クレイジーフィッシングw


ジャクリッドは笑いながら言った。


欧米人や日本人のほとんどはバラマンディーやナマズ釣りにタイへ来る。


だけども、プラクヴェーンを釣ろうとする奴は、滅多に居ないんだ。


何故かって?


それは、あんな辛く苦しい思いをしてまで釣りをする必要がないからさw


あんなの釣りたがるのはクレイジーな奴以外いないんだよw


ミスターも相当クレイジーだなwww



ミスタークレイジー。



俺はクレイジーと言う響きに酔いしれた。


体力の限界を超えてナチュラルハイになってきている。


大物が掛ったと言う噂は瞬く間に広がり、近所の村人がゾロゾロと集まってくる。



しげるの世界旅行釣行記


竹で作られた通路は人で埋まっていく。


真新しい竹なら良いが、所々腐っていて今にも壊れそうだ。


俺は通路が崩壊するんじゃないかと気が気ではなかった。



釣りのサポートを積極的に手伝ってくれる人


遠目から眺めてる人


近くにきて酒盛りをする人


様々である。



いつもなら鬱陶しいと思うヤジ馬達。


そんな彼らも、今の俺には応援されているから頑張れる、心の支えになっていた。


ふと横を見ると、酒盛りの輪に何故かNIGOが混じって酔っぱらったタイ人に絡まれている。


NIGOの名前はタケシである。


タイではドラえもんが人気らしく、ジャイアンと同じ名前のNIGOは名前も覚えやすいみたいだ。


TAKESHI~♪wwwwwTAKESHI~♪wwwww


酔っ払いタイ人が即興の歌に合わせてTAKESHIを連呼している。


NIGOは顔を引きつらせながら周りとコミュニケーションを取っていた。


しまいにはその中にゲイが居たみたいで。


TAKESHI~w、俺の尻の中で試してみないか?締まりがあって気持ちがいいぞ。


と、まるで何処かで聞いた事のあるような決め台詞をリアルで言われ、流石のNIGOも顔が引きつっていたw


怪物は一向に上がってこない。


何人かで交代しながら釣っているのだが、全く上がってこない。


こんなに時間の掛った獲物は初めてだ。これは間違いなく記録に残る大物だ。

村人はそう話した。


たしかに、間違いなく今まで釣ったエイの中で一番でかい。


恐らく3m以上は確実にあるだろう。


今まで釣った最高記録は2m47cm 200kgの大物だった。


それでも時間にしたら2時間半で釣る事が出来た。

こいつはどうだ?もう6時間以上闘っているのに一向にその姿を見せる気配もない。


こいつは間違いなくモンスターだ。


これが釣れればミスターが最も大きな獲物を取った事になる。


イヤhッホオオオオオオオイ!!!!!!!!


ジャクリッドが興奮気味に言う。


そんなことを言われてニヤニヤせずにはいられなかった。


早く俺の前に姿を現せろ。


そして俺に最高の瞬間を迎えさせてくれ。




しげるの世界旅行釣行記
こんな持ち上げ方ないよねw


しげるの世界旅行釣行記
顔が逝っている



8時間が経過した頃だった。


あまりの手の痛さに辛抱出来なくなり、ジャクリッドと交代した時だった。


怪物は重い体を水底から浮かせゆっくりと動き出した。


チャンスは今しかない!!!!


ゆっくり慎重にロッドを持ち上げてはワイヤーを巻いて行く。

あと少しあと少しだ。

ついに俺たちが伝説になる瞬間が!!!!!!


村人達も興奮して騒ぎ出した。


俺はジャクリッドを応援しつつ、水面から怪物が姿を現すのを眺めていた。


そのうち突然、竿が立ち上がり、ワイヤーが空中をゆっくりと舞い上がって軽くなった。

反動でジャクリッド達はひっくり返りそうになった。

急いでリールでワイヤーを手繰るもそこには怪物の重みは残っていなかった。

一瞬の静寂とともに拍手がちらほらと湧き上がる。

俺は呆然と立ち尽くし、古屋の方へ戻って行った。




しげるの世界旅行釣行記


顔面蒼白な俺をみてNIGOに心配されたほどだ。


時計を見ると11時半を指していた。8時間30分の壮絶なる格闘は意外なほどあっけなく終ってしまった。


ミスター・・・・すまない。もう少し時間を掛ければよかった。本当にすまない。


ジャクリッドは自分が怪物を取り逃がしたと思い、申し訳なさそうな顔で俺に謝ってきた。


その時はそんなことどうでもよかった。


約9時間にも及ぶ格闘で俺の心は折れてしまった。


完全なる敗北である。


ホテルに帰ってシャワーを浴びようと手を伸ばすと手が上がらなかった。


釣りの時は分からないが、しばらく経つと昂揚が消えて苦痛が芽生えた。


ちょっとした動作を取ろうとすると全身に苦痛が走った。


手にはマメができ火傷したような感じになっている。


肩がこわばり、背が痛む、腕はパンパンに張れて肩から上には上がらない状態だった。


明日もこの釣りをするのかと思うと正直その時は物凄く滅入ってしまった。


釣れてほしい。


でも釣れてほしくない。


その夜は複雑な気持ちで一杯になってしまった。



続く