
- 畑では、孫たちとハクサイなどを収穫する男性の姿も。「手をかけるほど収穫量が増えますよ」と話す諸藤さん(左)(横浜市内で)
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「畑で野菜作りを楽しむ週末」を都市部に暮らす人たちに提供したい――。アグリメディア(東京)は、手ぶらで畑仕事が楽しめる市民農園「シェア畑」を首都圏で運営する。
今年の秋、新たに10か所開設、26農園3200区画となった。
1区画は約10平方メートル。月額6000~1万円で貸し出す。種や苗、肥料代も含まれており、農具も完備。栽培のコツを助言するスタッフも配置する。社長の諸藤貴志さん(35)は「道具をそろえるなどの面倒な部分を取り除いてしまえば、やってみたいと思う人は多い」と話す。
友人と2人で起業したのは2011年4月。都市部の遊休農地に着目し、マンションや駐車場にするのではなく、本来の活用法があるのではないかと考えた。
最初の半年は、首都圏の農家に飛び込みで話を聞いて回った。「農業はもうからない」「なんとか維持しているが農地は荒れ放題」といった声。後継者不足を目の当たりにする一方、「農作業に関心を持つ人たちを緩やかに取り込めば、新しいことができるのではないか」と思いを強くした。
第1号のシェア畑は横浜市内にできた。同市の農業委員会に数か月通い、12年2月、ようやく市民農園として利用する許可を得た。
農地の所有者にとって、シェア畑は収益につながるだけでなく、何より農地として維持できることが利点だ。ある地主の男性は「先祖代々の畑で、地域の人に野菜作りを楽しんでもらえるなんてうれしい」と話しているという。
利用者は、小さな子どもがいる家族や、定年後の趣味で始めた60代の夫婦など幅広い。「子どもが野菜を食べるようになった」「生活が豊かになった」という声が励みになる。
畑の一角では、バーベキューや鍋パーティーなどのイベントも開催。利用者同士が横のつながりを生む工夫も凝らす。
「体験を通して、『食』や『農』に触れることが日本の農業活性化につながるはず。しっかりと収益を上げて成功モデルを示したい」(佐川悦子)
【水曜】ノー残業デーにフットサルで発散
毎週水曜日は、ノー残業デー。午後5時に仕事を切り上げ、フットサルに汗を流す=写真、中央=。社員が増えたのを機に、今年社内でチームを作った。チームのメンバーからは、「仕事と同様、前のめりで、強引に攻めていくタイプ」と評される。
創業メンバーを含め社員のうち2人は、高校のサッカー部の同級生。気心の知れた仲間とプレーするのは、いいストレス解消になる。「反省会と称して飲みに行くのも、毎回欠かしません。わいわい楽しんでいます」
シェア畑を始めた当初、毎日荒れ地を耕していたら、1か月半で5キロもやせたという。「農業って本当に体力がいる。やってみて初めて大変さがわかりました」と話す。
ところが、「最近は、畑以外の仕事が増えてきて、体重が戻ってしまった」という。それだけに、フットサルは健康維持のためにも欠かせない。
【道具】地図で農地情報を整理
郊外の畑を見に行ったり、役所を訪れたりと、週に3日ほどは車で移動するため、地図=写真=が手放せない。
最初に開設した農園がある横浜市には、会社のある東京都内から頻繁に車を走らせた。渋滞時には、抜け道地図を活用して時間短縮を図っている。
起業から3年半、同じ地図を使い続けており、書き込みがいっぱい。「情報が古くなってきたので買い替えたいけれど、農園につけたしるしなどに愛着があって」と悩む。
農地がどんな場所にあるのかを確認し、集客の計画を立てる際にも地図は欠かせない。近くに住宅地はあるか、駅からの交通の便は良好か、などがポイントだ。今では、地図を見れば農地周辺の環境が思い浮かぶようになった。
「農地を提供したいという農家の方からの問い合わせも増えています。ますます地図は手放せません」
もろふじ・たかし 1979年、福岡県生まれ。九州大学を卒業後、2002年に住友不動産入社。オフィスビル、住宅等の開発に携わる。11年、福岡で農業を営んでいた友人と2人でアグリメディア設立。農家と消費者の交流イベントや市民農園「シェア畑」などを運営。