ピーッ…ピーッ…
頭の中で端末が破損した警告音が鳴り響く。

「一人じゃ無茶だ!早く戻れよ!そうしないと先生、消えちゃうんだぞ!」
甲高い管理人アバターの声がうっすらと聞こえる。

これ以上は無理だ。下手をしたら俺はここで消滅してしまうだろう。でも…
「でも、お、俺が、助けなきゃ…みんな…を…!」
地面のない空間で這いつくばりながら手を伸ばすと、バキバキにひび割れた端末が目に入った。

ピーッ…ピーッ…
うるさい。うるさい。体が溶けはじめる。痛い。痛い。助けなきゃ。俺が。俺が…ッ!
「うっああああああっ!!!」
真っ白になっていく視界の中で、管理人アバターが言った

『僕が…戦士を見つけ出すから…だからー。』

【1】
今日は早く目が覚めたため、俺、一ノ瀬ゆうきはぼんやりした頭をすっきりさせるために散歩をしていた。
駅近くの大通りでは、早起きのサラリーマンやら学生やらが歩いていた。最近多発している失踪事件の恐怖からか、目に隈を浮かべた人達ばかりだった。

近くのベンチに腰を掛けてスマホを開くと1通の差出人不明のメールが届いていた。

そこにはただただURLが貼り付けてあるだけで、他には何もなかった。URLを選択し、サイトに飛ぶと、どうやらそこは『fortum』という名前のチャットルームのようだった。

自分には関係ないと思いページを閉じようとした時。激しい頭痛が襲い、目眩がした。そしてなぜか画面の中に吸い込まれて行くような感覚に襲われ、頭痛が治まったときには、0と1の空間を落下していった。
「うわぁぁぁぁ???!!な、なんだこれ???!!ああああああっ誰か助け…!」

ドスンッ
「い、いってぇ~…!」
長いような短いような距離を落下していった先は、妖精が住んでそうなメルヘンな部屋の中だった。

「一体ここは何処なんだ?」

部屋の中央にある丸いテーブルに腰をかけて首を傾げる。
「にしても、誰の部屋だろう。こんな部屋に住んでる子いたっけなぁ」
うーんうーんと唸っていると突如後頭部に枕を投げつけられたような衝撃が走った。
そこまで強い衝撃ではなかったが、驚いた反動で机から転げ落ちる。

「おいお前!いつ気づいてくれるかと思えば、さっきから何ぼうっとしてるんだ!退屈だったんだぞ!」
うずくまった背中の上で何かがふわふわと暴れている。

「いっててて、ったくなんなんだよ。ん?」
背中で暴れている何かを乱暴に掴むと今度は顔面にとんできた。
「痛いぞ!丁重に扱えばか!」
「いってぇ!なんだお前ー!へんなのー!」
「変なのじゃない!僕はメミニ様だ!全く、こんなやつが選ばれし戦士だなんて、データはどこかでバグでも起こしたのかな」

「選ばれし戦士…?なんだそれは?」そう言おうとした時、メミニの声よりも高い、アラームのような音が鳴った。


「話は後だ!お前、名前は?」
険しい顔をしたメミニが聞く
「一ノ瀬…ゆうきだけど?」
「ゆうき!行くぞ!」
メミニがそう叫ぶと半場引きずられながら現実世界に戻った。

細い路地裏を通り、よく知った大通りにでた。
……………はずだった。
そこには逃げ惑う人々と、剣を振り回す怪物がいた。

「な、なんだよ……これ。」
「ゆうき!戦うんだ!!その端末に入ってる変換アプリを起動させろ!」
「よく…わかんねぇけど、これを止められるのは俺ってことか。仕方ねぇ、やってやる!」
メミニに言われたようにアバター変換アプリを起動し、赤い色の可愛くデフォルメされたキャラクターを選択した。

「データ!エンコード!」
そう叫んで、アバターを自分の方向にフリックした。
体の中に流れてくる何かによって、細胞が上書きされる感覚がする。気がついた時にはアバターと同じ姿になっていた。

「わぁぁすげぇー!」
「集中しろ!」
テンションが上がって一人で飛び上がっているところをメミニの渇が入った。
あちこちからわらわらと集まってくる、いわゆる雑魚敵を片っ端から殴る。すると剣を振り回していた怪物がこちらに気づき、低く唸った。

「ぐ……ぐ、ぐ………」
「お前が親玉か?」
召喚したカーソルソードを即座に構える。
じりじりと間合いを詰めていき半径5m以内に来たところで敵が飛びかかってきた。
それをすかさず避け、カーソルソードを腹に突き刺した。
「う、ぐぅッ……!」
突き刺したところがばらばらと崩れ落ち、やがては爆発して塵が舞った。

「ふぅ、こんなもん?」
汗を拭う仕草をしながらメミニの方を向く。
「まだだぞ!気を抜くな!リトルブラザは一回目の破壊では消えない!」
頭に「?」を浮かべていると建物が破壊される爆音が響いた。
振りかえるとそこには巨大化したさっき倒したはずの敵がいた。

「な、な、な、なーーーーーーーー????」
驚きのあまりわたわたと動き回る。
「グルウェアオーじゃないと対抗できない…でもまだ人数が…」


「…お困り?」
メミニがボソボソと呟いていると声が聞こえた。その方を向くと、デジレッドと似たデザインの青、黄色、緑、ピンクの戦士がいた。さっきの声はどうやらデジブルーらしい。
「おー!仲間?仲間なのか!?女子だー!」
「遅くなってごめんなさい…」
デジイエローが軽く謝罪をする。
するとデジグリーンが少し呆れ気味に手を叩く。
「早く、あれを止めないと。」
「そうだな。誰だかわかんねぇけど、行くぞみんな!」
『machine calling』と書かれたバーを押す。すると電話のコール音の用な音が鳴り、爆音と共に巨大ロボ『グルウェアオー』が出現した。
中に飛び込むと床には5人分の方向キーがあり、定位置に着くと、映像が浮かび上がる。どうやら外の様子を写し出しているらしい。

「グオオオオッ!」
敵が突進してくるところを右の方向キーを踏んで避ける。
手を振ると動きが連動してグルウェアオーは剣を振った。
命中したところから火花が散る。
その反動で機体はぐらぐらと揺れた。

「弱点はお腹のところの宝石です!」
デジピンクがみんなに伝えた。
「そっか、だからさっき、腹を刺したら何かが崩れたのか!よし!」
思いきり手元を引き、一気につき出すと、見事剣が敵の腹部に突き刺さった。
「グオオオオオオオオッ!」
敵はそのまま倒れ、2度目の爆発を起こし、完全に消滅した。

「まぁ、初めてにしちゃ、結構良かったんじゃない?」
デジブルーが嬉しそうに跳ねる。
「あ、こんな時間、私行かなきゃ…」
デジイエローはそうボソッと呟いてそそくさと歩きだした。
「あぁ、僕たちにも僕たちなりにプライベートがある。それじゃあ、解散しようか。」
そういって4人は別々の方向に歩きだした。
「あ、ちょっと!」
ゆうきが必死に止めようとするがもうみんなの姿は見えなくなっていた。
「自由すぎるぜ…」
そう呆れ顔になりながら変身を解いた。