
「女の子の側から愛を告白するなんて、ふだんは恥ずかしくてできないものだから、バレンタインデーだけはその立場が逆転しても許される日」
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むかしむかし、僕が初めてバレンタインデーを知ったころには、そんな風に説明されていました。
時代は流れ、どちらから告白しようと誰も気にしなくなったいま、バレンタインデーは「女性だけが、中年にさえも渡さなきゃいけない第二のおとしだま」みたいになってきています。
男女を取り巻く状況が変わってきたのだから、バレンタインのほうも気分を変えて、たとえば「年に1回、男子が厨房に立ってお菓子作りに挑戦する日」とかに変わればいいのに。
でも、料理に慣れていない男子が、粉まみれで洗い物だらけのキッチンを放置しそうだから、お母さんとか奥さんが後片付けにキレそう。
「お菓子の手づくり」って、理想と現実がクロスオーバーする、怨霊の巣窟だったりします。
というわけで、今週は「バレンタインクッキング大失敗編」をお届け。
■彼氏に岩をあげました
ナツカエキゾティカさん(東京都)
エピソード:
手作りチョコをプレゼントしたのは人生でたった一度。
女子力もなく、お菓子作りに興味もなかったけれど「溶かして固めてナッツ入れればいいわけでしょ?」と、大量の板チョコを溶かして酒のつまみ用のミックスナッツをぶち込み、子供の握りこぶし大に固めたものをラップで包んで彼にプレゼントしました。
後で聞くと「見た目が岩のようで、硬くて甘じょっぱくて、半年以上カバンに入れっぱなしだった。もうチョコは作らなくていいからね」と優しく言われました。
でも「どうしても腹が減った時に非常食としてガリガリやるには歯ごたえもあってとても良かった」とも。
言いつけを守って、あれ以来お菓子は作っていません。
15年前、今の旦那と付き合い始めて最初のバレンタインデーの事です。
○岩みたい 苦笑い君がガリガリと前歯で噛んだ非常用チョコ(ナツカエキゾティカ)
旦那さん、包容力のある人だなあ……。うらやましい限り。
このチョコ岩、映画の伏線とかに使えそうですね。
旦那さんがいろいろあって雪山で遭難。絶体絶命のところで、ふと、荷物の底に入っていた恋人の手製の岩を思い出し、それをかじりつつ救援を待ち続ける、みたいな。
岩をガリガリしながら救援を待つ織田裕二まではイメージできました。
もしかしたら次世代の保存食として、非常袋に常備されるアイテムになっているかもしれません。去年、自衛隊と井村屋が開発した羊羹みたいに。
たぶんそのときの記憶はないと思いますが、チョコ岩のレシピ、ぜひCOOKPADにアップしてください。逆方向で人気が出るかもしれませんよ。使い道はあなた次第。
○「甘くない固い愛」って意味だよね 失敗チョコをくれた理由は
■彼氏を殺しかけました
はるかさん(東京都)
エピソード:
バレンタインの日、外国人の彼氏に手作りのブラウニーをあげました。
以前から彼には「ナッツアレルギーだ」と言われていたのですが、ピーナッツしかイメージしていなくて、うっかり生地にココナッツを練りこんでしまいました。
あやうく殺しかけました。
翌日に栗羊羹をすすめたら、栗は英語で「Chestnuts」といってナッツに含まれるらしく、ただ笑っていました。
殺さずに済んでほっとしています。
○ブラウニー あなたの好物混ぜてみた それはアレルギー あわや毒殺(はるか)
まさか「バレンタインのお菓子作り」なんて平和そのものの風景から死の匂いが漂ってくるとは……。
深刻なことにならなくてほんとによかった。
相手が大人で紳士的に断ってくれたからいいものの、もし女の子がちょっと強引な子で、男の子が押しに弱い子だったらと思うとぞっとします。
もし、若いころの僕がアレルギーで、大好きな女の子からナッツ入りのチョコレートをもらって、「ササキくん、いま食べて味の感想聞かせて!」なんて言われたら、たぶん、食べたと思う。恋のためなら死もいとわない、それが童貞だから。
調べてみると世の中には「チョコレートアレルギー」の人もいて、バレンタインデーの直後にアレルギーが発症して病院に来る人が多くなることから「バレンタイン症候群」という呼び方もあるんだそうです。
「ごめん、僕、チョコレートアレルギーなんだ、せっかくの気持ちだけど、受け取れないよ……」
なんて受け取り拒否のされかたをされている女の子もいるんでしょうね。
「お酒飲めないんで」とミエミエの嘘をつかれてデートを断られてきた苦い経験を振り返ると、一度ぐらいは、こんな風に断ってみたい気もします。
○義理チョコは溶かしこまれた本心や釘におびえず食えるから好き
【後編に続く】
Text/佐々木あらら