だよ」
「ありがとう・・・お礼に・・・」
「なに?」
彼女は耳元でささやいた。
「今晩から、パーティー兼恋人でいいわよ」
「なんだって」
突然ほほに軽いキスをされて、驚きをかくせなかった。
「関係はゆっくり進めたいな」
「気長に?」
「そう」
「それがいいね」
そう言った時、ほぼ同時に、予約しておたいた花火が夜空にいくつか咲いた。
「誕生日おめでとう」
来年の誕生日を迎えるかどうか・・・それが俺の寿命だ。
【日記系小説:旭ヶ丘シリーズ 第12話】
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