
ユーザと運転手が相互評価する「個人タクシー」
- Uberアプリでサンフランシスコ近辺を見たもの
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以前ご紹介した「個人間の家の短期レンタル」AirBnBと並んで、シェアリングエコノミーの2巨頭と呼べるのがUber(ウーバー)。
AirBnB同様にサンフランシスコで起業されたベンチャーで、「普通の個人によるタクシーサービス」です。個人タクシーのようなものではありますが、ユーザと運転手が相互評価でき、かつタクシー業界の規制の外側にあるところがシェアリングエコノミー的です。Uber BlackとUber Xというサービスがあり、前者は黒いスーツを着た運転手が黒いリムジンでやってきます。Uber Xは普通の自家用車に乗った運転手が普通の格好でやってきます。価格はUber Blackの方が上です。
AirBnBは今年の4月に100億ドル(約1兆円)の時価総額で資金調達をしましたが、その2ヶ月後にはUberが2兆円近い時価総額で1200億円規模の資金調達をして話題となりました。いずれも全米、いや世界中で既存の法律違反となり、あちこちの政府組織や業界団体との戦いを繰り広げている中でも巨額の資金調達です。「軋轢(あつれき)があっても、これこそが新しいエコノミー」という期待が時価総額にこめられていると言えましょう。
運転手引き抜きも! Lyftとの熾烈な競争
適法性は別として、利用ユーザの評価が高かったのがAirBnBとUberの共通する特徴でした。しかし、Uberの方は最近そのサービスが急速に劣化していると本拠地のサンフランシスコ近辺では心配されています。悪評なのは「普通の自家用車」のUber Xの方で、「ものすごく汚い車が来た」とか「マナーがなっていない運転手だった」といった感想があちこちで聞かれるようになってきました。Uberは同業のベンチャー、Lyftと熾烈(しれつ)な競争を繰り広げており、運転手の数を増やすべく「質より量」になってしまっていることが大きいようです。
8月には「177人のUber社員がLyftを呼んではキャンセルする、という嫌がらせを5000回もしている」というニュースが報道されました。Uber側は「そんなことはしていない」と主張していたのですが、その後Uberの内部資料がリークされ、「わざとキャンセル」ではなく「運転手引き抜き作戦」であったことが明らかになりました。Uberでは、わざわざ人を雇い、彼らに客になりすませてLyftの車を呼び、乗ったところで「Lyft辞めてUberの運転手にならない?」と勧誘させていたのでした。そして話が成立しないと「乗車キャンセル」となっていた、というのが実際のところだったようです。
Uberは少なくともサンフランシスコ近辺の若者の間では一般動詞化しつつあり「I’ll Uber it」=Uberで移動する、といったように使われるまでになっていたので、このまま規模の競争で自滅していくのは残念です。莫大な資金もあることですし、なんとか頑張って欲しいところです。
価格設定では段階的満足度を満たせない
さて、AirBnBが拡大を続けてもユーザからは絶大な支持を受け続けているのに、なぜUberは問題になったのかと考えると、本質的な価格付け問題にたどりつきます。AirBnBは1泊2000円程度から、それこそ上は1泊100万円を超すお城まで様々なレベルの物件があります。ですので、1泊2000円の人はそれなりに、1泊2万円の人はそれなりに、それぞれ違う満足度を得ることが可能です。どんなに古いアパートでも、少々ガタがきている家でも、価格に妥当性があれば「よい経験だった」と泊まった人は思うものです。
しかし、Uberの方は運転手ごとに価格を変えることができないため、「この値段にしては素晴らしい」という段階的な満足を提供することができません。Uber側もその問題は認識しているようで、最近ではUber BlackとUber Xだけではなく、Uber XL、SUVという新しいカテゴリーを登場させました。しかし、Uber Blackが「黒いスーツの運転手が黒いリムジンで送迎」という「質」の違いを提供しているのに対し、Uber X、Uber XL、SUVは車のサイズの違いでしかありません。普通に考えて、UberがAirBnBのようにそれぞれの家ごとに細かにオーナーが価格設定をするということはなかなか難しいでしょう。
この制約の中でいかに顧客満足を保ったまま拡大していけるかが今後のUberの成否を決めるのではないか、と思う今日この頃なのであります。