幻みたいな夜だった。
アングラ劇団をやっている
友人に誘われた。
今日、西荻窪でやるLIVEに行こう!
突然だった。
そんな人知らないから。
心の叫び
俺はSIONのLIVEに行きたいんだ!
その日、あのSIONのLIVEと
同日だったのを覚えている。
SIONが日比谷野音で
やると言うのに。
何故か西荻窪の酒場で
奴と酎ハイともつ焼きを頬張っていた。
いいから凄いLIVEなんだよ。
どうでも良かった。
だが5杯目の酎ハイが
回って来た!
物凄く焼酎が濃い店だ!
そのまま奴に連れられ
小さなライブハウスにたどり着いた。
アケタの店?
客は50人なんか到底入らない
キャパ。
薄暗い空間でLIVEがリアルタイム
で始まろうとしていた。
ステージの女性がタバコを吹かしながら
歌い出す。
歌声を聴いた途端、世界観に
引きづり込まれた。
歌っていたのはアングラの女王
と呼ばれた
浅川マキ
まるで映画の中のワンシーンだ。
戦後の闇市に紛れ込んだ錯覚に
導かれた。
中島みゆき
山崎ハコ
カルメン・マキ
好きだった。
それ以上に強烈であった。
ロッド・スチュアートの
ガソリンアレイをカバーしていた。
原曲より、クレイジーで
ブルースだった。
奴が言う。
あの寺山修司さんが、見い出した
人なんだよ。
返答は出来なかった。
それ以上に凄いかも。
もう酎ハイと言う気分では
無かった。
カウンターでワイルドターキーを
ロックで頼んだ。
まさに辛口のバーボンが合う。
ハードリカーが似合う曲と声。
路地裏が似合う。
LIVEは終わった。
ダウナーの薬物を食らった
時の敗北感に似た気持ち。
同時に明日の光が見えた。
小さな箱だったから
終了後、挨拶が出来た。
感動しました。
狂うくらいに奪われました。
掠れた声で彼女は言う。
ありがとうね。
一言のみ会話をしたのを
覚えている。
バーボンを派手に喰らい過ぎて
夢の中を彷徨っていたのかも
知れない!
店を出たら雨が降っていた。
傘なんか持っていない。
関係ない。
ずぶ濡れになりながら、
駅まで走った。
濡れ鼠みたいな2人は
駅の改札に辿り着いた。
ホラ、良かっただろ?
良いか悪いかなんて俺には
わからないよ。
ただ身震いがするほど感動した。
そうか。じゃあ終電まだあるし
もう一杯飲むか?
勿論だよ!
路地裏の店に2人で入った。
安いバーボンで語った。
先程観た浅川マキを語った。
店を出る頃には雨は止んでいた。
だが最終電車もとっくに無くなって
いた。
仕方ない少し歩くか。
真夜中の西荻窪を2人で歩いた。
夢遊病みたいに歩いた。
あれから何年経ったのか?
奴は芝居を続けていたが、
肝硬変で早くにこの世を去った。
2009年だった。
そして翌年の2010年
浅川マキさんも、心不全の為、
この世を去った。
あの西荻窪の一夜はやはり、
夢か幻だったのか?
今宵
俺は彼女のレコードに
針を落とす。
奴が1番好きだった曲。
ふしあわせの猫が流れて来た。
確かにあの夜この曲を聴いた。
幻なんかではない。
人は猫より不幸せかも知れない。
またいつか西荻窪の片隅で
会いましょ。
薄暗い店で。
またいつか!


