
昨年11月下旬、大阪市役所で橋下徹市長と教育委員6人の協議があった。大森不二雄・教育委員長(55)が「人事について話したい」と切り出すと、橋下市長が「教員評価があまりにもずさん」と発言。委員からも「基準を明確にした方がいい」と声が上がり、橋下市長が「校長の評価権限を強化しては」と提案した。
大阪市では今年度から、2か月に1回のペースで同様の協議を公開で開いている。新制度で始まる総合教育会議同様、首長と教育委員らが重点施策を話し合う。これまでに、暴力など問題行動を繰り返す児童生徒を各校から集めて専門的に指導する「個別指導教室」の設置や、市立中学校の部活動指導の外部委託などを協議。いずれも来年度から始める方向で準備が進む。
教育委員や教員らからは、「政策がスピーディーに実現する」という評価がある一方、「協議のテーマになると、現場の声を広く聞く前に方針が決まってしまう」などの反発もある。
予算編成権を持つ首長は以前、教育の「政治的中立性」に配慮し、教委と協議を水面下で行っていたが、新制度では原則公開の会議で調整される。文部科学省は「政策を決める過程を明らかにし、民意を代表する首長を加えることで、教委や学校現場が活性化する」と期待する。
大阪府では、橋下市長の友人で、松井一郎知事に昨春抜てきされた民間出身の中原徹教育長(44)が、英語教育などの改革を推し進めてきた。
「議論する時間が欲しい。我々は先生ら5万5000人を抱える『企業』。それだけの組織を動かすのだから、月に10時間くらい来ていただきたい」
10月下旬の府教育委員会議。委員数人から認定こども園の定数に関する条例改正について事前の説明が一方的で不十分と指摘を受けた中原教育長が、強い口調で切り返した。現在、月1回2時間程度集まる委員は「他に仕事がある」などと難色を示し、平行線をたどった。
中原教育長が委員に暴言を吐いたとの訴えもあり、経緯の検証を第三者委員会に委ねる事態に発展。教育委員会の会議回数については議論されないままだ。新制度でも、新教育長と非常勤の教育委員でつくる教育委員会が教育内容を決定する。委員の一人は「非常勤では責任を負うのに限界がある」と語る。
新制度で権限が大きくなる首長や新教育長と異なる意見がある場合、どう反映させるのか。総合教育会議のテーマ設定や、教育委員会の活性化策は――。大阪の試みからは課題も見えてきた。(喜多俊介、杉浦まり)
首長の権限強化
今回の制度改革は、大津市のいじめ自殺問題で市教委が機能しなかったことがきっかけとなった。新設の総合教育会議を首長が設けるなど、首長の権限が強化される。従来、教育委員会を代表する教育委員長と、実務を統括する教育長がいたが、新教育長に一本化される。任命権は首長が持つ。
「教育ルネサンス」では、「変わる教育委員会」(13年9月)で、大阪府教委の現状などを伝えた。