サカエさんの恋はどうなるんだろう。


「不適切にもほどがある!」宮藤官九郎っぽいセリフ集 第9話


「ショックだなあ。特定の誰かについて喋ったつもりないのに。ましてマタハラなんて」

「だとしたら渚っち、気を付けた方がいいかも。前々から思ってたんだが、ちょっと言い方、キツイときあるから」

「はあ!」

「はあ!ってその顔、純子そっくり! リスペクトが感じられません」

「おじいちゃんに言われたくないんだけど」

「そのおじいちゃんだって、祖父って意味で言ってんのか、年寄って意味で言ってんのかで印象違うしね」

 

「大体さ、隠し事多すぎるよ! 妊活だって、こそこそしねえで堂々とやりゃいいんだよ。さーせん、今晩旦那とちょめちょめするんで、帰るとします」

「おじいちゃん、妊活イコールちょめちょめだと思ってない?」

「違うの? ちょめちょめしねえから少子化何だろ?」

「1回訴えられた方がいいかも」

 

「恋愛しなきゃだめですか? そもそも恋愛って何ですか? 付き合うまでが恋愛ですか? 付き合ってる状態をキープするのが恋愛ですか? 付き合って結婚するまでの期間が恋愛ですか?」

 

「イライラするー。なにこれ、女が記念日に作りそうな手の込んだ料理」

「アクアパッツァとケールのサラダです」

「イライラするー。男は作んねーよ、こんなの。マグロのブツとモツ煮だよ! あのさ、誰かのことを想ってさ、眠れなくなって夜中飛び出してウォーッ!って叫んだり、股間に枕挟んでウォーッ!って叫んだことねーのかよ」

「それが恋愛ですか?」

「いいからやってみろ。枕挟んでウォーッ!って」

「ウォーッ」

「そんなもんじゃねーよ! もっといけよ! ほら」

「ウォーッ」

「もっといけよ、おら、声出せ!」

「ウオーッ!」

「おお、押上の喫茶店、ググりました。レトロで素敵なお店ですね。では5時に。証券会社の杏子さん、明日スキャンダル来るって!」

「ウォーーーーーーッ!」

 

「ごめんなさい」

「だめじゃん、こっち来ちゃダメじゃん。ねえマスター、クリームソーダ2つ!」

「あ、こいつ、秋津」

「向坂サカエさんですね。フェミニストの?」

「はあ。私なんか、男に依存しなきゃ生きられない。ふしだらな愛のコリーダなんです」

「なんだなんだ、何があった。訳を話せよ。ちょっと綺麗になりやがって」

「恐れ入ります」

「褒めてねーわ!」

「3年B組の安森先生」

「ああ、股下90センチの安森がどうしました?」

「彼と、お、お付き合いさせていただいております」

「させていただくねー、これだよ、秋津! 放っといたらお付き合ちゃうのが男と女。離婚してぽっかり空いた胸の奥に詰め込む飯を食べさせる―だよ! ねえ、マスター早く!」

「あ、2つね」

「そう」

「てゆーか、そろそろ来ちゃうんで、杏子さん」

「スマホもXもDMもメールすらない。足りないツールを補ってあまりある昭和の男性の求愛行動たるや」

「約束もしてないのに帰ったら、家の前で待ち伏せて」

「やあ、急に会いたくなって!」

「今日はいない? と思ったら後ろから目隠し」

「だーれだ」

「そのまま抱きしめられ、反転。人目もはばからず頭なでなで。腰に手を回す。足くじいたらお姫様抱っこ。ダンス、ダンス、サラダバー」

「♪サラダバーより、君が好き」

「目を見て弾き語り」

「メモれ秋津。人を好きになるってこういうこと」

「どうかな。モラハラ男のストーカー行為じゃないですか」

「けど、嫌じゃなかったんです。そういうの久しぶりだし、最後かもしんないし。もうずっと昭和でいいかもって」

「ちょめちょめ…」

「はあ」

「あ、あのお話し中すいません。来ました。杏子さんです」

「御託はいいよ、コンプラおばさん。ちょめちょめしたのかね」

「はあ」

「あの杏子さん来ました」

「ちょめちょめしたのかね」

「ラブホテルじゃないですか!」

「今気づいたんですか?」

「いや、駐車場のビラビラをくぐったあたりから徐々に」

「はっきりさせたくて」

「何を?」

「こういうとこで、そういうことをしても、そんな感じなのか」

「指示代名詞が多いな」

「板東英二さんの話しましたよね」

「ああ、見た目がタイプなんですよね」

「あなたのね。だから見た目以外にいいところが見つかるまでは、あなたの見た目は板東英二…自分で言っててバカみたい」

「見つかりました?」

「見つかりました? って何その自己肯定感。すしざんまい! 調子狂うの。あなたという人がわからない。保守的なのか、紳士的なのか、野性的なのか、優しいのか、打算的なのか」

「分類できないとダメですか? 僕はサカエさんを素敵な女性だと思ってます。クールなところも激しいところもかわいいところも凛々しいところもすべて」

「やめて! …続けて」

「すべてがサカエさんを形成する重要なエレメントだから」

「やっぱりやめて! そんなに肯定されたら、謙遜しちゃう!」

「もちろん、見た目も好きです」

「私も。板東英二でも好き」

 

「か、カラータイマー」

 

「はあ、悪いことはできないものですね」

「悪いことじゃねえだろ、別に。独身なんだから、なあ秋津」

「女の人と出ていきましたよ」

「なに? あの野郎」

「あーあ、一丁目ぐらいしてくれば良かった。ハハハ」

「1丁目って。わお、東村山みたいな。いやいやいやいや、笑い事じゃねーよ! キヨシは? 純子と一緒にあの家に?」

「翔んだカップル状態ですね」

「ダメじゃん! 無限ちょめしちゃうじゃん」

「書置きして来たから大丈夫。それに受験で忙しいの」

「純子が?」

「純子先輩。純子先輩! 大変」

「なにそれ、紫式部?」

 

「年上としか付き合いたくないっていうの。自分が頼りないって認めているようなもんだし? 甘えたいって魂胆が見え見えでカッコ悪いからやめた方がいいですよ」

「サカエさんだ」

「そもそも年上とか年下とか気にする時点で対等な関係は求めてないんだろうし、女は男の装飾品だと思ってるんだろうし、そんな幼稚な考え許してくれる年上の女なんて、お母さんぐらいだから! かえってお母さんに甘えたらどうですか!」

 

「よー杉山ちゃん、ちょめちょめしてる? 3連休だから3ちょめだな。ちょめるなら夕方の方がいいよ。3ちょめの夕日っつってね」

「申し訳ございませんでした」

「なんかそわそわしてると思ったら」

「つい、昭和気分が抜けなくて。すいませんでした」

「小川さんが特別なわけじゃない。が、むしろ僕らが1人1人の心に居座ってる、小さな小川さんの存在を認めて駆逐しなければ」

「放っとくと増殖しますからね」

「悪玉菌みたいに言わないで~」

 

「イライラするやつが2人に増えたぞ。なに? 付き合ってるんじゃなかったのかい?」

「そりゃアプリを通じて、そういう属性ってことで」

「私も人を好きになったことがなくて。エッチだけする相手はなぜか途切れないんですけどね」

「うんうん」

「うんうんじゃねえぞ、秋津! 言ってることめちゃくちゃだぞ」

「ご飯だけとか、エッチだけとか、ゲームだけとか」

「自分の時間大事ですもんね」

「おいおいおい、俺が間違ってるような気がしてきたぞ」

 

「そうですか。純子のお母さん代わりで」

「市郎さんが留守の間だけですけど」

「どうですか? 純子は元気ですか?」

「ええ、最初はたばこスパスパ吸って、ばばあ呼ばわり、ぶっ飛ばしてやろうと思ったけど、すごくいい子」

「そうなんですよ。いい子なんですよ」

「いちいち泣かない」

「すみません。でもいるんだかいないんだか、死んでんだか、生きてんだか、もうわかんなくなってきて」

「俺だって泣きたいよ。もう会えないかもしんないんだぞ」

「どうでした、昭和。みんな昔は良かったっていうけど、ほんとかなって。私生まれてないから」

「ああ、そうね。ご飯は今の方が美味しい。これは絶対」

「俺も思った。こっち来て回転寿司入って声出ちゃったもんね」

「水が違うのよ。ああでも喫茶店のナポリタンは」

「スキャンダルのナポリタン、全然違う」

「違うね、味落ちたね。めちゃっとしてもっさりして」

「じじいの握力が何だと思う」

「そうかな。私は結構好きだけど」

「いやいや騙されてる。じじい金返せのレベル」

「ご飯以外になんかないの。社会学者でしょう」

「地上波でおっぱいが見れるとか」

「だよねー。みんなぽろりしてたもんねー。ぽろっぽろ、ぽろっぽろ出して、ピピピ、やだ恥ずかしい」

 

「認定して終わりじゃあ、しょうがないと思うけどね。これはパワハラとか、パワハラじゃなくてモラハラとか、細かく分類して解決した気になってるだけなんじゃないの」

 

「ああ、ごめん、聞いてなかった」

「お前が高校卒業したら結婚しようって言った」

「うそ」

「だから、聞いてなかったはすげえショック」

「ごめんなさい。先輩はずっと憧れの存在で、ずっと背中を追いかけてて、今も好き。だけど、世界は広くて、先輩の背中よりもっと広くて、いろんな生き方があるって、知ってしまったの」

「俺も知ったよ。行ったし、バスで。お前を追いかけて」

「未来?」

「YOASOBI、いきなりステーキ、高輪ゲートウェイ。50代のキョンキョンにも会いました」

「それなのに自分のスタイルを貫けるって、やっぱり先輩カッコいいです」

「職業イケメン、ムッチです」

「がんばってください」

「俺振られた?」

 

 

「そんなんだからってどんなだ! あんたに娘の何がわかる」

「やめてお父さん」

「渚はパワハラなんかしてない。絶対にしてない。もし仮に、万が一、ワンチャンそうだったとしても、俺にとってはたった1人の大事な娘だ。34年間見て来た。ほんの一部分だけ見て、キリトリ、パワハラだなんて決めつけるな。俺の娘を社会の基準で分類するな!」

 

♪ワンチャン 決めつけないで

誰に聞いたか知らないが

ワンチャン 決めつけないで

本当のことは誰も知らない

仮にワンチャン そうだとしても

あんたがゴミを分類しなくていい

ってことにはならない

 

♪ワンチャン 切り取らないで

パワハラ上司も鬼じゃない

ワンチャン 切り取らないで

セクハラ上司も人の子だ

 

♪ワンチャン 傷つかないで

そんなつもりで言ったんじゃない

ワンチャン 決めつけないで

本当のことは誰も知らない