
声がかかる条件は、「井の中の蛙」で良い
- NHK中央放送番組審議会にて
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草の根ロビイングの3つ目は、「審議会や委員会に呼ばれる」。
地方自治体や国では、法律や条例などをつくる際に、その分野の専門家や関連する業界のリーダーなどを集めて、審議会や委員会を設けることがある。理由は、法律や条例の正統性を付与するため。こうした段階を踏まないと、あとで糾弾されかねない。そういった事態を防ぐべく、事前にこうした人たちのコンセンサスをとっておくというわけだ。
こうした場に呼ばれ、自分たちのアイデアを提案していくことも草の根ロビイングの手段となる。こうした場は、単に「意見聞きましたよ」というアリバイづくりの場にされることは多い。しかし、うまく活用すれば、ダイレクトに普段は接触しづらい政策担当者にアイデアをぶつけられるし、取り上げられることも意外に多い。僕も実際に審議会を通じて、様々な意見やアイデアを採用していただいた経験を持つ。
ただし呼んでもらうには、「その道の専門家」と世間から見なされていることが大前提。なので、若干敷居は高い。
しかし意外なことに、組織の大きさや、活動や代表者が全国区で超有名かどうかといったことはあまり関係ない。大事なのは「そのコミュニティで何らかの属性を代表している」こと。例えば、子育て支援業界であれば、保育園の業界団体や幼稚園の業界団体が呼ばれるし、あるいはひとり親の団体や子育て中の当事者であったり。
狭い業界で、何かを代表する正統性があればいいのだ。まさに、井の中の蛙(かわず)で良し。
ソーシャル・ビジネスやNPOを運営している場合、かなりニッチな分野で活動していることが多く、「何らかの属性を代表している」場合が多い。だからその分野に関連する法律や条例がつくられる際には声がかかりやすい。実際、有給スタッフが代表だけというNPOの代表者が審議会に参加していることもある。
審議会や委員会に出ることが偉いのではない
さて、みごと審議会や委員会に呼んでもらえたら、草の根ロビイストとしては何をするか。
めざすのは、審議会や委員会での最終的な成果物のなかに、自分たちのアイデアやノウハウを入れ込んでもらうことだ。しかも、ちょこっとではなく、できるだけ多く。そうやって、制度化へつなげていくのだ。
間違っても、「自分も、その道の専門家として国(行政)に、認められたんだ!」と喜んで終わり……とはならないこと。審議会に呼ばれるのが勲章なのではない。そこできちんとアウトプットを出し、世のため人のためになったかどうか。成果が問われているのだ。
では、どうやって成果物のなかに入れ込んでいくか。これにはそれなりのテクニックが必要である。
審議会や委員会は、会という名が付くくせに、「会議」ではない
そもそも、審議会や委員会というものは、一般的な「会議」とはまったくの別物。「会」って付くのに、会議じゃあない。じつに特殊な空間なのだ。
ぼくたちが通常、「会議」と聞くと、色んなインタラクティブなやりとりを通じて、意見を創っていく過程をイメージする。でも、審議会等では、そんなことはほとんど見られない。参加者それぞれが、順番に持論を滔々(とうとう)と述べていくことが延々と続く。言ってみれば、連続モノローグ。意見陳述の場。
その際、ほんのたまに、Aさんの発言に対してほかの参加者が批判したり、論理的矛盾を衝(つ)いたりといったことも起こる。しかし、そこから議論が展開されるということは、ほとんどない。
そして、参加者すべてが持論を述べたあと、事務局がとりまとめ、審議会や委員会の成果物となっていく。
参加者としては、この成果物にいかに自分のアイデアが入れ込めるかが勝負。審議会や委員会とは、参加者がそれを競い合う「ゲーム」のようなものではないかとぼくは思っている。
では、そのゲームで勝者となるにはどうすればいいのか。紙面の都合上、それについては次回、くわしく述べていく。