ノック、ドアを開ける、入る。という一通りの動作が言葉と同時に行われた。
「何回言ったら分かるんだ、いいよって言ったら入ってこい。」
今月に入って数十回はこの言葉を言っている。
「いいじゃん別にー、それとも見られたくないものでもあるの?」
笑いながら妹がいうこのセリフも、数十回は聞いた。
第一、ここは高二の、それも男子の部屋だ。
思春期真っ盛りの男子の部屋なんて危ないものばかりだろう。
いや、おれはないけどね?常識的に、あるだろうということだ。
とにかく、無断(一応断っている。だが、入ると同時に。)入室はやめてほしい。
プライバシーの侵害だ。
「で、一体なんだ。」
「んー?本借りようと思って。」
そう言って、本棚から本を手に取る。
「じゃぁ行ってくるねー、お兄ちゃん。」
「いってらー」
鞄に教科書を入れながら口だけで返事をする。
俺は、この妹、結には無断入室の件も何もかも許してしまう。
・・・・・
何故なら彼女は、冴木 結は、俺以外の人間とは関わらないから。
生活上、誰とも関わらないというのは無理があるか。
言い替えよう。
ー親しく接する人が誰もいないのだ。ー
原因は、親の離婚。そしてその離婚の理由の父親の浮気。
大好きな父の浮気という事実により、人間不信になった。
でも何故か俺だけには心を開いてくれた。
母にさえ、必要最低限のコミュニケーションしかとらないというのに...
学校へいく準備を終え、玄関を出る。
母は妹とほぼ同じ時間に仕事へ行くため、俺が家を出るときには家には誰もいない。
「いってきます。」
誰もいない家に向けて言った。
俺の通う学校は家から三百メートルほどにある。
それなりに大きな高校で、特に部活動は盛んだ。
全国とは言わないが、どの部も基本県大会の常連らしい。
らしいというのは、俺が帰宅部で、友達から聞いたことがあるからだ
友達、、、も、一人しかいない。
だが、一人で十分だ。
席につき、そのただ一人の友達の席を見る。
仙羽(せんば) 修(しゅう)
彼は俺と比べて遥かに友達が多く、俺にとっての辞書のようなものだ。
なんでも情報をくれる。
そんな奴が今日は来ていない。
確か、昨日こんなことを言っていた。
「面白いアルバイトがあるんだ。悠牙、一緒にやらないか?」
俺は断った。
何かしないほうが良い気がしたからだ
いつもと変わらぬ学校生活を送り、帰宅する。
そしていつも通り修にメールを送る。
だが、一向に返事が来ない。
「ヤバいアルバイトしてんじゃねーだろうな。」
不安で嫌な汗が頬を伝った。
しかし、俺にはどうすることもできないので、不安とともに眠りについた。
返信が来たのは午前2:00だった。
着信音で目が覚めた。
「んだよ、こんな時間に。」
顔をしかめつつ、携帯を開く。
ー招待状!
素敵な世界があなたをお待ちしております!
白河第三工事現場で待っています。ー
とあった。
宛名は修からだ。
ふざけているのか。
そう思っていたのに、何故か俺は工事現場に立っていた。
辺りは闇に包まれている。風の音も聞こえない静寂。
その静寂を打ち消すように、音が鳴り響いた。
パチンッ
指がなった方向に反射的に向くと、 男が浮いていた。
夢かと疑うような出来事だ。
だが確かに、仮面をつけた男が浮いていた。
そして男は俺に言う。
「選ばれし者よ。汝にジーニアスの加護を受ける資格はあるか。」
刹那、辺りの闇が俺を飲み込む。
そして俺は、深い深い闇の底へと、堕ちていった.