
- 「社員にはどんどん質問し、自分の考えも伝える。互いにアイデアを磨き上げています」と話す白石さん(右から2人目、東京都渋谷区で)=沼田光太郎撮影
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旅行や飲食などのレジャー、育児、介護支援――。各企業が社員に用意している福利厚生メニューを、垣根なく利用できたら――。多くの企業から福利厚生事業を受託する「ベネフィット・ワン」(東京)は、そんな発想で出発した。
社長の白石徳生さん(47)は「すぐにやる」が信条だ。「小さな企業でも多数集まれば、割引料金で利用できるホテルやレジャー施設などの提携先が増やせるはず」。アイデアを形にしようと、勤務していた人材派遣会社の社内ベンチャー制度に応募したのは18年前のことだ。
しかし、当時は「福利厚生は自前で用意するもの」との考えが主流。提携先も思うように増やせず苦戦した。「2年以内に黒字にできなければ撤退」という設立時の約束もあり、社員を3分の1に減らす苦渋の選択も経験した。
黒字化を成し遂げたのは期限ぎりぎりの24か月目。その後、経済界に「アウトソーシング(外部委託)」の考え方が浸透したこともあって会員企業は増え続け、今やサービス利用者は300万人を数える。「厳しい時代をくぐり抜けてきたからこそ今がある」と気を引き締める。
「すぐにやる」精神は健在だ。「日本式」の福利厚生がなじまない海外の企業には、別のプランを提案している。業績を上げた社員にポイントを付与し、たまったポイントで提携先の高級ホテルを利用してもらうといった仕組みだ。
海外出張はこの1年間で15回を数える。取引先に自ら足を運び商談役を買って出ることも多い。会議では大いに話を聞き、発言する。「新たなアイデアは行動力の中から生まれるんです」。その姿勢は起業当時と変わらない。
今後は、企業会員だけでなく会費制の個人会員も増やしていきたいという。「暮らしに関するあらゆるサービスを、個人レベルで誰もが選べるようにしたい。そのためのルール作りが課題です」。福利厚生を足場に、「サービスの流通市場」を創り出す夢を描いている。(田中左千夫)
【休日】トライアスロンに挑む
昨春からトライアスロンに取り組んでいる。経営者仲間に誘われたのがきっかけで、昨年9月には新潟県村上市の大会に出場し、完走を果たした。
学生時代から競技スキーを続けるスポーツマンだが、泳ぎだけは大の苦手だった。「息が続かず、50メートル泳げるかどうかでした」
トライアスロンを始めるにあたり、専門家の個人レッスンを受けた。合理的なフォームや息継ぎを学ぶと、1.5キロも泳げるように。「200メートルが苦しさのピークで、それを越えた瞬間、ウソのように楽になった。壁を乗り越えることが成功に必要というのは、経営にも通じますね」と話す。
過酷な競技ゆえ、体の負担は大きいが、「ゴールした時の達成感は何ものにも代えがたい」。トライアスロンには、いくつかの距離設定がある。さらに厳しさが増す長距離のレースに出る目標を掲げている。
【工夫】 海外出張 肌身離さず
海外展開を進めるにあたり、自らも交渉などで渡航する機会が増えている。その時に決まって持参するのが、ルイ・ヴィトンの革製パスポートケース=写真=だ。
大きめのサイズで、パスポートのほか、クレジットカードや紙幣なども収納できる。財布代わりにもなるため、セカンドバッグはいらない。フットワークの軽さを大事にする自分にピッタリだ。急な出張に対応するため、自宅ではなく会社の執務室に保管しているという。
これまでに3回、紛失したことがある。「1度は成田空港から帰宅する列車の中。オーストラリアでは、レストランのテーブルやショッピングセンターのカートに置き忘れ、冷や汗をかきました」と苦笑する。幸い、3回とも手元に戻ってきた。「運がいいんです。験を担いで、これからも愛用していきます」
しらいし・のりお 1967年、東京都生まれ。拓殖大を卒業後、90年にパソナジャパン入社。96年、ビジネス・コープ(現ベネフィット・ワン)を設立し、取締役に就任。2000年6月から現職。13年8月からはパソナグループの取締役も務める。