霧の立ちこめる山の中、笠をかぶり、古風な袴を着た男が一人歩いていた。


ガラガラガラッ


「ニャーッ、お迎えに上がりました夏綺(なつき)の旦那!」


大きなアヒルのような鳥、ガーグァの上にのったアイル―という猫のような獣人が、夏綺の横に止まり、男を荷台に乗せた。


「いやー、旦那、遅くなって申し訳ねぇニャ」


「あぁ、いいさ」


「それにしても、今にも雨が降り出しそうですね・・・」


ポツ・・・ポッポツポツ・・・ザァーー


「噂をすれば・・・。急ぐニャ!」


そう言って、ガーグァに鞭を入れる。


「グアァァー!」


勢いよく山を駆け降り始めた。


そんな中、荷台の夏綺はふと空を見上げる。


ぼんやり、雲と雲の隙間に羽衣をまとった龍のようなシルエットが見えた。


「!?」


夏綺が目を凝らすと、そこにはすでにシルエットは消えていた。


何だったんだ!?と夏綺が疑問に思っていた時、突然―


「グアァァァ―!」


ガゴッ、ズザァーッ


ガーグァが急に方向転換し、夏綺は荷台から振り落とされた。


「グッ・・・」


夏綺が目を開けると、目の前には、淡い青色の鱗がみえた。


「なっ!!」


夏綺はすぐに状況を悟った。


ガーグァが急に方向転換したのは、モンスターが目の前にいたからで、ふりをとされた夏綺はそのモンスターの腹の下に転がったのだ。


―やばいっ!―


夏綺は必死で逃げようとしたが、モンスターは雲に覆われた空を見上げ襲いかかるどころか、夏綺に一切気づいていない様子だった。


夏綺が、モンスターの脚の間を縫って外に出たら、右からモンスターの尻尾が迫ってきていた。


バシッ


「グッ」


夏綺はその衝撃で小さな崖から落ちたが、ちょうど山を下って折り返してきた、ガーグァとアイル―の荷台に落ちた。


「旦那!大丈夫でしたか!お怪我はありませんかニャ!?」


アイル―は、夏綺の心配をしていたが、その言葉は全く夏綺の耳に入らず、夏綺は、自分が転がりおちた崖の上のモンスターを見ていた。


青白い稲妻を身にまとったそのモンスターは、薄暗い山の中で、青白く猛々しく光っていた。


そして、夏綺がボーっとしているうちに、村に到着した。


「着きましたニャ!旦那、さっきは申し訳ねぇニャ、ちゃんとしつけておきますゆえ。それでは、この階段を登れば、村長様に会えるはずだニャ!」


「あぁ、ありがとな」


そういって、手を振ると、ガーグァとアイルーはどこかに去って行った。


―よし、俺の新しい生活が始まるぞ!―


希望に胸を膨らませ、夏綺は村に足を踏み入れた。