山登りと言えば富士登山、山歩きを入れても屋久島ぐらいしか経験がない。でも、それだけの経験値でも充分楽しめた。


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ミステリーの要素がまったくない北村薫の新作。著者近影ではっきり男せいだとわかっていても、女性が書いているとしか思えない女性視点は健在だ。


突然山登りに目覚めた編集女子がほぼ一人で挑戦した山の軌跡。その何年分か。

一人で山に登っているので登りながらいろんなことを考えている。

「わたしはカメラ嫌いなので、上る今日の光を見るだけだ。人はどうしてこんなに、写真を撮りたがるのだろう。逃げようとする時間を捕まえたいのだろうか」

「屋根や壁があるだけで、どれぐらい有り難いか。その上、コーヒーの湯気が、心を休めてくれる。思えば、《有り難さ》を教えてくれることそのものが、山の有り難さだ」

「ゲラを次々に読んでは戻す。イラストの発注をし、帯のキャッチコピーをデザイナーさんに渡す。お盆で静かなせいか、あるいはこれから《行くぞっ》という高揚感があるせいか、何もかも異様にはかどる、はかどる。全能のわたしーーという快調さだ」

「人は無限の時の一瞬を生きる。自分だけでは、およそ何事もなし得ない。だが、後から同じ道を歩いてくれる人がいる。それは大きなーー慰めとは言わない。それ以上の救いだ」

心を許せる職場の仲間、亡くした友達、山で出会った様々な人、別れた男、そして山の友と町での再会。

一人で山に登っているのに孤独ではないのがいい。



読んでいて憧れるのは旅の準備の儀式。

薄手のフリース、折りたためるダウンジャケットとヘッドランプ、粉末のポカリスエット、歩きながら水が飲めるハイドレーションシステム、品川巻とじゃがりこチーズ味。

そしてその時々で選んだ本2冊。これがすごくわかる。

予定もつもりもないのに準備だけはしてみたいかも。


それにしても…実際の仕事の描写が少ないからわからないけど、主人公が副編、編集長とあっさり出世しすぎじゃないかなあ。




八月の六日間/北村 薫

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