
「触る」「嗅ぐ」など五感を駆使して創作し、認知症の予防や改善のほか、発達障害の子供などへの癒やし効果も期待されるという。宮城県内で今月、作品展が開かれたほか、無料の体験講座も予定されている。
仙台市青葉区の宮城県美術館では5日までの4日間、臨床美術の作品展が開かれた。色とりどりのリンゴの絵や、和紙と粘土で作ったダイコンの立体造形など約800点が展示された。いずれも認知症の高齢者や自閉症の中学生らが制作。同区の主婦金子哲子さん(38)は「一つ一つに個性があり、持ち味がある」と見入っていた。
NPO法人「日本臨床美術協会」(東京)によると、クリニカルアートとも呼ばれる臨床美術は1996年、日本で始まった。協会が認定した「臨床美術士」が指導し、医療、福祉、教育現場や、被災者の心のケアにも活用されているという。
「最大の特徴は五感をフル活動させる点」と、県内に数人しかいない臨床美術士養成講座講師の一人、小野寺良枝さん(53)は説明する。
例えば、リンゴの絵を描く方法は、臨床美術では通常とはまったく異なる。リンゴを持ち上げ、重さを感じる。触ったり、たたいたりして形や堅さを確かめる。においも嗅ぐ。それを食べ、甘さや酸っぱさを味わう。そうして得た感覚を使って絵を描く。
「感じたものを感じたように描く。それが右脳を刺激する」と小野寺さん。それぞれの個性に満ちた作品を仕上げるという。
宮城野区の通所介護施設「心彩村(ここさいむら)~つむぎ~」では、2010年から臨床美術に取り組んでいる。月2回の参加者は大半が認知症。当初は落ち着きがなかった人が2時間座っていられるようになったり、無表情だった人が笑顔を見せたりするようになったという。施設長の金森弥生さん(26)は「認知症の人が、ここで楽しく絵を描いていることは忘れない。不思議な力がある」と話す。
臨床美術士の養成講座を設けている指定校は全国に3か所。その一つの東北福祉大(仙台市青葉区)では9、18、23日のいずれも午前10時~正午と午後1時半~3時半、無料の体験会と説明会を開く。11月以降も行う予定。申し込み、問い合わせは同大予防福祉健康増進推進室(022・208・7790)へ。