避妊手術の目的



避妊と去勢手術の目的のひとつとして、生殖器が関係する病気の予防が挙げられます。


高齢になるとメスでは子宮蓄膿症、オスでは男性ホルモンがかかわる前立腺疾患が起こりやすくなります。


それらを予防するには、避妊・去勢手術が有効です。

予想外の子犬が誕生するのを防ぐためにも必要です。


とくに、多頭飼育をしていて繁殖の予定がないならば、去勢・避妊手術をしておいたほうがいいでしょう。


また、ドッグランなどに連れて行く犬に関しても、気付かないうちに他の犬と交配しないようにしなければなりません。


行動の問題を改善するにも、とくにオスの去勢手術が行われることも少なくありません。


オスは、男性ホルモンの影響で頻繁にマーキングをしたり、攻撃性が出るケースもあります。
そうした行動の改善には、男性ホルモンの分泌を抑制できる去勢手術が役立つといえます。


命にもかかわる病気にかかりにくくなるので当然ともいえますが、性的な欲求からの解放によるストレスの軽減も手伝ってか、
避妊・去勢をした犬はしていない犬と比べて寿命が長いのも事実です。



メスの避妊手術のメリット・デメリット


メリット


1.病気の予防ができる


子宮や卵巣、女性ホルモンにかかわる病気を予防できます。
具体的には子宮蓄膿症、乳腺腫瘍、卵巣膿腫、子宮内膜炎などが予防できます。


2.飼い主も愛犬もストレスが減る


個体差もありますが、1~3週間続く出血がなくなるため、愛犬と一緒の旅行やドッグスポーツなどへの参加を見合わせる必要がなくなります。
また、犬自身が陰部の腫大や頻尿への違和感や、性的欲求によるストレスから解放されます。



デメリット


1.太りやすくなる


避妊をすると、身体が使うエネルギー量が減るため、手術前と同じ量を食べても消費するカロリーが減ります。
避妊後は、意識的に運動させるなどして、肥満の予防に努める必要があるでしょう。


2.攻撃性が高くなる


避妊手術によって女性ホルモンが分泌しなくなると、もともと攻撃性の高めのメスでは、攻撃的になることがあると述べている動物行動学者もいます。


オスでは去勢手術により攻撃性が軽減することが知られているため、メスでも同様だと勘違いされがちですが、
メスでは逆の結果になるケースがあるのです。



手術における注意点


オスには手術に適さない時期はありませんが、メスの手術の時期に関しては注意点があります。


できれば、メスでは女性ホルモンが活性化していない無発情期に手術をするのが望ましいでしょう。


犬の性周期は、個体差もありますが6~10ヶ月で1サイクルです。
発情出血の開始後から卵胞ホルモンが分泌され、多くは10日目ごろに排卵が起こり、
その後黄体ホルモンが分泌され始めます。


また、黄体期に偽妊娠を繰り返す犬の場合は、黄体期の後半に避妊手術をすると、プロクラチンの分泌が誘引されて乳腺が刺激されて
偽妊娠の状態になる可能性があります。


発情期は血管が太くなり、出血しやすくもなっています。
発情出血開始から3ヶ月経ち、性ホルモンの影響がまったくなくなり、次の発情までの無発情期を、避妊手術の時期として選択するといいでしょう。




オスの避妊手術のメリット・デメリット


メリット


1.病気の予防ができる


オスを去勢すると、前立腺肥大症、前立腺膿瘍、肛門周囲腺腫、精巣腫瘍といった病気を予防できます。
去勢手術によって精巣を取り除くと、前立腺が萎縮をして病気が起こりにくくなります。


前立腺腫瘍は、転移した場合は命取りにもなるので注意が必要です。
犬は膀胱のすぐ後ろの尿道を包むように前立腺があり、そのなかを尿道が貫いてとおっているため、前立腺を取ることが困難だからです。


犬の肛門の周囲には、肛門腺のほかにも分泌腺が多く存在しています。
これらの分泌腺は男性ホルモンによって支配されているので、去勢をすれば肛門周囲腺腫を発症することはありません。


また、去勢によって肛門周囲腺腺という男性ホルモンと関連性のある疾患の予防が可能です。
メス同様、性ホルモン関連性の皮膚炎を予防することもできます。



2.マーキングなどの行動を改善できる


精巣を取り除き、男性ホルモンの分泌がなくなれば、あちらこちらに排尿によって自分の臭いをつけようとする
マーキングが減ると予想されます。


ただし、習慣化している場合は行為の減少が見られないことも多く、
犬によってはマーキングを続けることもあるので過度な期待はしないほうがいいでしょう。


また、足を上げて排尿をし始める生後5~6ヶ月以前に去勢をした場合、生涯足を上げないスタイルが定着する可能性も高くなります。



3.攻撃性が減る


性格には犬によって、また犬種などによって個体差が大きいものですが、男性ホルモンの一種であるテストステロンの値が高いと攻撃性が高まると考えられています。
ドッグランなどで、未去勢のオス同士でのケンカがほかより多いのもそのためです。


去勢手術により男性ホルモンの分泌が抑制されれば、男性ホルモンが影響しての高い攻撃性を減少させられるでしょう。



4.精神的に安定する


犬には性欲はあり、発情期のメスの匂いに反応して性的欲求が高まるのは、種の保存のために当然の反応です。
けれども、性的欲求を自由に満たすのは不可能な飼育環境で、欲求不満がストレスの原因になるとしてもおかしくはありません。
去勢手術によって異性に対する興味が薄くなれば、精神的なストレスから解放してあげられます。


デメリット


1.太りやすくなる


メス同様、性ホルモンの分泌の変化により肥満傾向が高まります。
去勢後は適切な運動量を確保し、食事管理もしっかりと行いましょう。


2.毛艶が悪くなる


性ホルモンが分泌されなくなるため、毛艶が悪くなることがあります。
また毛質や毛色が変化するケースも、稀ではありますが認められます。


3.品評会に出陳できない


去勢や避妊をした犬は、ドッグ・ショーに出られません。


手術の方法

・メスの避妊手術

避妊手術とひとことでいっても、卵巣だけ取る場合と、卵巣と子宮の両方を取る場合、そして一般的ではありませんが卵巣を結紮する場合の3種類があります。
卵巣だけを取っても、女性ホルモンにかかわる病気は予防できます。


卵巣を取って女性ホルモンが分泌されなくなると、子宮が退縮して子宮にかかわる病気の発生率が減るともいわれています。
手術は全身麻酔で行います。所要時間は20~40分ほどで、1泊2日の入院という動物病院が多数を占めます。



・オスの去勢手術


オスの去勢手術は、睾丸を摘出する方法が一般的です。
左右の精巣を摘出するのに要する時間は10分ほど。
動物病院によっては日帰り入院にしているところもあります。


手術以外の避妊法

薬物投与によるメス犬への避妊処置も可能です。
いずれも合成の黄体ホルモンで、卵胞刺激ホルモンや黄体形成ホルモンの分泌を抑制し、発情をストップさせます。
注射薬では作用が3~4ヶ月、インプラント剤では約1年間にわたって効果が持続します。


一時的に発情を抑制して、ドッグショーやドッグスポーツなどの大会に参加したい場合などで便利な方法といえるでしょう。


ただし、2年以上の長期間の投与では、合成黄体ホルモンによって子宮が活性化されるため、子宮蓄膿症や子宮内膜炎などの病気にかかりやすくなったり、
乳腺腫瘍の発生率を高くする危険性も報告されているので注意が必要です。


使用にあたっては、それらを考慮のうえ獣医師とよく相談しながら計画を立てるようにしましょう。