自作小説の流刑地

自作小説の流刑地

意味のわからない自作の小説のようなものを載せます

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「悪口というのは、私の嫌いなものなんだよね」

「例えばさ、友達が別の友達の悪口を言ってたとするじゃない?」

「それは至極尤もなことで、そういう風に悪口を言われていてもおかしくない、って思うとする」

「でも、私はそれが嫌なの」

「悪口を言われている友達にもね、いいところ、長所があるの」

「私はそれを知っていて、悪口を言っている友達は知らないみたい」

「そういう時に私は思うのよ。『何も知らないくせにベラベラと喋るな』ってね」

「例え、悪口を言われている人と私に交友関係が無いと思われていても、その言っている人が許せなくなるの」

「そうなるとね、私の心はこう判断するのよ」

「『こいつ、嫌い。嫌だ。駄目』って」

「こんな単純な単語の羅列なのに、それは私にとって酷く重いものなの」

「友達を一人、心の中で失くすの」

「だけど、外面だけは友達のまま」

「だってもし、その子を無視して、クラスの女子に目をつけられて、いろいろ陰で言われるのが嫌だから」

「そこでまた私は思うのよ。『自分って卑怯者』って」

「そして、結局その悪口を言った人は私の心の中では永久追放みたいな感じになって、その人を信じなくなるの」

「何を信じないかって、そりゃその人の言う噂話の類とかよ」

「今、こいつは何を言ってるんだ? って思ってるでしょ?」

「深く考えないで」

「これがただ、私の本音なだけだから」

「何となく喋りたくなったから喋っただけ」

「ただ、それだけ」



(嗚呼、またこうやって友達が私を怖がって一人減る)
(この人が本当に友達だったのかなんて、わからないけどね)
「かっこいいこと言ってみたところで、要はモテない連中、負け犬の遠吠えだろ?」

「調子に乗るなこのイケメンがあああああ!」

 すかした顔に拳を振るうがあっさりと避けられ、更にガラ空きになった俺の脇腹に奴の肘鉄が突き刺さった。
 ……お、俺かっこ悪っ!

「う、うるせぇ……! ふ、普通に、チョコが貰える奴なんかに、俺達の苦しみがわかるかっ!」

「まず、『達』ってのが失礼だろ? こいつは貰えてるぞそれなりに」

 そう言ってイケメン野郎が視線で示したのは、いつもぼーっとしてる天然野郎。
 一部ではふわふわ君と呼ばれているので、今回はその呼び方を採用しよう。
 ふわふわ君はまた窓の外をぼーっと眺めていた。
 まるで、俗世間の事情なんて自分には全く関係ない、と言外に主張しているようだった。
 ……ん?

「え、何? お前、クラスでもあんまり喋らないのに、普通に貰えてんの?」

「………」

「お、おーい?」

「……あ、何か言った?」

 何度か声をかけやっと気づいたようだが、話を聞いていなかったらしい。(まぁ、ぼーっとしてれば話を聞けていなくても仕方がないが)
 もう一度聞き直すのも何となく怖いとか思うチキンな俺に代わって、勝ち組のイケメン野郎は訊いた。

「お前、毎年何個かチョコ貰えてるよな?」

「え、バレンタイン?」

「そうだ」

「んー……大体、三個くらい」

「嘘だああああああああ!!!」

 俺の絶叫が部屋に木霊すのを、ふわふわ君は不思議そうな目で見ている。
 っく! やめろ! そんな純粋な目で俺を見るんじゃない……!
 まるで、この世にあぶれ者なんて存在していることを知らないような目で俺を見るんじゃないッ!

「そ、それって誰にだ! 家族とかか!?」

「えーっと、マネージャーとか?」

「この運動部男子があああああ!!」

 ふわふわ君。ふわふわしていても決してとろい訳じゃない。
 むしろ足がめちゃくちゃ速い。というか運動神経がいい。

「お前確か、バスケ部だったよな?」

「そうだよ」

「な、バスケ部だとぅおおおおお!?」

 モテる部活じゃねぇか! 女子マネが必ずいる部活(これは先入観だ)じゃねぇかああああ!
 しかも、確かバスケ部の女子マネってかなり可愛かったよな!?
 ちっくしょうこの勝ち組があああああ!!

「さっきから煩いんだよ。何回叫べば気が済むんだお前は」

「これが叫ばずにおられようか! 何だよこの勝ち組共があああ!」

「……何かあったの?」

「気にするな。ただの僻みだ」

 イケメン野郎は相変わらずすかした様子で。
 ふわふわ君は状況を理解できていないようで。

「そんなにチョコが欲しいんなら、運動系の部活にでも入ればいいだろ? 女子マネのいる」

「それだけで貰えるんだったら誰も苦労なんかしねぇんだよ!」

「……は?」

「わかってないのか……」

 イケメン野郎が怪訝そうな顔で俺を見ていて、ふわふわ君はやっぱり窓の外を見ていた。

「例え運動系の部活に入っていたって、チョコが貰えない部員だっているんだ。俺はそいつを知っている。
 そいつはモテなくてモテなくて、どうしてモテないんだろうっていつも自問自答していた。
 モテる要素はあった。部活でも活躍していて、それなりに人気もある。
 ならば、どうして貰えなかったか?
 答えは簡単だ。それは………そいつの顔がちょっとアレだっただけなんだ!」

「……で?」

「顔だけでそいつは貰うことができなかったんだ! そんな話があるか! 人間は顔だけじゃない! 中身も大切なんだ!」

「そりゃそうだ。だけど、それほどそいつの顔がやばかったんだろ?」

「失礼な! 確かに、ちょっとゴリラと見間違えそうな顔ではあったが……」

「ゴリラを好きになる人間なんていない、と。つまりそういう話だろ?」

「な、お前、全国のゴリラ好き女子に謝れ!」

「いねぇよ」

「……あれ、お前は、バレンタインでチョコ貰えないの?」

 っぐっさぁぁぁぁぁぁ………
 ふわふわ君の何気ない一言が、俺の胸の中心を貫いた。

「っち、畜生ぉぉぉぉぉ! バレンタインなんか無くなってしまえええええ!!」

 俺の絶叫が再度木霊すると、イケメン野郎もふわふわ君も思わず耳を塞いだ。
 魂の叫びの効果は、つまりそれくらいということだ。
 体育の後は、眠い。
 特に、マラソンの後の授業なんて初めから終わりまで寝るのが当然というほどに眠い。

 まぁ、その当然をあっさりと実行できる人間も少ないらしいが。
 俺はそれをここ十年間ほどしっかりとこなしている。
 小学生の頃から授業中に寝てるなんて、不真面目にも程があるとよく言われるけど、知ったことか。

「おい、起きろ」

 耳元で野太い声が聞こえた。
 薄い意識の中で考える限り、数学教師の声らしい。
 確か、今日のマラソンの後の授業は数学だったはずだから。
 しかし俺は起きない。
 むしろ、断固として寝続けることとした。

 バシッ

「っ痛……」

 頭に殴られたような痛みが走る。
 音から推測するに、参考書か何かだろう。

「早く起きろ。寝るための授業じゃないぞ」

 うっせぇな。俺にとってはこの時間は寝るためのものなんだよ。
 後で職員室でも何でも行ってやるから寝かせてくれよ。

「……ったく、もう知らん」

 少しすると、根負けしたような声が聞こえた。
 それから、離れた所から割合大きな声が聞こえる。
 よっしゃ勝った。
 今、数学教師はきっと黒板の前で難しい問題を説明中だ。

 安心し、もう一度しっかり寝ようとした瞬間、脇腹に何かが勢いよく刺さったような感触。

「うわっ!」

 思わず身体を大きく震わせて起き上がってしまった。

「おお、やっと起きたか。じゃあこの問題を解け」

 そして、俺の声を聞いた数学教師が俺を指名してきた。
 ……おいおいおい、冗談じゃねぇぞ。

 俺は憎しみの念を込めて、俺の脇腹にシャーペンか何かを突き刺したであろう右隣の席に座っている奴を睨む。

(やっと起きた?)

 憎たらしいほど爽やかな笑顔で、そして小声で問いかけてくる奴。
 教師共には優等生キャラを演じ、クラスではノリがよく理解がいいキャラを演じる我がクラスの委員長。
 ダサ眼鏡とでもいうのか、漫画のキャラがかけていそうな黒縁眼鏡の位置を中指でブリッジを押し上げることで正し、目を細める。

(てめぇふざけんな。俺の貴重な睡眠の時間に……)

(きちんと授業を受けることが大切だと思うけど?)

 くすくす、と周りの連中が笑っている。
 俺は舌打ちを必死に堪えて、黒板を睨んだ。

 ……うわ、わかんね。
 数字やらアルファベットやらがひしめいている黒板は、一瞬見ただけでも眩暈がした。

「どうした、早く解け」

 数学教師がにやにやと俺を見ている。
 悔しいけど、ここは正直に「わかりません」と言うのも一つの手だが………

(答え、x=3分の4)

「あ、えっと、3分の4、っす」

「お、正解だ。ただ、途中式もきちんと言わんといけないもんだが、それはまぁ今回はよしとしよう」

 嬉しそうな顔で数学教師は説明を始めた。
 俺は、右方向を睨んだ。

(なんなんだよ、お前は)

(困ってるみたいだから助けてあげたけど、1回だけだからね)

(はぁ?)

 レンズの向こうの目は「しょうがないなぁ」みたいな感じになっている。
 ……もとはといえば、お前の所為だっての。

(ちゃんと聞きなよ。テストでかなり出るから)

(知るかよ)

 と言いつつ、すっかり眠気が飛んでしまった俺は黒板を再度睨んだ。
 数学教師の字は汚いが、何とか解読できそうだ。
 俺は渋々という感じでノートを開いて、黒板に書いてある数式を書き写し始めた。

 それを得意そうな顔で右から見ている奴のことは、意識の外に無理矢理放り出した。
 曖昧な関係はとても楽だけど、そういうのは我慢できない性質だから。

「好き」

 そう言って、何度も何度もフラれてきた。
 自分の惚れっぽさはいい加減に嫌になってきたから、曖昧な関係を我慢した。

 すると、ある時突然に誰もかれも、本当に好きと思わなくなった。
 というか、ただ気づいた。

『好きなんじゃなくて、ただ憧れていただけだったんだ』

 自分でも馬鹿馬鹿しくて、意味がわからなかった。
 憧れを好意と勘違いしていた自分が、ひどく恥ずかしかった。

 男女問わずに、友達が沢山できた。

 何も告げなければ、誰も離れない。

 だけどある時、ある人に「好きだ」と告げられた。
 何と答えたらいいかわからなくて、何も言えなかった。
 その人は「ごめん」とだけ呟くように言って、行ってしまった。

 そしてやっと気づいた。
 言わな過ぎても、いけないんだと。

 人間は、自分には複雑なんだろう。
 そう思ったら、ちょっとうんざりしてきた。

 我慢しながら、同時に我慢しないようにしなければならないなんて。

 普通に生きるのは、自分にはとても難しい。 

「今日こそ負けないから」

「望むところだ」

 コントローラーを手に取り、ゲームスタート。
 使用キャラクターを選び、ステージを選んだら、バトルが始まる。
 格闘ゲーム、略して格ゲーは俺とこいつを結ぶ理由の一つだ。

 普通なら例え幼馴染でも、男と女ならそんなにべたべたしないものだろう。
 だけど、俺達は違う。
 俺達は幼馴染でも何でも無く、中学からの付き合いだ。
 お互いゲームが好きで、何となく気が合って、何となく家が近いからという理由で

よく遊ぶ。
 高校生になった今でも、休みの日にお互いの家に遊びに行ってゲームをする。
 基本的には俺の家でずっとゲームをやって、飽きたら部屋にある雑誌や漫画を読む


 特に最近こいつは格ゲーにハマってるみたいで、ちょっと前まで熱中していたレー

スゲームとすっかり久しくなった。

「食らえ強攻撃っ」

「甘いっ」

「な、すり抜け!?」

「もらったぁぁ!」

 ゲームは、ほとんど俺の方が強い。
 俺が苦手なのはパズルくらいで、あとはこいつに負けたことが無い。
 格ゲーも然り。

 テレビ画面の中央には『WINNER 1P』の文字が表示された。
 俺の勝ちだ。

「上手くコンボできてたと思ったのに……」

「まだまだ甘いなー」

「……もう一回。次は負けないから!」

「何度やっても結果は同じだろー? 今までだって、お前一回も勝ったことないん

だし」

「煩い。もう一回!」

 ゲームで負けたことがそんなに悔しいのか、むきになって勝負を挑んで来た。
 俺はそれを受けて立つ。負ける訳が無いからだ。

「次のキャラはどれにするかなー……」

「今度こそ負けないから。使いやすいキャラにしといた方がいいんじゃないの?」

「大丈夫。俺は余裕で勝つから」

「むかつく……その余裕、すぐに崩してやる」

 テキトーにキャラを選んでステージ選択に。
 いつもはランダムを選択するところだが、ここは……。

「ステージ、選ばせてやるよ」

「……どんだけ余裕ぶっこいてんの? 後で泣いても知らないよ?」

 言いながら、狭いステージを選択するこいつ。
 多分、壁に追い込んでコンボを決めるつもりなんだろう。

 俺とこいつは、男と女の間に友情があるってことを証明しているんだと思う。
 自分でも馬鹿馬鹿しいとは思ってる。
 男女間の友情なんて、小学生でもあるまいし、今更信じちゃいない。
 だけど、こいつといると信じざるをえなくなっている。

 俺は別に、こいつを好きな訳じゃないし。

 一緒にいてもドキドキしたりなんかしないし。
 それに、俺は別に気になってるヤツがいるし。

「ねぇ」

「ん?」

 画面から目を離さずに会話する。
 それくらいのこと、俺達には朝飯前だ。
 話しているからと言って、ゲームに力が入らないなんてことじゃ甘い。

「そういえばあんたさ、好きな人っていないの?」

「え、何いきなり」

「何となく。休みの日は大体あたしと過ごしてるし、もし好きな人いてもデートも

できないでしょ」

 確かに、言われてみればそうだ。
 しかしそれはこいつも同じなはずで。

「お前はいないの? 好きな人」

「は? 何であたし?」

「だって、この流れだとお前もデートとか行けないって流れになるじゃん」

 ガードの隙間をぬって、攻撃を叩き込む。
 そこからすかさずコマンドを入力して、必殺技を出した。
 ラッシュが終わると、画面の中央には『WINNER 1P』の文字が浮かぶ。

「で、お前は好きな人いない訳?」

「、いないよ」

 一瞬だけ、息を飲むような音がした。
 それから答えが返って来る。

「あっそ。ま、俺は別にゲームやってんの楽しいからいいんだよ」

「ふぅん」

「もし彼女できたら、『ごめん今日デートなんだ』言うだろうけどな?」

 冗談めかして言いながらあいつを見ると、何だか不機嫌そうな顔をしていた。
 ……どれだけ負けず嫌いなんだお前は。
 ゲームで負けて思いっきり唇を噛んでるヤツとか珍しいぞ。

「……もう一回」

「ん、わかった」

 キャラをテキトーに選んで、ステージ選択へ。
 反射的にランダムを選択してから、ちょっと失敗したと思った。
 だけどあいつは何も言わずに、ただ画面を見ていた。



「負けないから」



 ぼそり、と呟くように言われた。
 いつもの調子で軽く返す。

「俺が負ける訳無いだろ?」

「……絶対に、負けない」

 そんなに負けが嫌か。
 今度はちょっと、手加減して勝たせてやるべきか……。
 いや、そんな甘っちょろいことはしなくていいだろう。
 きっとこいつもそんなことは望んでいないだろうし。

 テレビから、渋い男の声が流れる。

『Ready...FIGHT!』