今から20年ほど前 近所の バス停のそばの 

小さな小さな本屋さんの主人と 仲良くなりました

30代の若い店主でしたが 客の来ないときは 

カウンターの向こうで 本に視線を落としているから

ジャンルをたずねると 文芸とわかりました

「どんな小説が好きなんですか」

「馳星周(はせ・せいしゅう)なんか好きです

彼はちょっと恥じらいをこめ 答えてくれました 

 

選曲: 言海 調

 

本好きなんだなとおもって 親しみを感じ

「これ僕が書いた本なんですけど 置いてもらえませんか」 

と ダメもとで頼んでみたら こころよく棚に一冊分あきを

確保してくれ  置いてくれたんですね

それが 『サラベポポと魔法のコイン』でした 

しばらくして「売れましたよ」と嬉しそうに言っていました

 


何の変哲もない外観でありながら(フランチャイズ店か)

しかし やっている人からしてありきたりではない書店 

なんらかユニークさを 嗅ぎつけると 

インタビュー取材したくなる 

ジャーナリスト魂が むっくりと起き出します

 

 

書籍のライターや 雑誌の編集記者をやってきて  

当時 何年も続く慢性的な出版不況を背景に 

出版社がつぶれていったり プロの文筆家や作家が 

苦労しているのを まのあたりにして

常に問題意識をもって 考えてきましたから

これは 現場の声を聞くいい機会とおもって  

まず、店主にぶつけてみた質問は・・・

 

 

Q.現在の出版業界の現状と書店さんの悩みは?

 

A.「何を売っていいのか、戸惑っている書店が多いでしょう。結局、書店はリスクを冒さないために大手出版社が大々的に仕掛けをし話題づくりをする少数の本にしか手を伸ばさない。けれど、読者はほとんど気まぐれな消費行動しかしないですからね」

 


ここから見えてくるのは 

書店は よほどしっかりした方針をもって 

売ることができないと生き残れない 

そういうことが求められているのだ ということでした

あてもなく店内をぶらぶらし面白そうな本物色するお客に

なんらアピールするものもなく 商品を積んでおくだけでは 

読者の啓発や 読書の質の向上につながらないでしょう 

 

 

「話題の本」という 或る意味 「幻想」をつくりだして

購買行動に走らせるのが 「うお座♓時代」の売り方でした

そんな商業戦略に乗っかる読者の 集合意識が象徴するのが

〝I believe〟の時代(マドモアゼル愛先生)だったといえます


 

日本の往時は4000社あるといわれた出版社のうち

赤字にならずに経営が成り立つところは ほんの一握り

なかでも大手出版社は 圧倒的な広告宣伝の力を使って

「仕掛け人」となってきたわけです


 

 

書店に配本している出版社からして 説得力をもって 

書店営業できなかったら 確実な売上につながりません

とはいえ 問題はその中身です 売れればいい ではなく

そもそも本は人の生き方に 多大な影響をおよぼすと知り

世の中に優れた情報文化を送り届ける社会事業の側面がある

この自覚を忘れては出版事業のミッションは 果せません

 

 

 

くだんの本屋の店主の談話が みごと証言していたように

大手出版社が大々的に仕掛けをし話題づくりをする少数の本

にしか書店が手を伸ばさない といった消極的な風潮が

リスクを冒さないために」という守りの姿勢によるなら 

版元も書店も 読者を育て高められない いやそれどころか 

本への読者の期待水準を低落させかねません

 


 

リスク回避だけを考えて 過去のデータにしがみつくことで 

売れ筋の再生産しかできないのでは出版社の目標設定を下げ

編集者の創造性と意欲を著しく障害するだけでなく

作家の力を伸ばすどころか 足を引っ張ることとなる一方

読者は・・・飽きてしまう という悪循環に陥ります 

 

 

現にわたしが仕事をした出版社が 当時大ヒットしていた本

『もし世界が100人の村だったら』に あやかり 

「100人の村」という語を 書名に入れた本を一万部出し

FAX注文が相次いだため さらに一万部増刷したところ 

返本の山となり 大損してしまったということがありました

「柳の下の泥鰌」ネライは 「うお座♓時代」の常套手段です

 

 

しかし個人魂が目覚める「みずがめ座♒時代」ともなれば

「柳の下にドジョウは来ないヨ」となってくる

つまり〝I believe〟から〝I know〟へ 

 

「幻想」に踊らせられることなく

「私は私である〝I am that I am〟」 

「自分が一番信じられるのは自分」

この自覚が深まり 成熟してくる時代の到来です

 


 

広告宣伝やイメージ戦略にたいし 衝動的に買うことは

もはやなく 真贋を見分ける眼力が 

じゅうぶん養われている・・・

そうした賢い読者を相手にしてゆく必要が出てきます

 

いわば 想定顧客のプロファイリングでも 

個人魂の選択の力をもった読者との出会いのシーンに

合せた目標設定をしてゆかないといけないということです
 


 

(次回につづく)