アイデア凝縮 接着剤好評 | 国際そのほか速

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アイデア凝縮 接着剤好評 
  • 「自分が企画開発したもので人々を喜ばせ、くらしを便利にしたい」(大阪市東成区で)=伊東広路撮影
  •   文房具メーカー「コクヨS&T」(大阪)の小林彰吾さん(34)は、この10年、「使いやすさ」を念頭にのりや接着剤の開発に携わってきた。

      「自由な発想で、新しい商品に具体化していく仕事。やりがいがあります」

      昨年5月に発売された瞬間接着剤「レッドテック」は、3年かけて独自のアイデアを凝縮した労作だ。

      模型の製作や小物の修理などに使われる瞬間接着剤は、小さな箇所に的確に塗ることが求められる。ところが、市場調査では「塗った量がわかりにくい」「手につきやすい」といった不満が多かった。

      そこで、塗った時は色があり、時間がたつと消える接着剤の開発に着手した。既存の色つきスティックのりの技術は応用できず、ゼロからのスタートになった。可視光線があたると色が消える化合物にたどり着いたのは半年後。色は目立つ赤を採用し、接着力を弱めない配合に、さらに1年を要した。

      幅広にも小さな点にも塗りやすいようにノズルの先端を斜めにカットし、液量を調整するプッシュボタン付きの容器も開発。高齢者にも使いやすいと好評だ。

      「インプットなくしてアウトプットなし」が信条。行列ができるイタリア料理店があれば足を運んで人気の理由を探る。他社の新商品が出ればすぐに試す。ジャンルにとらわれず、消費者目線でヒットの理由を考える。

      開発のアイデアがひらめくのは、通勤電車の中や子どもを寝かしつけている時などの何気ない瞬間だ。日々のインプットが形になって生まれてくるという。

      出社すると、まず付箋にその日の業務を書き出す。朝のうちに一日の見通しを立て、極力残業はしない。メールでのやり取りはバッティングセンターに例える。「100%の回答でなくてもすぐに打ち返す」ことで、着実に仕事を進めるよう心がけている。

      将来の目標は、誰も思いつかないような発想の商品を開発すること。「そこから新たな文化が生まれるような文具を作ってみたいですね」(上田詔子)

     【退社後】社内の仲間とフットサル

    •   体を動かすことが好きで、月に2回程度、社内の仲間十数人でフットサルを楽しむ=写真=。

        平日は終業後、会社から2駅離れた屋内のフットサル場へ向かい、午後7時から2時間汗を流す。コクヨグループが主催する大会などにも出場する。

        発足は7年前で、攻撃と守備の両方を担う「アラ」と呼ばれるポジションを担う。試合中のボールタッチが多く、体力のいる役割だ。「1人では味わえないチームプレーならではの楽しさがある。心身のリフレッシュにもなっています」

        チーム名は、「暇つぶし」を意味する英語をもじった「リソーサー」。メンバーは、営業や企画、生産など様々な部門から集まっており、仕事内容について雑談することも多い。「社内の動きが把握できるのは、開発を進める上で大きなプラス」と話す。フットサルは、心身の健康を支えるだけでなく、仕事の潤滑油にもなっている。

       【発想法】当たり前を疑う愛読書

      •   毎日持ち歩いている本がある。元博報堂制作部長の著書「高橋宣行の発想フロー」と「発想ノート」(日本実業出版社刊)=写真=だ。企画力や創造力が求められる仕事に必要な考え方が解説されている。「通勤電車の中で繰り返し読み、思考や心の持ちようをリセットしています」

          入社して10年余り。これまでの経験は大きな財産だが、「技術的なハードルや業界の常識にとらわれ、自ら限界を作ってしまいがち」と戒める。レッドテックの開発中も「斜めにカットしたノズルでは密封性が保てない」という既成概念にとらわれそうになった。

          そんな時、発想を大きく飛躍させる「クリエイティブ・ジャンプ」という考え方を同書で再確認し、前に進んだ。「当たり前を疑い、限界を取り払うことの大切さを思い出させてくれる本。後輩にも薦めています」

         こばやし・しょうご 1979年、大阪府生まれ。2002年、同志社大工学部卒業後、コクヨ入社。04年に分社化された「コクヨS&T」へ。のりや接着剤を中心に商品開発を担う。現在は「グルーステーショナリー」開発部門のグループリーダーを務める。