風に詠え。空に叫べ。

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自由気ままに・・・。

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菊に目を取られて気付くのが遅れたが、部屋は悲惨な状態だ。


カーテンは切り裂かれ床には三本の溝があちこちにある。


壁には刀で刻まれた跡が数本。確実に戦闘跡だ。


何があったか聞けば、どうやら俺たちが戦っている間に菊もここで戦っていたらしい。




「私のところはその魔物が二体も居たので少々手間取りました。


下でも騒いでいるのに気付いていたので参戦しようかと思っていたんですが」


「凄いですね。一人で二体も倒しちゃうなんて」

「恐れ入ります。実はこの階にはあと二人います」

「本当か!誰と誰だ?」

「我々である」

「うおぉっ!?」

「兄さん・・・」




ギルベルトが驚くのも無理はない。


声の主はわざわざ気配を消して後ろに立っていたのだから。


菊が言った二人とはバッシュとリヒテンのことのようだ。


二人の手にはライフルが握られている。


バッシュは当然だがリヒテンはか弱そうに見えて銃を持たせると強い。




「そちらはどうでしたか?」


「この階には我々以外はいない」

「異常なしでした」

「そうですか。さて、これからどうしましょうか」




菊が俺を見る。俺に次の行動を決めろと言いたいらしい。


俺が決めていいのかと思ったが、誰も何も言わないということは満場一致のようだ。


四階にまだ確認していない部屋がある。まずはそこから回ろうと告げた。




「了解である」

「分かりました。あ、そういえば皆さんは気付かれていますか?」

「気付くって何にだ?」

「これです」




菊はポケットから一枚のカードを出した。


それはタロットカードの【世界】。


バッシュとリヒテンもポケットからカードを出した。


バッシュは【隠者】。リヒテンは【節制】だ。


俺たちもポケットを探ってみる。




「あ・・・った」

「俺もだ」

「いつの間に・・・」

「僕も入ってたですよ」

「僕もありました」

「みんな別々みたいだね」




フランシスが言った通り、全員違うカードだ。

俺は【魔術師】、ピーターは【愚者】、フランシスは【恋愛】、

ギルベルトは【刑死者】、ルートヴィッヒは【剛毅】、マシューは【正義】。

菊が「やはり持っていますか・・・」と小さく呟いた。




「これは仮説ですが、ここには22人居るのではないでしょうか」

「大アルカナの枚数だけ居るって事か」

「恐らく。このカードが何を意味するかは分かりませんが」




カードの存在をきっと何かのヒントなのだろうと頭の片隅に留めた。


内ポケットにカードを入れて「四階に行くぞ」と言えば仲間の声が返ってきた。


何とかなる。そんな気がしてしまう程頼りになる声に、俺は密かに笑みを零した。






.


アーサー視点終了のお知らせ。。。



目的の部屋は階段の前だ。ノブに手を掛け後ろとアイコンタクトを取る。

皆自らの武器に手を添えている。準備は整った。一気に扉を開けて部屋に入る。


「っ・・・ピーター」

「アイツですよ!」

「アーサーどうすりゃいい?」

「退治だ、退治!」


そこに居たのは“ファントム”。

黒いローブに身を包み、フードの奥には不気味な笑顔の白い仮面。

足はなく宙に浮かぶ魔物で、人を襲う。殺られる前に殺った方が利口だ。


「覚悟はいいかっ」


ルートヴィッヒが鞭を振るうとファントムはふわりと右に避けた。

が、そこをギルベルトが斬りかかる。

ローブがビリッと音を立てて破けたが、仕留めることは出来なかった。


「掠っただけかよ!」

「お兄さんに任せな」


フランシスが体勢を低くして間合いを詰め、下から斬り上げる。

敵の体勢が崩れたところにピーターが雷撃を落とした。


「どうですか!」

「まだだよっ」

「ギルベルト離れろ!」


反撃体勢に入ったのを確認してギルベルトに警告するが、

敵の動きは思いの外早く、ローブの合わせ目の隙間から黒い影が伸びる。

手と思われる影は引っ掻く様な動きをした。ギルベルトは後ろに飛んで避ける。


「マジかよっ・・・」

「兄さん!大丈夫かっ」

「うわぁ、お兄さん甘く見てたかも」


ギルベルトが立っていた場所には三本の溝が刻まれた。

まともに喰らったら致命傷だろう。

ルートヴィッヒが鞭を構えたのを視界の隅に確認してテンポを合わせる。


「逃がすか!」

「ファイア!」


打撃攻撃と火炎攻撃を同時に喰らい、ファントムは量子化して消えた。

マシューの「消滅しましたね・・・お疲れ様です」と言う言葉に緊張が解けた。

俺は溜息を付いてイスに座る。ピーターも隣に座った。

向かいにはフランシスが座り、ギルベルトは床に座り込む。


「アーサー、あれ何だったの?」
「あれはファントムだ。人の強い感情が具現化した魔物で人を襲う」
「強い感情というのは、恨みとかか?」
「恨みだったり、憎しみだったり。悲しみや悔しさってこともある」
「とにかく死んだ奴の置き土産ですよ」


ピーターが機嫌悪そうに答えると、ルートヴィッヒは目を見張る。

魔物とは死者の置き土産。死者の心そのものだと本には書かれていた。

どんな強い感情も生きていればその者の中に留まるが、

器である者が死に朽ち果てれば、心は宙に放たれてしまう。

そうして具現化したものが魔物なのだ。


「あれ一体で済むとは思えませんね」
「そうだな。まだ居る可能性が高いだろう」
「なら気を引き締めて行かないとだな」
「他にも誰か居るかもしれねぇし、早く次行った方がいいんじゃねぇか?」
「あ、ギルが良いこと言った」
「うるせぇ!このひげや・・・」


ドゴンっ、と天井から音がした。

上の階の部屋で何かが床に落ちたか、倒れたか。

数秒の静寂の後、俺たちは立ち上がり部屋を出る。

無言のまま階段を駆け上がって正面の部屋の扉を開いた。


「あぁ、皆さんお揃いで。怪我などしていませんか?」
「おまっ・・・菊!」


そこには、刀を床に突いてニッコリ微笑む本田菊が立っていた。


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あー、長いなぁ。。。




四階の廊下に人影はない。だが、代わりに見覚えのある帽子が落ちていた。


帽子は扉の前に落ちている。つまりこの部屋に持ち主が居るということなのだろう。


返事が返ってくるかは分からないが扉をノックして名前を呼んでみた。




「ピーター、居るのか?」


「ピーター?フランシス兄さんだよ」




扉の向こうで小さく声が聞こえた。


フランシスと顔を見合わせ、ゆっくり扉を開く。




「あ、お前!」


「マシューも居たのか」


「アーサーっ、フランシスっ・・・」


「ギルベルトさん、ルートヴィッヒさん!」




部屋の中には、ピーターとマシューが居た。


二人共しっかりと手を繋いでいる。


そして、尋常ではないほどに怯えていた。


ピーターに帽子をかぶせて「何があった?」と聞くと、


視線を泳がせながら小声で話しだした。




「シー君はこの部屋から二つ隣の部屋で目が覚めたですよ。


それで、どうして知らない場所にいるのか悩んでるところにマシューが来て・・・」


「僕はピーター君の居た部屋の向かいの部屋で目が覚めて、


とにかく歩き回って見ようとしたところだったんだ。


偶然ピーター君と会えて喜んでたところに・・・・アイツが現れて・・・」


「アイツ?アイツって誰だ?」


「アレは・・・アレは人じゃないですよっ」




人じゃないもの。人ならざる者。


“見える”俺とピーターにとってはそれほど恐ろしいものではないはずだ。


なのに、ピーターは怯えている。それを見て恐怖を抱いている。


つまり、それは悪しき者。それは邪なる者。それは存在が許されない者。




「・・・・魔物が居たのか」




呟いた言葉に肯定の頷きが返って来た。


俺はすぐに立ち上がり歩き出す。


が、一歩しか進むことは出来なかった。




「離せ、ギルベルト」


「一人でどうにかできんのかよ」


「少なくとも見えないお前らよりは慣れてる」


「落ち着けアーサー。今はいつもとは違うんだ」


「だが、放っとくわけにはいかないだろ?」


「ちょっと、ちょっと!」




フランシスが俺の肩を二回叩いた。これは落ち着けという合図だ。


昔から俺が無意識に焦っている時にこうして気付かせてくれる。


俺とギルベルトの間に入り込んだフランシスはギルベルトにウィンクした。




「それって退治しないとマズイもんなの?」


「・・・はっきりしたことは言えない。直接悪さをしてくる奴もいれば、


間接的に仕掛けてくる奴も居る。何もせずそこに居るだけって奴もな」


「ふーん。で、確認したいわけね?」


「あぁ、そうだ。確認だけなら一人でも問題ないだろ」


「単独行動は控えた方が良いって言ったの誰だっけ?」


「うっ・・・・俺だ・・・」


「そういうこと。俺たちも一緒に行くから、な?」




俺は溜息を付きながら頷いた。情けない自分への溜息だ。


それを分かっていてなのかフランシスがまた肩を叩いた。


悔しいが今回は礼を言うべきなんだろう。


そう思いながら、俺は何も言わなかった。


言ってしまったら、きっとそれは俺じゃないと思うから。




「アーサーのストッパーはフランシスなんだな」


「恥ずかしいとこ見せたな」


「いや、俺たちだって見せているさ。特に兄さんがな」


「あ~・・・」




お互い様だとルートヴィッヒは笑う。


こいつの笑う顔を見るなんて、得した気分だ。


そんなことを考えている間にピーターが隣に立っていた。


しっかりと手を繋いでいるということは、一緒に行くつもりらしい。




「ここに居てもいいんだぞ」


「一緒に行くですよ。手離したら許さないですよ」




置いて行かれるのが怖いと素直に言えないところは自分に似ている気がする。


もちろんマシューも一緒に行く。これでメンバーは六人になった。






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つ・づ・い・た・の・さー。。。