『NEWSに恋して』
「ストーリーイベント
    幼なじみと夏の恋    〜恋花火〜 ②」
 加藤シゲアキ編 彼目線


☆①はこちらから⤵︎






————————————
「少し小腹空いてきたな」

まっすーがお腹を抑えてぼそっと呟く。
あれから型抜きやヨーヨー釣りに挑戦し、祭りを存分に楽しんでいた。
俺は少し呆れた声を上げた。

「え、あれだけ食べておいて!?
さすがだね」

まっすーは小柄なのによく食べる。
今日だってあれだけ食べて飲んだりしているのに、すごい食欲だ。

「花火ももうすぐ始まるから、買い込んでどっか座ろうか」

小山の声に、俺も時計を見た。
花火まであと15分程だ。
ゆっくり見たいから、先にトイレでも行っておきたいな。
混んでるだろうけど仕方がない。

「俺トイレ!先行ってて!」

短くそう告げて、俺はトイレを探して駆け出した。

「お?おぉ、わかった!」

小山の声が遠くで聞こえる。

「あ、待ってシゲ!俺も行く!」

走り出していた俺には、もうその声は届いていなかった。




(神社の方へ向かいながら探すか・・・)

毎年お祭に来ているし、子どもの頃からよく遊んでいる場所だから土地勘があった。
花火を見るのは毎年同じ場所で、神社の境内の中だった。
打ち上げる場所からは少し遠いが、人がほとんどいなくて、石畳の階段に座りながら見られるのが楽でよかった。
花火の場所から遠ざかっていくので、見つけたトイレは思ったより混んでいなくて、すぐに入ることができた。
あとは、神社の方へ向かうだけ。
その前に、ビールぐらい買っておくか?
いや、小山さん辺りは気を利かせて買っておいてくれそうだな。
まだ食べてない、つまめそうなものとかあるかな?
ぶらぶらと歩きながら、どんなものが売っているのか屋台を眺める。
みんな花火目的なのだろう、反対方向へどんどん人が流れていく。
空はもうすっかり暗くて、屋台の灯りと人のざわめきが渦巻いて、独特な盛り上がりをみせている。
すれ違うのは、やっぱりカップルが多かった。
女の子は浴衣を着て、カランコロンと慣れない足音を響かせている。
あいつらも今頃、花火を見に行ってるのかな?
まさか、いつもの場所で見るわけでもないだろうし、打ち上げ場所まで行くのだろうか。
ふと思い出してしまって、また心がざわめき出す。
礼の浴衣姿が目の裏に焼き付いて、離れなくなる。
恥じらう姿に、髪の後れ毛。
いつもとは違うその姿ーーー

心が焦れたように、チリチリと痛む。
なんなんだ、この感情は。
礼の姿を消したくて頭を振るが、全然消えてくれない。
むしろ、礼の赤らんで微笑む顔だけが、残像のようにその場に留まり続ける。

「ーーー白い浴衣姿の」

「お、本当だ!結構可愛いじゃん」

急に近くで、会話が耳に入ってきた。
段々と人が少ないエリアにはなってきたが、白い浴衣姿に反応したんだろう自分が、少し嫌になる。
そうえいば、ここら辺は軟派のスポットでもある。夏祭りともなれば、彼らにとっては絶好の機会なのだろう。

俺を通り越して、少し派手なシャツを着た二人組がスタスタと歩いて行く。
迷惑を掛けなければ軟派なんて好き勝手にやってくれと思うが、ついついその行く先を見てしまった。
白い浴衣姿とはいえ、礼だとは限らないのに。
二人組が向かう方向に目を凝らすと、そこには確かに白い浴衣姿の女性がいた。
が、もう一人紫の浴衣の女性。
礼ではなかった。
俺は胸を撫で下ろし、ほっと息を吐いた。

(一体、何をやってるんだーーー)

すると、視界の端でまた白い浴衣姿が目に入った。
長い髪を結い上げて、紫の花が揺れる簪を指している。




礼だーーー




ドクンと、俺の心臓が大きく高鳴った。
花火会場でもない、神社でもない方向へ向かっている。
そう、確かそっちの方向にはボートも乗れる結構大きな池があるはずだ。
花火が上がると、水面にもそれは映り込むのかもしれない。
それはきっと、すごく綺麗なはずでーーー


大分遠くにいるが、礼が楽しそうに笑っているのがわかった。
その笑顔の隣で、金色の髪が揺れている。


またドクン、と心が大きく鳴ってーーー
瞬間、俺の足は地面を蹴っていた。


何も考えていなかった。
どうして二人の方へ向かって行くのか、これから何をしようとしているのかすらも。




ただ、ひどく心がうるさくて、同時に穴が空いたように空虚だった。




俺ではない誰かに向けられる笑顔がある。
そう思っただけで、居ても立っても居られなかった。


何で隣にいるのが俺ではないんだろう?


胸がまた、チリチリと焼けるように痛い。


このまま礼は手越と花火を見るんだと考えると、少し泣きたくなった。


俺が、礼と一緒に花火が見たい。


その衝動が止まらなくて、俺はただ必至に走った。






————————————