
- 日本にも女性総理誕生? 小説「スケープゴート」を出版した幸田真音さん
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いよいよ日本にも女性総理誕生か――作家の幸田真音さんが、永田町の思惑に巻き込まれつつも政界の階段を上がっていく女性経済学者・三崎皓子(こうこ)を主人公にした小説「スケープゴート」を中央公論新社から出版した。
皓子は「拾われて、閣内に迷い込んできたまったくの素人」とほかの政治家に見下されつつも、「選挙の顔」となり、金融担当大臣となり、重要なポストで決断を経験していく中で、自らの「欲」に気づかされていく。そして、自分を登用した総理と対峙(たいじ)し……というストーリーだ。
「女性の登用」をテーマにした作品は初めてという。どうしてこのテーマを取り上げたのか。幸田さんに小説に託した思いなどを聞いた。
女性活用が一番遅れている政界
――小説を書かれたきっかけは?
「婦人公論」で小説連載を始めるにあたり(2013年1月22日号~2014年6月22日号の同誌に連載)、女性が読者ですし、世界中で女性が活躍する中で、日本はやはり遅れている、それでは、働く女性の抱える問題を、中でも女性の活用が一番遅れているように見える政治の世界を舞台に描こうと思ったのがスタートです。どうせなら女性総理にしよう、と思いまして、女性の政治家やそれを取り巻く環境を形作る女性の政治記者、官僚、管理職などを男性も含めて数多く取材しました。本当にいろんな声を聞きました。
連載が始まってまもなく、韓国で朴槿恵(パククネ)大統領が誕生したりしました。では、日本だと、実際に女性総理の誕生がどのくらい可能性があるのか、あるとしたらいつごろなのか、探りつつ取材していましたが、実現するとしたら、党内や政界内での「スケープゴート」的な存在ではないかと。大きな問題を国民に問い、ある種痛みを国民に受け入れてもらうときの「盾」のような存在として女性総理が誕生していく、というケースが一番リアリティーがあるのではないかという思いに達しました。
どうやって女性のリーダーが日本で誕生したかをまず書き、次の作品で女性総理の苦労、活躍というように、ある種、2段組みで考えています。続編はまだ不明だけど。
本来は実力が評価されるべき、だが…
――スケープゴートの意味をもう少し説明してください
(女性総理が誕生するとしたら、最初は)ストレートにその女性の実力が正しく評価され、この人がふさわしい、でなくて、女性であるがゆえにいろんな確執、やっかみがあったり、ハンデみたいなもの背負わされたり、という状況になるでしょう。後ろに傀儡(かいらい)とまでは言わないけれど(誰かがいて)の設定の方が早いのではないか、と。
もちろん、本来は女性の実力が評価されるべきです。しかし、日本の現状で行くと、実力評価でない女性総理誕生の方が現実的ではないか?という思いにたどり着いたわけです。それは、政治家、記者、官僚などからの取材で受けた感触で得たものです。
タイトルについても、「硝子の天井(女性が出世の階段を上がるのを阻む見えない壁)」などいろいろ考えましたが、結局これにしました。
モデルとした政治家はいない
――主人公・三崎皓子のモデルとした実在の女性はいますか
ないです(即座に否定)。皆さんから聞かれますが、特定のモデルはありません。
ただ、読者の方に、ある程度「そうよね」と共感していただきたい、あるいは「こんなことありえないよね」とストーリーに引き込まれてほしいので、いろんな方のいろんな一面を取り入れた、連想しやすいパターンを考えました。
取材対象とした政治家は、1年生議員から、落選した方、要職に就かれた方まで。苦労話も含めて幅広く話を聞いています。
「女性の活躍」は世界の常識
- メルケル独首相
――今ちょうど、安倍首相が成長戦略の一つとして「女性の活躍」を訴えています、その評価は?
安倍政権が「女性の活躍」を言い始めたのは、小説の構想にとりかかり、書き始めた途中からです。
女性の活躍は、基本的に世界の常識ですからね。古いところだと、サッチャーさん(英国元首相)から、最近だと、ドイツのメルケルさん(現首相)、IMF(国際通貨基金)専務理事のラガルドさん、FRB(米連邦準備制度理事会)議長のイエレンさん、などがいます。実力を認められてトップにいる女性たちです。
物事を決断する立場で世の中を引っ張っている世界の女性たちの中、日本も緒方貞子さん(元国連難民高等弁務官)などはいますが、特に政治の世界で女性のトップが出てきません、もっと出てきてほしい。日本でも民間企業は、形式だけでなく、結構上のポストに女性が就いている例があります。ダイバーシティー(多様化)が基本ですよ。
政治の世界は遅れている
- 「政治資金」と「うちわ」問題で、閣僚を辞任した小渕優子氏(左)と松島みどり氏
――その政治の世界で10月20日、「女性の活躍」の象徴の形で大臣に登用されていた女性が2人辞任しました(小渕優子・前経済産業大臣、松島みどり・前法務大臣)
2人の女性大臣が辞任しましたが、これは女性だから悪いのではない。男性だからというのでもなくて、政治家のコンプライアンス(法令順守)やコーポレートガバナンス(組織運営)の足元ができていないという話です。政治の世界が遅れているのです、
女性の政治家の生かしどころがない、生かされていない、認められていない。政治の土壌が女性政治家を育てていません。
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- 「政治資金」と「うちわ」問題で、閣僚を辞任した小渕優子氏(左)と松島みどり氏
- メルケル独首相