ジョン・クーパーは、契約してから、整備と車検・登録に1ヵ月かかりました。

納車の日、店に行くと、裏の整備場でジョン・クーパーが私を待っていました。

早口の店主が、一通り取扱い方を説明してくれます。

キャブレターエンジンのクラシックミニには、今の車のような、電子制御は一切ないので、取扱いにコツが必要でクセが強い車であること、故障の原因となるやってはいけないことなどをいくつか説明してくれました。

「じゃあ、運転席に座ってみて」と言われ、私が乗り込んでハンドルを握ると、店主が助手席に乗り込んできました。

「今の季節だと(6月です)チョークを半分引いて、キーを回して…、おっと、アクセルは踏んだらアカン!」

言う通りにすると、簡単にエンジンがかかりました。

「かかったら、チョークを押し込んで…、アクセルには足を載せるだけ、踏んだらアカン!」

数分の暖機運転のあと、走り出すと、クラッチの扱い方や、メーターからエンジンの状態を知る方法などを教えてもらい、2~3kmほど走って、練習は終わりました。

 

帰り道、店を出てしばらく走った後、水温計と油圧計を見ると、エンジンとオイルが温まったようだったので、アクセルをグッと踏み込んでみました。

グオッという低い排気音を伴い、有り余るようなトルクで、ジョン・クーパーは加速します。

SUツインキャブレターの「コオーッ」という吸気音が、まるでレースカーのようです。

サスペンションのラバーコーンは、経年劣化でへたっていて、ほとんどストロークしないため、ガタガタと本当にゴーカートのような乗り心地でした。

30年前に乗ったイノチェンティ・ミニ・デトマゾで味わったフィーリングが蘇りました。

私は、ニヤニヤしながら家に帰りました。

 

納車の後しばらくは、嬉しくて、休日の他にも仕事から帰宅した後、ジョン・クーパーを乗り回しました。ジョン・クーパーは、ただ運転するだけでも楽しい車です。

 

エンジン、足回りは整備してくれましたが、他の装備は現状渡しだったので、壊れたオーディオを交換したり、マフラーを補修したり、できることは全部自分でやりました。

白くなって、所々傷んだ塗装は、友人の塗装屋で入念に塗り直してもらいました。

表皮が破れていたシートは、家具の補修職人の店で修理してもらいました。

納車後、3か月ほどの間に、電気系統も強化したり、フロントの足回りのブッシュ類も交換したりしました。

それからも毎月のように、自分好みのアクセサリーパーツを付けたり、劣化しているパーツを新品に交換したりしました。

お酒もたばこもやらない私は、小遣いのほとんどをジョン・クーパーに注ぎ込み、一連の費用は、もう百万円以上は費やしていると思いますが、全く惜しいとは思いませんでした。

少しずつ良くなっていくジョン・クーパーを見るのが、私の大きな楽しみになりました。

そして、ジョン・クーパーは、ピカピカのクラシックミニに生まれ変わりました。

購入から1年ほど経って、買ったショップを訪れた時、見違えるほどきれいになった私のジョン・クーパーを見た店主から、「これ、あの車か?凄いな、売ってよ!」と言われました。

 

そして、ジョン・クーパーオーナーとなった一番の楽しみは、やはり運転することです。

ミニ・クーパーは、見た目はキュートでも、かつてモンテカルロラリーを3度制覇したチャンピオンラリーマシンです。

それを上回るチューンドエンジンを載せたジョン・クーパーは、前オーナーによるミニマルヤマでのフルチューンによって、鋭い吹上りとクイックなコーナリングを見せてくれます。

絶対速度は決して速くはないのですが、太いエンジントルクと低いドライバー視点により、スピード感満点で、ストロークしないサスペンションによるダイレクトな挙動は、まさにゴーカートです。

スイフトスポーツも、ワインディングでは、素晴らしい走りを味わえますが、ジョン・クーパーは、それとはまた違うクラシックスポーツカーの走りを楽しめます。

それともう一つ、街なかでの注目度もとても高い車です。

スタンドで給油しているときや、コンビニに立ち寄った時など、結構な確率で話し掛けられます。(50歳以上の男性ばかりですが…笑)

ジョン・クーパーは、その日によって、機嫌が変わり、シビアな扱いをしないとすぐ体調を崩すのですが、それも楽しいものです。

 

 

このジョン・クーパーは、私の運転免許返納後には子供に譲る予定です。

それまでは、現在のコンディションを維持しなければならないと思っています。

 

私にとっては、ただのクラシックミニではなく、千載一遇のジョン・クーパーです。