横領罪における不法領得の意思については、どの本を読んでも、腑に落ちない悩みどころの多いか所かと思います。


以下は、私なりのサブノートです。

あらたな考え方の発見あれば改訂していきますが、今のところ以下のような理解で整理しています。

客観面

ア 自己の占有する

イ 他人の物を

ウ 横領した(領得行為)

  権限逸脱行為

  +

  不法領得の意思 ✳1✳2✳3✳4

  ①委任の趣旨に反して所有者でなけれ  

   ば出来ない処分をする意思

  ②委任の趣旨に反して物の効用を享受

   する意思

エ 横領結果


主観面

 故意

✳1

横領罪においては、自己の占有する他人の財物の不法領得それ自体が実行行為の内容とされることから、不法領得の意思の位置付けが窃盗罪なとどと異なる(ここに気づくことが出発点)。

横領罪においては、不法領得の意思は横領行為の客観面で検討することになる(主観的超過要素ではない)。


✳2
不法領得の意思があってはじめて領得罪としての所有権に対する危険が生じる。
このことは、窃盗罪などと横領罪とで同じ。
ただし、横領罪においての不法領得の意思は、たとえば殺人罪における実行の着手時期が、行為者の動機目的計画によりその客観的危険性が決まりその結果、実行の着手時期が前倒しされるという考え方(クロロフィルム事件)、と同じような位置付け(似ている)なので、主観的超過要素として要求されている窃盗罪などにおける不法領得の意思とはその位置付けが異なる。

窃盗罪など

 故意を検討したあとに、主観的超過要素として検討する。

横領罪

 横領行為(領得行為)と客観的にいえるかところで、主観(横領罪の不法領得の意思)を考慮して検討する。

横領罪においては、不法領得という動機目的計画があるがゆえに、単なる権限逸脱行為が、(利欲目的による所有権侵害行為として重く処罰されるべき)領得行為と評価されることになる。

横領罪おいては、不法領得の意思が認められなければ、客観的にみて既に横領行為ですらないわけである(越権行為ではありうる)。


✳3
窃盗罪などと異なる点
1 所有者でなければできない処分をする意思

  ⇒異なる(が実質的には同じ)
占有を奪うことによる「権利者の排除意思」は問題とならない。
その代わりに、所有者でなければできない処分をする意思が要求される。
もっとも、これは、占有を奪うわけではないことからの修正にすぎない。実質的にみれば窃盗罪などと同様の振る舞う意思に相当する要件が要求されているといえる。

2 横領罪では①②ともに、委任の趣旨に反する意思が必要

  ⇒異なる
窃盗罪などと異なり、横領罪では、①②ともに、委任の趣旨に反する意思が要求されている(横領罪においては、本質的に、委任の趣旨に反することが要求される)。


3 利用処分意思

  ⇒異ならない(学説)、異なる(判例)
横領罪では、利用処分意思は、判例は不要としているが、学説は必要とする(なので、学説を前提とすると異ならない。)。

4 第三者取得意思

  ⇒異ならない(学説)、異なる(判例)
学説

 窃盗罪では、自分の利益につながることを予定している場合には、第三者取得意思でも不法領得の意思あり。
 横領罪でも、自己の利益につながることを予定している場合には、第三者取得意思でも不法領得の意思あり。

判例

 窃盗罪では、学説と同じ。

 横領罪では、自己の利益につながらないことを予定している第三者取得意思でも、不法領得の意思ありとすると思われる。


✳4

①+②どちらも必要。

 一時横領は、②はあるけど①がない。

 毀棄隠匿は、①はあるけど②がない