かなり周回遅れだ…

第4話
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「ちょいちょい! こんだけ暴れて自己紹介もなしか」

「おい! このコロッケはな! どん底から這い上がった男の血と汗と涙と怒りと屈辱の結晶だ!」

「いい加減にしてくれねえか! さっきから黙って聞いてりゃあ、なんだ!」
「黙って聞いてましたっけ?」
「わりと静かに聞いてりゃあ。うちの息子を腑抜けの腰抜けのマザコンの蛆虫呼ばわりか!」
「ちゃんと聞いてました?」

「自業自得なんじゃですか。姉の行動は短絡的で自己中心的で軽蔑に値します。それが恋愛だと言われたら、経験のない私にはわからないし、わかりたくもありません。自分を律することもせず、第三者を巻き込んで不幸にするのが恋愛なら、一生無理。てゆーか、気持ち悪いです」

「そーなんです。私がIDを借りて、なりすましてる成田君です。今私SNS上では巨乳好きっていうキャラで大木君とやりあってるんです」

「見た目じゃねーのはわかるよ。ひとりクローズ気取ってるけど、実際は植田まさしのマンガみたいな顔してるし」
「それ、上田正樹に失礼だよ」
「まさしだよ! え、知らね? かりあげクンとか」
「は! からあげくん、ピーチ味が出たよ」
「なんでおれなんだよ」
「ニポン語のレベル、大体一緒」
「えっ」
「大体わかる。言ってること。難しくない。こじんまりしてる。あと、礼儀正しい! 大丈夫、お前さんそんなに悪いやつじゃないよ。普通」
「嬉しくねー」

「どう思います」
「まあ、お互い歩み寄るのはいいことだと思いますけど、教師も生徒も」
「歩み寄るのはっていうより、がっついてるように見えません?」
「確かに。いきなり飛ばし過ぎですね」
「まだ始まったばかりです。聖書で言うならまだ創世記です。暑くてスカートパタパタしてた女子と暑くて裸で洗いっ子してた男子がエデンの園で出会ったばかりなんです。しっかり見張らないと食べますよ。禁断の果実を。ガツガツ」

「原先生も気をつけてくださいね」
「私が? 何を?」
「女子校で勤務する男性教諭は3わりから5割増にカッコよく見えるんです。荒俣宏がニコラス・ケイジに見えるんです」

「みなさん、雪解けの時が来ました。性別が違う。宗教が違う。成績が、偏差値が違う。私たちはなにかと理由をつけて、お互いを拒絶してまいりました。けれどそれは、汝の隣人を愛せよという神の教えに背くことです。信仰心が親交の妨げとなっていたのです。でも生徒たちは違った。私たち大人が越えられなかった壁を彼らは軽々と乗り越えたのです。私たちもそれを見習わなければなりません。狭き門から入りなさい。滅びに通じる門は広く、そこから入るものは…」

「ドンマイ先生、なんか感じ変わりましたね」
「別に。化粧して、美容院行って、アイロンかけただけです」

「先生好きな人います? 私、先生のこと好きみたいです。近場ですましてんじゃねーよ、終わってるって思ってました。だから私も先生のこと好きだけど、付き合うつもりはないです。でも好きって気持ちは伝えようと思って。聞いてます? 合同文化祭、成功させたいし、そのためにも精一杯がんばります。でも、それは生徒会長だからじゃなくて、原先生ことが好きだからです。以上です」

「そっか、うん、そっかそっか。気持ちは嬉しいけど、でも半田君のその想いに先生答えられないな。これまだ誰にも言ってないんだけどね。先生、結婚するの。まだ内緒なの。誰にも言うなよ!」

「付き合ってはいない。でも結婚するの。ごめんね」
「相手はどういう…」
「原先生。私、原先生と結婚するの」
「あの、先生、付き合っては」
「ない」
「でも、好きなんですよね」
「わかんない。でも徐々に? 好きになれると思う。結婚するからね。大丈夫?」
「付き合ってない。好きでもない、のに?」
「結婚するの。決めたの。今日」
「今日!」
「うん。伊豆っぱこの中でね」
「ハートのつり革」
「そう、握っちゃったの。2人で。だから私たち結ばれるんです。だって一日一輌しか走ってないんだよ。その中の一本だよ。すーごい確率じゃん。ていうか運命じゃん! いい? 誰にも言うなよ、絶対だからな! 返事は!」
「はい…」
「私のこと好きなら、私の幸せの邪魔しないでね」

「ねえ、私たちって、付き合ってるのかな?」

「(付き合ってるのか)確認が必要になるのは別の異性が現れてからだ。アダムとイブと中井さんと遠藤さんと神保さんとビルケンシュトックがいるから不安になる。でもそれが男女共学だ。この一カ月で恋愛対象として異性を意識し始めた。でも、そうじゃない異性も教室にはいる。社会に出たらもっといる。言わば社会は巨大な男女共学クラスだ。いきなり特別な存在を見つけるなんて無理だ。がっついても仕方ない。ますは様子を見て」
「様子見なんて、時間の無駄です! 『愛するに値する相手かどうか、考える前に愛せよ』。ピンと来ない? 先生ならこう訳します。『好きにならなきゃ、好きな理由はわからない』。例えば阿部さんは半田君のムキムキなところが好きだとするよね」
「え、ちょっと待ってください」
「その場合、ムキムキだから好きなの、それとも好きだからムキムキなの。ごめん。なんか変だね」
「脱いだ方がいいですか!」
「黙ってて! ムキムキが先か、好きが先かで言ったら?」
「好きが先です」
「だよね。まず好きって気持ちが芽生えて、相手のことをよく見るからムキムキに気づくわけです。優しい人が好きって言う女ほど、人の優しさに気づかないんです。それは優しい人って言う条件で男を探してるからでしょう。好きな相手なら、何をされても優しいって感じると思うの。『好きにならなきゃ、好きな理由はわからない』だつたら直感を信じてみませんか。理想と違うからとか、条件が合わないからとか、そんなの時間の無駄。人生は一度きりなんです! がっついていこう!」