「おい!ゆうき!!」
突然画面にメミニのドアップが写し出され、思わず端末を落としかける。

「わっ…お、驚かすなよ…!」
ジトっと画面を見つめるとまたまたメミニが騒ぎだす。
「なにもたもたしてんだ!みんな待ってんだぞ!」
そう叫ぶと画面がチャットルームに切り替わった。どうやらメミニがやったらしい。
そこでは昨日見た4色のアバターと俺の真っ赤なアバターが動き回っていた

【2】
チャットルーム『fortum』に集められた俺たちはメミニから色々なことを聞いた。

・俺たちは選ばれし戦士、【デジレンジャー】だということ。

・『fortum』は俺達の基地であり【サイバースペース】と呼ばれる電脳空間にあるということ。

・秘密結社【トロイの木馬】がこの世界の征服をたくらんでいること。

・メミニはデジイグニスと共に戦っていたが、とある戦いでデータが破損してしまったこと。

・失踪事件は【トロイの木馬】が関連しているということ。

「って全然わかんねぇ~!!」
「だよなぁ、お前みたいな猿頭にはわかんないだろうな~」
頭を抱えて唸るとメミニが挑発してくる。
殴ろうと右手を握りしめたが、画面の向こうにいるメミニのことはもちろん殴ることができないため、そのままわなわなと震えた。

少ししてずっとソファに座って考え事をしていたデジピンクが質問を投げかけた。
「デジイグニスさんは消えてしまったんですよね…?それ、どうやって助けるんですか?」
その質問でメミニの顔がまた険しくなる。
「サイバースペースにいる場合はどんなものでも1つのデータとして扱われるんだ。消滅といっても全部が消えるわけじゃない。消えた痕跡とか、データの欠片は残ってるはずだぞ。それを集めれば…!」
突如メミニの言葉を遮るように昨日聞いたあのアラームのような音が鳴り響いた。

「大変だ!また敵が現れたみたいだぞ!マップを送るから行ってくれ!」
そうメミニが叫ぶと画面が切り替わりマップが表示された。そこには現在位置と敵の位置が表示されている。
「データ!エンコード!」
俺は家を飛び出して目的地に向かった。

目的地に着くと他の4人もすでに揃っていた。もちろん俺も向こうも昨日見た戦士としての姿だ。
「ちょっと!遅い!!」
デジブルーがこっちに気づき、わらわらと集まってくるレギオニス軍団をかわしながら駆け寄ってくる。軽く謝ると「ま、いいけどーっ!」と少し偉そうな返事が返って来た。
少しして他の3人も近くにいたレギオニスを避けながら駆け寄ってきて、5人が揃った。そして1列に並ぶ。

一回手を叩き、声高らかに叫んだ。
「さてと、名乗りといきますか!」
「繋索の戦士!デジレッドッ!」
「詰組の戦士!デジブルー!」
「か、可換の戦士…デジイエロー…」
「見真の戦士!デジグリーン!」
「伝導の戦士、デジピンク!」
「コネクティング!」
『電脳戦隊!デジレンジャー!』

勢いよく走りだし近くにいるレギオニス軍団を倒していく。
半分ほど倒したあたりで隙間から何かが見えた。よく見るとそれは、ボロボロの布を無理矢理張り付けたぬいぐるみのような怪物だった。首から砂時計をぶらさげている。

「あいつか…ッ!」
隙間を通り、なんとか近づこうとするが数匹ものレギオニスにおしつぶされる。
「ッ!あぁーもー!邪魔くせぇ!」
カーソルソードを召喚し、のしかかってくるレギオニスを薙ぎ払うが遅かった。
怪物は虫眼鏡のようなアイテムから光線を放っていた。

「危ない!」
前に滑り込んできたデジグリーンが盾を構える。

「あれれ?防がれちゃったや。まだまだ特訓が足りないなぁ~」
怪物は首を傾げて不思議そうに虫眼鏡を眺める。するとその顔めがけて光線が発射した。怪物の頭から火花が散る。

「いたたたたった~も~、扱いも難しいなぁ。やだやだ。」
それを見たデジピンクが可笑しそうに笑う。
「ちょ~、お前何笑ってんのさー!このジョクラ様を侮辱するってのー??!」
「いえ、こんなにも愉快な敵は初めてなので。ふふっ。」
「も~!どいつもこいつも、ジョクラ様をなめやがって~!これでもくらえっ!」
怪物:ジョクラは小さな人形を投げる。するとそれはたちまち大きくなりその大きな手で建物を破壊した。

「俺たちも行くぞ!」
そう言ってグルウェアオーを呼び出す。
中に乗り込むと昨日と同じように定位置についた。

上のカーソルキーを飛び乗るかのように踏み、前進する。
そして腕を降り、剣を振り下ろす。
昨日とは違い、火花ではなく綿が飛んだ。
「あの首元、綿に囲まれてるけど、何か光ってる…!」
「きっとあそこを攻撃すればいいでしょう。でも綿が邪魔で届くかどうか…」
巨大人形は隙をついてパンチをしてくる。
機体は大きくぐらぐらと揺れた。
「うわあっ!!」
「超やばいんですけど~!なんとかしないと!!」
倒れないようにと必死にバランスを取っていると、デジイエローが小さく挙手をし、提案した。
「あ、あの、上手くいくかは…わからないけど、みんなで力を合わせれば…」
「ふーん。必殺技ってわけ。いいじゃん!ね?リーダー?」
「あ?あ、あぁ。(よくわかんねぇけど)やってみようぜ!」
両手を広げ繋ぐ。
すると体の中に電流が走った。
「うおおおお!なんか来た!」
飛び上がりたくなるのを抑えるために手を握る力を強める。
「よしゃ!行くぜ!」
『変換!トランスラッシュ!』
声を合わせ、叫ぶ。
するとさっきよりも強い凄まじいパワーを溜め込んだ剣を振り下ろした。
敵を縦に裂くと大量の綿が舞い、首元に埋め込まれていた、破壊された光の欠片が散った。そして爆発が起こるとその人形のような敵はバラバラになって消えた。

「凄かったな~!あの、技!ぞくぞくしたぜ!」
俺は端末の中にいるメミニに向かって先程の戦いのことを語っていた。
「やっぱり、選ばれた5人がコネクトしあうと不思議な力が起こるっていうのは…本当だったんだ…」
「っておい、メミニ~聞いてる?」
何かボソボソと呟きながら話を聞いていた(はず)メミニはなぜか驚いてソファの上を転がった。
「どうしたんだよ?」
「どうもしてないぞ!幼稚園児みたいなやつらばっかりなのに勝ててよかったな~って思ってただけだぞ!」
「あ?!どういうことだそれ~!」
「そのまんまの意味だー!」
また幼稚な言い争いが始まる。
これはチャットにみんなが戻って来るまで止まることはなかった。

ピーッ…ピーッ…
頭の中で端末が破損した警告音が鳴り響く。

「一人じゃ無茶だ!早く戻れよ!そうしないと先生、消えちゃうんだぞ!」
甲高い管理人アバターの声がうっすらと聞こえる。

これ以上は無理だ。下手をしたら俺はここで消滅してしまうだろう。でも…
「でも、お、俺が、助けなきゃ…みんな…を…!」
地面のない空間で這いつくばりながら手を伸ばすと、バキバキにひび割れた端末が目に入った。

ピーッ…ピーッ…
うるさい。うるさい。体が溶けはじめる。痛い。痛い。助けなきゃ。俺が。俺が…ッ!
「うっああああああっ!!!」
真っ白になっていく視界の中で、管理人アバターが言った

『僕が…戦士を見つけ出すから…だからー。』

【1】
今日は早く目が覚めたため、俺、一ノ瀬ゆうきはぼんやりした頭をすっきりさせるために散歩をしていた。
駅近くの大通りでは、早起きのサラリーマンやら学生やらが歩いていた。最近多発している失踪事件の恐怖からか、目に隈を浮かべた人達ばかりだった。

近くのベンチに腰を掛けてスマホを開くと1通の差出人不明のメールが届いていた。

そこにはただただURLが貼り付けてあるだけで、他には何もなかった。URLを選択し、サイトに飛ぶと、どうやらそこは『fortum』という名前のチャットルームのようだった。

自分には関係ないと思いページを閉じようとした時。激しい頭痛が襲い、目眩がした。そしてなぜか画面の中に吸い込まれて行くような感覚に襲われ、頭痛が治まったときには、0と1の空間を落下していった。
「うわぁぁぁぁ???!!な、なんだこれ???!!ああああああっ誰か助け…!」

ドスンッ
「い、いってぇ~…!」
長いような短いような距離を落下していった先は、妖精が住んでそうなメルヘンな部屋の中だった。

「一体ここは何処なんだ?」

部屋の中央にある丸いテーブルに腰をかけて首を傾げる。
「にしても、誰の部屋だろう。こんな部屋に住んでる子いたっけなぁ」
うーんうーんと唸っていると突如後頭部に枕を投げつけられたような衝撃が走った。
そこまで強い衝撃ではなかったが、驚いた反動で机から転げ落ちる。

「おいお前!いつ気づいてくれるかと思えば、さっきから何ぼうっとしてるんだ!退屈だったんだぞ!」
うずくまった背中の上で何かがふわふわと暴れている。

「いっててて、ったくなんなんだよ。ん?」
背中で暴れている何かを乱暴に掴むと今度は顔面にとんできた。
「痛いぞ!丁重に扱えばか!」
「いってぇ!なんだお前ー!へんなのー!」
「変なのじゃない!僕はメミニ様だ!全く、こんなやつが選ばれし戦士だなんて、データはどこかでバグでも起こしたのかな」

「選ばれし戦士…?なんだそれは?」そう言おうとした時、メミニの声よりも高い、アラームのような音が鳴った。


「話は後だ!お前、名前は?」
険しい顔をしたメミニが聞く
「一ノ瀬…ゆうきだけど?」
「ゆうき!行くぞ!」
メミニがそう叫ぶと半場引きずられながら現実世界に戻った。

細い路地裏を通り、よく知った大通りにでた。
……………はずだった。
そこには逃げ惑う人々と、剣を振り回す怪物がいた。

「な、なんだよ……これ。」
「ゆうき!戦うんだ!!その端末に入ってる変換アプリを起動させろ!」
「よく…わかんねぇけど、これを止められるのは俺ってことか。仕方ねぇ、やってやる!」
メミニに言われたようにアバター変換アプリを起動し、赤い色の可愛くデフォルメされたキャラクターを選択した。

「データ!エンコード!」
そう叫んで、アバターを自分の方向にフリックした。
体の中に流れてくる何かによって、細胞が上書きされる感覚がする。気がついた時にはアバターと同じ姿になっていた。

「わぁぁすげぇー!」
「集中しろ!」
テンションが上がって一人で飛び上がっているところをメミニの渇が入った。
あちこちからわらわらと集まってくる、いわゆる雑魚敵を片っ端から殴る。すると剣を振り回していた怪物がこちらに気づき、低く唸った。

「ぐ……ぐ、ぐ………」
「お前が親玉か?」
召喚したカーソルソードを即座に構える。
じりじりと間合いを詰めていき半径5m以内に来たところで敵が飛びかかってきた。
それをすかさず避け、カーソルソードを腹に突き刺した。
「う、ぐぅッ……!」
突き刺したところがばらばらと崩れ落ち、やがては爆発して塵が舞った。

「ふぅ、こんなもん?」
汗を拭う仕草をしながらメミニの方を向く。
「まだだぞ!気を抜くな!リトルブラザは一回目の破壊では消えない!」
頭に「?」を浮かべていると建物が破壊される爆音が響いた。
振りかえるとそこには巨大化したさっき倒したはずの敵がいた。

「な、な、な、なーーーーーーーー????」
驚きのあまりわたわたと動き回る。
「グルウェアオーじゃないと対抗できない…でもまだ人数が…」


「…お困り?」
メミニがボソボソと呟いていると声が聞こえた。その方を向くと、デジレッドと似たデザインの青、黄色、緑、ピンクの戦士がいた。さっきの声はどうやらデジブルーらしい。
「おー!仲間?仲間なのか!?女子だー!」
「遅くなってごめんなさい…」
デジイエローが軽く謝罪をする。
するとデジグリーンが少し呆れ気味に手を叩く。
「早く、あれを止めないと。」
「そうだな。誰だかわかんねぇけど、行くぞみんな!」
『machine calling』と書かれたバーを押す。すると電話のコール音の用な音が鳴り、爆音と共に巨大ロボ『グルウェアオー』が出現した。
中に飛び込むと床には5人分の方向キーがあり、定位置に着くと、映像が浮かび上がる。どうやら外の様子を写し出しているらしい。

「グオオオオッ!」
敵が突進してくるところを右の方向キーを踏んで避ける。
手を振ると動きが連動してグルウェアオーは剣を振った。
命中したところから火花が散る。
その反動で機体はぐらぐらと揺れた。

「弱点はお腹のところの宝石です!」
デジピンクがみんなに伝えた。
「そっか、だからさっき、腹を刺したら何かが崩れたのか!よし!」
思いきり手元を引き、一気につき出すと、見事剣が敵の腹部に突き刺さった。
「グオオオオオオオオッ!」
敵はそのまま倒れ、2度目の爆発を起こし、完全に消滅した。

「まぁ、初めてにしちゃ、結構良かったんじゃない?」
デジブルーが嬉しそうに跳ねる。
「あ、こんな時間、私行かなきゃ…」
デジイエローはそうボソッと呟いてそそくさと歩きだした。
「あぁ、僕たちにも僕たちなりにプライベートがある。それじゃあ、解散しようか。」
そういって4人は別々の方向に歩きだした。
「あ、ちょっと!」
ゆうきが必死に止めようとするがもうみんなの姿は見えなくなっていた。
「自由すぎるぜ…」
そう呆れ顔になりながら変身を解いた。