このホンダApe100は、小型二輪(原付2種)で、奥さんのために買ったバイクです。

休日ごとに、私が一人でバイクに乗って出かけて行くのが、奥さんには楽しそうに見えていたようでした。

その奥さんが、いつの間にか小型自動二輪免許を取っていました。

 

そして、免許を取得したら、やはりバイクが欲しくなってきます。というか、私もかねがねチョイ乗り用に小型バイクが欲しいと思っていました。

車体が小さくて、軽量で、扱いやすくて、信頼性が高い、そのうえお洒落なバイクがあれば…ということで車種選びを始めたのですが、この当時、小型スクーターは、今ほど車種もなく、面白そうなものがありませんでした。

 

そこで、スクーター以外も検討してみることにして、全ての要求に応えてくれるバイクが1台だけあることが判りました。

それがホンダApe100、原付Ape50の小型二輪版です。

 
   

 

 

排気量は100ccで、出力はたったの7馬力と、昔の2スト原付並みです。

スーパーカブと同じ形式の空冷4ストエンジンは、当たり前ですが、原付よりはトルクがあって、軽くてしっかりしたフレームと程よい効きのブレーキ、高い質感(SHOWAのサスペンションやバフ掛けクランクケースなど)という仕上げの良さで、所有感を満たしてくれる、小さくても本格的なバイクでした。

跨って乗ってみると、足付きはもちろん抜群で、軽量で取り回しも楽チンでした。

ただ、みんなが速度を出す道路では、非力が否めず、もう少しパワーがあればなぁ…と感じることがありました。

で、奥さんのために買ったこのApe100ですが、出不精の奥さんは、ほとんど乗ることがありませんでした。Ape100は、家の駐車場でカバーを被ったままになっていました。

バイクも車も、乗らずに放置していると劣化が激しくなります。それで、仕方なく、私が乗ることが多くなりました。

そうなると、このApe100に色々手を入れてみたくなってきました。

ネットで情報を収集し、DRのときにやったように、吸気量をいじってみたところ、燃費は悪化しましたが格段にパワーアップし、加速も最高速も上がりました。

近場の近場ツーリングにちょうど良いくらいの軽快なバイクが出来上がりました。

 

このApe100、画像から分かるのですが、フェンダー位置が高く、ブロックタイヤを履くオフロードタイプのバイクです。

一般道を走るより、林道や河原を走るのが楽しいバイクで、いずれはこのApeでキャンプツーリングに行こうかと考え、サイドバッグとトップケースを取り付け、ツアラー仕様に仕上げました。

 
   

 

 

そして、このApe100は、モトグッチV11ルマンでは行けない場所やできないことを楽しむつもりでした。

 

しかし、またもや私に悪魔のささやきがあったのでした…

 

つづく

 

 

何度も言いますが、BMW1150GSは本当に良くできたバイクです。1点を除いては…

その1点とは、優等生過ぎることです。ABSや独創的サスペンションなどで、バイクが危険を伴う乗り物であることを忘れてしまうほど良くできたバイクです。

それを理由にBMWを選ぶライダーもいるし、それは正しい考え方だと思います。

でも、バイク乗りである私が1点バイクに望むことは、緊張感を伴う高揚感でした。

自動車学校で大型二輪教習を始めた時感じた面白さは、扱いづらいビッグバイクを操る緊張感でした。

それは、自動車で言う、旧車で峠道を飛ばすときの感覚に似ているかも知れません。

BMW1150GSには、その緊張感がありませんでした。でもそれは、BMWがバイク造りで目指したところであったのかと思います。

 

レッドバロンの店長が見せてくれた画像を見てから、私は、V11ルマンのこと、そして夕暮れの堤防道ですれ違った、モトグッチのことを考えていました。

そして、ネットでモトグッチオーナーのコメントを読み漁りました。そこでは、モトグッチのバイクを、高性能だとか、快適だとか、扱いやすいというようなことは一つも書かれていませんでした。

故障も多く、排気量の割に馬力が低く、扱いにくいバイクというような評価がほとんどでした。でも、オーナーたちは、誰一人モトグッチのバイクを悪く言ったり、ダメなバイクだという評価をしたりしていませんでした。

そのような情報を知って、やっぱり自分も乗ってみたいという気持ちが強くなっていました。ただ、経済的には、バイクを買い替える余裕はないのも事実で、諦めようという気持ちもありました。

そんな感じで何週間か日が経ちました。

 

何の用で行ったのか覚えていないのですが、私はレッドバロンの前を通りかかりました。そして、店の裏手の整備場をちょっと覗いていたところ、店長が出てきました。

「安村さん、ちょっとちょっと」と声を掛けられました。

普段は一般客が入ることがない、店の2階の修理バイク置き場に案内されました。

そこには何と、金色のV11ルマンが置いてありました!

「いやぁ、僕も気になったんで、取り寄せてみたんですよ。やっぱり、モトグッチって…」

私の意識は、目の前にある金色と黒に塗り分けられた美しいバイクに集中してしまい、店長の声は耳に入ってきませんでした。

跨ってみると、足付きは全く問題ありませんでしたが、異様な重量感がありました。

店長がキーを持ってきて、エンジンを始動させました。

ハーレーや、国産Vツインとは全く違うモトグッチ独特の金属音を伴うVツインサウンドが空気の鼓動とともに身体に響きました。

V11ルマンは、安定しない低いアイドリングで、車体がよじれるように振動していました。

それからどんな話をしたのかは覚えていませんが、家に帰る私の手には、見積書がありました。

 

そして、なぜかは全く分からないのですが、奥さんが、あっさり買い替えを承諾してくれました。(BMW1150GSの下取りは結構良かったのですが、自分のヘソクリを全額出し、不足分は、奥さんから借りました。)
 

そして、私の小学生からの夢が叶いました。

で、乗ってみて初めて分かったのですが、V11ルマンは、とんでもないバイクでした。

とにかく、振動が尋常ではありません。10分も乗れば手が痺れて。感覚がなくなるほどです。

そして、縦置きVツインエンジン+シャフトドライブの影響によって、アクセル操作でバイクの傾き、挙動が変わってきます。

そのうえ、他のバイクと違い、とにかく重心が高いので、コーナリング中も挙動を安定させるのに一苦労します。アクセルオン・オフ時のキックバックもとんでもない激しさで、

想像以上に乗りにくいバイクでした。

 

V11ルマンは、高性能や安全性・安定感、快適性を一切求めず、またレースなどの他社との競争にも一切目を向けず、唯我独尊で我が道を走ってきたモトグッチのバイクでした。

そして、オーナーになって、乗れば乗るほど深い味わいがあることが判ってきました。

ネットで読んだオーナーたちのコメントも理解できました。

とにかく、所有することが嬉しく、乗ると緊張感があり、ツーリング中も、少しでも気を抜くと、先に見える緩いコーナーが曲がれなくなってしまうようなバイクです。

それがモトグッチというバイクです。

このV11ルマンですが、2007年に購入してからすでに17年が経過し、その間に一度転倒事故に遭い、身体もバイクも決して軽くないダメージを負いました。でも、私はライダーをやめることも、このバイクを手放すこともありませんでした。

 

ここ数年は、年齢と体調のせいもあって、私は、バイクに乗ることも少なくなりました。V11ルマンは、今もうちの駐車場でカバー被って眠っていて、年数回私がキーを握るのを待ってくれています。

私が、V11ルマンを手放すとき、それはライダーをやめるときです。

 

 

おわり

 

私がV11ルマンに乗っているところを友人が後ろから撮影してくれた動画が見られます。  ↓

 

http://www.youtube.com/watch?v=Qaqp4GZXGJo

 

 

それは、お気に入りのメガオフローダー、BMW1150GSのオイル交換のためにレッドバロン和歌山店を訪れた時のことでした。

作業を待つ間、おなじみの店長さんと、話をしていると、「○○さん、いつかはモトグッチに乗りたいって言ってましたよね…、奇跡の1台があったんですよ!」と悪魔のささやきが…。

 

 

レッドバロンで一目ぼれし、シルバーウィングから乗り換えたBMW1150GSは、故障知らずで、どんなシチュエーションでも安定感抜群の素晴らしいバイクで、私は、週末ごとにGSに跨り、ショートツーリングを楽しんでいました。

 

ある日の夕方、紀の川の堤防道路をGSで流していたとき、モトグッチとすれ違いました。夕日を背に、縦置きVツインの不規則な排気音を伴い、ガニ股で跨るライダーを見た時、自分が大型バイクに憧れるきっかけになったバイクがあったことを思い出したのです。

そのバイクとは、モトグッチ1000Gでした。

    (画像はネットからお借りしました)

 

スーパーカーブームのころ手にした小学生向けの自動車大百科の中に、スーパーバイクの紹介コーナーがありました。その中で取り上げられていたモトグッチに、そのころ小6の私の目は釘付けになりました。

「なんてカッコいいバイクなんだ!大人になったら、絶対にこのバイクに乗ってやる!」

 

夕日を背に、縦置きVツインのシルエットだけでモトグッチと判るバイクを目にして、私は、12歳の頃の夢を思い出してしまったのでした。

「大型二輪の免許を取得し、自分は今BMW1150GSに乗っている。憧れのモトグッチに手が届くのかも知れない。」私はそう考えました。

そして、ネットで、当時のモトグッチのラインナップを調べてみました。

 

当時、モトグッチに限らず、バイクのデザインは、それまでのトレンドであった有機的・曲線的デザインからメカニカル・直線的デザインへの過渡期だったように思います。BMWも1150GSのような柔らかいなデザインから、1200GSのようなシャープなデザインに移行していたころです。

そんな中、モトグッチも曲線的なV11シリーズからシャープなBREVA系に移行していました。

このBREVA系デザインは、少年時代に見た迫力のあるモトグッチに憧れた私には、何か響いてきませんでした。そして、同じネットページにあった、販売終了モデルを見ていたとき、私の心がときめきました。そのモデルとは、V11ルマンでした。

元々、柔らかい曲線で構成されたV11に、クラシックなロケットカウルを装着したモデルでした。

V11ルマンの存在を知った私は、それから何度もネットで情報を探しましたが、すでに新車の販売情報はありませんでした。

 

そんなころ、優等生BMW1150GSのオイル補給のために(1150GSは、エンジンオイルの減りがけっこう激しいバイクでした)レッドバロンを訪れた時、暇そうにしていた店長さんとの会話の中で、私がバイク好きになったきっかけとしてのモトグッチの話や、現行モデルのBREVA系より、一世代前のV11系が好みだという話をしていました。

いつかはモトグッチに乗りたい、みたいな話もしたかも知れませんでした。

 

その数か月後、GSのオイル交換のためにレッドバロンを訪れ、作業待ちの間に、店長さんから声がかかりました。

モトグッチの掘り出し物があったということでした。

 

店長さんがレッドバロンの社内ページからの情報と画像を見せてくれました。

それは、すでに販売が終了していた、金色のモトグッチV11・ルマン(前期型)でした。走行距離は、なんとったったの46kmでした。

60歳代のライダーが、他店で購入したものの、乗りこなすことができず、すぐに出戻ったモトグッチとのことでした。

「どうします? 一回実車を見てみます?」そう店長さんに言われましたが、財形を切り崩してまで買ったGSは、まだ1年少ししか乗っていません。「考えておきます」とだけ返事して、私は家に帰りました。

 

つづく