高野は、しばらく旅をしていたことを思い返し、これまで感じてきたモヤモヤした気持ちに気づき始めていた。異国の地で過ごした時間が、自分を少しずつ変えていたことを実感していた。だが、心の中でそれに気づくことができた一方で、現実的な問題が待ち構えていた。
「そろそろ、社会に戻らなきゃな…」
異国での自由な時間が、すっかり心地よく感じられた。しかし、旅行だけでは生活は成り立たない。とりわけ自分には、未来を形作るために必要なものが何か、まだ見えていなかった。
そんな中、高野は一人の知人から連絡を受ける。それは、昔の大学の同級生・山田からだった。山田は今、ある会社で働いており、高野に仕事の紹介をしたいと言ってきた。
「面接とか特に厳しくないし、君ならすぐに採用されると思うよ。」
あまりにも軽い調子で言われ、正直なところ最初はその話に乗り気ではなかった。しかし、旅先で自分を見つめ直す中で、少しずつ現実と向き合う必要があることを感じ始めていた。そして、何かしらの仕事を始めることで、再び歩みを進めるためのきっかけが得られるのではないかと思い直した。
「そうだな、行ってみるか…」高野は覚悟を決めて、山田からの誘いを受け入れることにした。
面接当日、簡単な質問と軽い会話の後、高野はすぐに採用されることが決まった。仕事内容は営業職で、最初は基礎的なことを学びながら少しずつ業務に慣れていくというものだった。驚くべきことに、特に専門的なスキルも求められず、必要なことはまず基礎から学ぶことだけだと言われた。
その晩、高野は再び空を見上げながら思った。自分は今まで何をしてきたのだろうと。社会に出て、どんな仕事に就いても、何かを学ばなければならないのは分かっている。でも、これまでの自分がどこまでその準備ができていたのか、改めて考えさせられる瞬間だった。
