妻と過ごした街に戻ってきた時、私の所持金は9万円ほどだった。

 

次の日のことや、まして将来のことなど考えていなかったので

 

それで充分だと思っていた。

 

あまり知られていないと思うが、携帯電話というのは

 

契約者が死亡したという情報が入った瞬間、回線を止められる。

 

しかも、強制的に、だ。

 

中のデータも見れなくなってしまう

 

私の携帯電話は妻名義だったので、妻が亡くなって3日で止められた。

 

妻との思い出が詰まった携帯電話・・・

 

その中に入っている写真を見る時だけが当時、私の安らぎだった。

 

そんな私を見た同僚が、私のために携帯電話を契約してくれた。

 

それに比べ、私に部屋を間貸してくれた同僚はひどいものだった。

 

妻が生前、働いていた時に、仕事がなく困っている

 

とのことだったので、私が働いている会社の社長に頭を下げて

 

なんとか雇ってもらうことができた。

 

彼が働き始めて、間も無く私が会社を辞めてしまったので

 

事情は詳しくは聞いていない。

 

ただ、就業態度が悪かっただけだと思うのだが・・・

 

その後、私と再会するまで無職。

 

よく生活ができるな、と尋ねると

 

「家賃、光熱費、携帯電話の料金以外とは別に毎週食費として1万円を

 

親に仕送りしてもらっている。」

 

30歳も過ぎた良い大人が親から仕送り?

 

仕送りがあるから働かなくても生活できるというのだ。

 

理由がないわけではない。本人はてんかんを患っていた。

 

しかし、毎日ちゃんと薬を飲んでいれば発作も出ないとのことだった。

 

一緒に生活していて気づいたのが、彼は薬を飲まない。

 

当然、てんかんの発作は出る。突然意識を失い倒れるのだ。

 

私はてんかんの発作を見るのは初めてだったので驚いて救急車を呼んだ

 

そして、彼の家族に知らせなければと、彼のスマホの連絡先から「姉」というのを

 

見つけたので、電話をかけ状況を伝えた。すると

 

「余計なことしないでください。」

 

といきなり怒られた。

 

なんて家族だ、とその時は思ったが

 

その後の彼の生活ぶりを見ていて家族が見放すのも

 

しょうがないな、と納得した。

 

彼は仕事を探そうともしない。薬もいくら私が毎日服用しろと言っても飲まない

 

食費として毎週仕送りされる1万円はパチンコで消える。

 

パチンコに負けると飯も食べられないのでコンビニで食料とタバコを

 

万引きしてくる。

 

酒癖も悪く、酔うと先輩であり、年上でもある私にケンカを売ってくる。

 

そんな彼との同居生活が1ヶ月続いたある日、携帯電話を契約してくれた同僚に

 

相談したところ、彼女は私のために隣町にアパートを借りてくれた。

 

本当に、いよいよ社会復帰だ。そう思った。

 

ちなみに万引きしてくる同僚とは引っ越し後、縁を切った。

 

その後、万引きがバレて警察に捕まって、現在は九州の山奥の何もない集落の家に

 

連れ戻されたと、噂で聞いた。