白衣の天使達 | バイク好き白血病患者の爆笑闘病記

バイク好き白血病患者の爆笑闘病記

笑える闘病記を書いたつもりです。病気を持つ人々が、少しでもこの記事を見て心の支えとしてくれたなら幸いです。記事は物語形式になっていますので、どうぞはじめから読んでやってください。

皆さんは不治の病というとどんな病気を想像しますか?癌、エイズ、エボラ出血熱・・・。まあ幾つかは頭をよぎるでしょうがあまり多くは浮かびませんよね。医学は日進月歩であり、目覚しい進歩を遂げています。昔ならば確実に死に至った病気が、現代ではまったく怖くなくなっているケースも少なくありません。すごいことですよね、これは。しかし、それほどまでに進歩した現代医学を駆使しても、治すことの出来ない病気が厳然と存在するのです。そして僕たちが知っている不治の病とは、まさに氷山の一角に過ぎないのです。『家庭の医学』という医学書があることをご存知ですよね。僕は最近聞いたことのない病気はすぐに調べてみるのですが、これを読んでみると健康であることがいかに奇跡的なことかと感じてしまいますよ。世の中にはいまだに医学では治すことの出来ない病気がたくさんあるのです。そして血液や免疫に関する病気も、そうした難病に数えられるものが多い分野なのです。

 血液免疫病棟には、白血病をはじめ悪性リンパ腫や再生不良性貧血、骨髄異型性症候群や膠原病などの難病患者が多く入院しているわけです。骨髄移植のために無菌室も設置されています。抗癌剤のために髪の毛が抜け落ちてしまった患者さんも多いのです。そしてもちろん、例えば骨髄移植をとってみても100%成功するものではないわけですから、亡くなってしまう人もいるんですね。そんな壮絶な場所でありながら患者が希望を失わずにいられるのは、本物の白衣の天使達がそこにいるからなのです。彼女達は24時間体制で患者の体調を気遣い、具合の悪いときには深夜だろうが早朝だろうが駆けつけてくれ、医療行為のみならず患者の身の回りの世話をし、時にはその笑顔で落ち込む患者を勇気づけてくれるのです。そして、彼女達は時には患者の死に際に立ち会いながら、しかし決してそこから逃げ出しはしません。本当にえらいなあ、と思いますよね。自分には出来ないなあ、とね。

 僕が入院した次の日に、同じ病室にいた方が退院していったことは話しましたよね。そしてその日の午後には、次の患者さんが入院してきたのです。年齢はだいたい僕と同じくらいでしょうかね。見た目にはあまり具合が悪そうではありません。その日は言葉を交わすことも無く暮れていったのですが、まあそのうちに仲良くなろうかな、なんて思っていました。次の日の朝、彼はいきなり洗面所で倒れてしまいました。そしてそのまま、帰らぬ人となってしまったのです。看護婦さん達は洗面所に集まって必死に彼に救命処置をしていました。すぐに処置室に運び込まれ、医師が駆けつけて必死の治療が行われたのです。しかし、だめでした。僕は非常に大きなショックを受けました。彼の死を、僕はどう捉えればいいのでしょう。運命などという言葉で片付けてしまって良いのでしょうか。もしこれが運命なのだとしたら、運命とはなんと不公平なものでしょう。僕は彼がどのような人生を歩いてきたかはまったく知りません。しかし、これでは彼も、残された人たちも可愛そう過ぎます。こんなことがあっていいのか・・・。僕は怖くなってしまったのです。僕は、この病棟を無事に退院することができるのだろうか。先生や看護婦さんを信頼していないということではありません。つまりそれだけの病気を抱えた人が集まる病棟なんだということです。これだけの優秀な医師をそろえ、常に親身になって世話をしてくれる看護婦さんたちがそろっているこの病棟でも、やはり死ぬときは死ぬのだな、と感じてしまったのです。しかし、僕のこの恐怖や不安を払拭してくれたのは、他でもない主治医をはじめとする先生方や、看護婦さんたちでした。彼女達はこの壮絶な現場にあって、常に明るさを失わないのです。もちろんそれは、他の患者に不安を与えないためでしょう。心の中には動揺や悲しみ、そして悔しさが渦巻いているに違いないのです。しかし彼女達は、それを決して表に出しません。いつもどおりに患者に接し、いつもどおりの笑顔を見せてくれるのです。その姿を見て僕は自分が恥ずかしくなってしまいました。死ぬときは死ぬ、それは当たり前。たとえ結果がどうなろうと、僕はこの人たちに命を預ける。それで後悔することは決してない。そう思ったとき、僕は原点に返ることが出来ました。笑顔を忘れない。それが最高の治療になる。そして僕が笑顔でいることによって、少しでも回りの患者さんに、そして看護婦さんや先生達に元気になってもらえたら良いな、と思ったのです。その日以来、

「お前は病人に見えない!」

と言われ続けたことは言うまでもありません。それにしても、医者も看護婦さんもえらいなあ。僕はこのように心から信頼できる医療チームに囲まれていますから、いい加減な治療を行っている医者や、数人で患者を殺害していた看護婦などのニュースを聞くと本当に腹が立ってしまいます。そんなことで医療に関する信頼が失われるとしたら、まったくばかばかしい話です。ですからみなさん、メディア病のところでも触れましたが、そんなニュースだけを見て全てを判断しないでください。

 さてさて、そんな白衣の天使に囲まれた僕はどんな患者だったのかというと、ちょっと困ってしまう患者だったかもしれません。ビデオを持ち込んでですね、よく見ていたのです。ええ、近くにレンタルビデオショップがありましてね。通常外出する際は『外出届』なるものを書かないといけないのですが、なんちゅうかちょっと面倒ですよね。ですからそんなときは黙って外出してしまうのです。自転車でちょっと近くへ行くだけですから、別にいーじゃんよ、堅いこというなよ!と当初は思っていたのですが、もし外出先で事故なんかに遭ってしまったら当番の看護婦さんが責任を問われることになってしまうんですね。ですから、よい子は真似しないでください。看護婦さん、ごめんなさい。もうしません。ところで、ビデオを持ち込んでいるということは録画もできるということなんですね。水曜日の深夜に僕のお気に入りの番組がありましてね。北海道から発信されているそのローカル番組は、最初は

「何だこの番組は、ふざけないでちゃんとやれ!」

という感じなのですが、続けて見ているうちにボディーブローのように効いてくるなかなか面白い番組なんです。ご存知の方も多いはずですよ、このモンスター番組をね。それをね、毎週録画して昼間に見るわけですよ。ある日僕がその番組を見ていたところ、笑いをこらえられなくなってしまったんですな。とはいえここは大学病院の血液免疫病棟ですぞ、大声で大笑いしては周りの人に迷惑ではありませんか。しかししかし、もうだめなのです。こらえられないのです。

「うひゃひゃひゃひゃひゃ。」

僕はついに声を出して涙を流して笑い出してしまいました。そのまま5分間ほど、笑いっぱなしでした。さすがにまわりの患者さんたちも、

「なんだなんだ?」という感じで僕を覗き込んでいます。するとなんと看護婦さんたちが23人集まってきたではありませんか。

「なになに?」

いったい何が起きたのかと集まってきたのでしょうか。いざ来てみると涙を流しながら爆笑しているアホな患者が一人 アハハハハハハハハハ.... すいませんでした。大変お騒がせしました。また、その時期はちょうどワールドカップが開幕した頃でしてね、特に日本戦ではぎゃーぎゃー叫び声を上げてしまい申し訳ありませんでした。その他、病室でカップラーメン食って臭いを充満させたり、飯がまずいだの暑いだのわがままを言ってすみませんでした。週に一度の早回診はいつも逃げていました。お風呂に行ったり、アイス買いに行ったりしてね。でもそんな僕を常にサポートし続けてくださった先生や看護婦さんたち、あなた達は本物の白衣の天使です。



* この記事を書いたころは、「看護士」という言葉が一般的ではありませんでした。したがって、看護婦さんと言っています。

 

 僕個人としては、「看護士」よりも誇り高く温かい呼び方ではないかと思いますが、世の流れですので一応注釈を付けておきました。