「でも...あなたお母さんでしょう!?」

である。

2年前。
アンテさんの育休に合わせて日本に帰国した。

みさきちゃんは1歳半をすぎた頃だった。

彼女は着陸まで眠らない以外はいい子にしていて、着く寸前に疲れたのか眠ってしまった。

人がいなくなるのを待って、機内持ち込み出来るベビーカーを広げてみさきちゃんを乗せ、私達は入国審査に向かったのだ。

みさきちゃんは二重国籍者なんだけど、田舎町に日本のパスポートを取得する機会が無く、この帰国時所持していたのはフィンランドのパスポートのみだった。

なので私は「日本人向け」の入国審査へ。

アンテさんはベビーカーを押して「外国人向け」の入国審査に向かった。

じゃあ審査後に。
先に荷物取ってるね。

そんな会話を終えて二手に分かれた瞬間、数人の職員がすっ飛んできたのだ。

すごい形相で私達、いや、おそらく私だけに言ってきた。

「どこへ行くの」

と。

「子供を置いてどこへ行くの」

と。

目が点である。
2人揃って豆鉄砲を食らった顔をしていたと思う。

「入国審査へ...」
「子供も連れていきなさいな!」

アンテさんを指差す私。
2通のパスポートを見せるアンテさん。

「娘は日本のパスポート持ってないんですよ。だから夫と共に...」

「でもあなたお母さんでしょう!?」

言葉が出ない私に変わって、アンテさんが日本語で

「...はい、で、僕は父親ですけど...?」

と言った。

職員さん達は皆少し年配の女性で、アンテさんの言葉を聞いてなお、冒頭の言葉、つまり先程と変わらぬ台詞を私に言った。

「でも...あなたお母さんでしょう!?」

だからなんだ。

というのが正直な感想だった。

みさきちゃんは今寝てる。
私と彼女の所持している国籍は違う。
アンテさんは彼女の正真正銘実の父親で、世話だって出来る。
国籍も同じだ。
そもそも寝ている娘に私だけが出来ることってなんだ??

今この場で娘を連れているのが私じゃなきゃいけない理由はなんだ??

そんなことを思いながら、

「じゃあ国籍が違うんですがどうすればいいんですか?」

と聞いた。

「あなたも外国人向けの入国審査場へ行ってください」

と言われた。

この時日本人向けの入国審査場には誰も並んでおらず、外国人向けには列が出来ていて、小腸か蛇のように、三度も折り曲がっていた。

納得いかなかった。
すごく時間を無駄にしている気がして。

スッと入国審査をパスして、トイレに行ったり荷物を取ったり出来たのに...と思ってた。

アンテさんはショックを受けていた。
自分はそれほど頼りない父親に見えたのか...と。
眠っている子供を乗せたベビーカーを押すことさえ出来ないような、そんな不甲斐ない父親に見えたのか...と。

そしてこの少し後のターミナル駅で、アンテさんはカルチャーショックを受ける。

日本の父親は何の荷物も持たないのか?
どうして母親が子供も荷物も持っているのに、父親は携帯を触っている?
あれは実は赤の他人同士なのか?
抱っこ紐率が高い。
なのに父親が抱っこ紐を付けている率は少ない。
そしてなぜ子供は父親と手も繋がない?
なぜ母親としか繋がない?

私の実家へ向かう電車に乗った頃には、彼は空港で職員さん達に制止されたことに納得していた。

そりゃ父親ってだけで信頼度がガクンと下がるわけだな、と。

幸いこの帰国中に遊びに行った友人宅には育休中のパパさんがいて、パパがずーっと赤ちゃんを抱っこしてたり、外出する時は抱っこ紐を率先して身に付けたりしているのを目撃し、

「当たり前だけど家庭によるんだね。少なくたってちゃんとした父親もいるんだね」

と認識した模様。
少し汚名はそそげたか...良かった。

しかし私もネットで拾った知識として「育児の割合が女性に傾いている」とは知っていたけど、実感したのはこの旅が初めてだった。

実家ですら

「あなたは何もしないのか、なぜ父親になんでもさせるのか」

と言われ、大喧嘩になった。

風呂も寝かしつけも私がしてたのに、食事と遊びをアンテさんがしただけでこの言いよう...。

日本のお母様方には同情を禁じ得ない。

そしてもっと父親が育児参加出来るように社会も人も変わるべきだと思った。

そしてこのヤフー記事のコメント欄で、

「お母さんは言われ慣れてることばっかり」

というのを読んで戦慄が走っている。

私フィンランドでこんな、記事にあるようなこと言われたことないよ...??

日本ちょっと子連れに不寛容すぎるだろう、と思った。