セヴィニエ夫人の手紙 (身近な人々) (2) | アルプスの谷 1641

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1641年、マレドという街で何が起こり、その事件に関係した人々が、その後、どのような運命を辿ったのか。-その記録

 
 
 1689年 1月 10日 の手紙がまだ終っていません。 
 
 この最後の部分は夜10時に書かれたと書いてありますが、さしものセヴィ
 
ニエ夫人もここで力尽きたようです。 部分的に抽出して訳出してもこの量で
 
す。 一日中、手紙を書いていたであろう当時の暮らしぶりが伺えます。 
 
 
 前半は結婚の話題です。 当時の宮廷内の結婚事情については、セヴィニエ
 
夫人も何度か手紙に書いています。 当時の宮廷にあっては、ルイ十四世の許
 
可が無ければ、結婚も不可能でした。 逆に、国王から言われたら、絶対に嫌
 
とは言えなかったことでしょう。 この手紙からはそのあたりの事情も透けて
 
見えます。 結婚する当人の年齢が書いてないのですが、内容から推し量るに、
 
二人共、それこそ十代初めぐらいなのではないでしょうか。 
 
 最後にマントノン夫人が出てきますが、後にフランス王妃となる、あのマ
 
ントノン夫人です。 マントノン夫人は財産のない良家出身の子女のため、
 
サン=シール=レコールに設立された女子のための寄宿学校 (聖ルイ王立学校) 
 
を創設しました。 「少女たち」とは、その女生徒たちで、ラシーヌは、
 
「エステル」 や 「アタリー」 をサン=シルの少女たちのために書きました。 
 
手紙に書かれている劇とは「エステル」で、旧約聖書の一書、ペルシャ王の
 
后となったユダヤ人女性エステルの物語です。 後の手紙で、この劇が再び
 
話題となります。 

 
 
1689年 1月 10日 の手紙の続き
 
 
 こちらの結婚について、ピュイデュフー夫人の所に行ってまいりました。 
 
モンタウジエ氏とラヴァルダン夫人もいらしてました。 ラヴァルダン夫人に
 
は貴女のことを申し伝えておきました。 夫人は貴女にとても良い印象を抱い
 
ておいでです。 暫くしてから華やかな一行が到着しました。 ラフェルテ公爵
 
夫人がとてもお綺麗なお嬢様の手を取り、同じ色の服を着た妹さんも一緒で
 
す。 これと好対照を為すのが、オーモン公爵夫人とミルポワさんの一行です。 
 
両家の双方が、これでもかとお世辞を贈りあい、もう大騒ぎです。 ラフェル
 
テ公爵夫人は以前からミルポワさんを婿に欲しいと思っていました。 夫人は
 
ミルポワさんと会って、申し出が受け入れられたと判断し、陛下に結婚のご
 
相談をしました。 陛下の裁可があれば、確実かつ最短で事が運びます。 
 
「しかし、マダム、お嬢さんはまだ若すぎるでしょう」と陛下は仰いました。 
 
「仰せの通りにございます、陛下。 しかし、急ぐ必要がああるのです。 私は
 
ミルポワ殿と娘を結婚させたいのです。 あと十年もすれば、陛下はあの方の
 
資質を理解して、それに応じた位階を授けることでしょう。 そうなれば、も
 
う、あの方は私たちと縁を結ぶことを望まないはずです」
 
 説得は十分に功を奏しました。 そこで早速、彼らは婚約もしていないのに、
 
結婚の告知を出そうとしました。 物事の順序など考えようともしない、この
 
ようなやり方は見たことがありません。 ご両家は喜びに沸いています。 ミル
 
ポア夫人から貴女にお便りがあるでしょう。 ピュイデュフー夫人は騒ぎの中
 
心にあって大わらわです。 (これに巻き込まれたなら) 喋っても自分の声さえ
 
聞こえません。 (ミルポワ家の) 若君は、自分の婚約者を見てもいません。 
 
一体なんの騒ぎなのか、よく分かっていないようです。 
 
 もうこれ以上は書くことができません。 おやすみなさい、愛しい我が娘よ。 

 
 
1689年 1月 14日 娘フランソワーズへ、パリにて。 
 
 
 ビゴーさんのため、貴女がラモワニオン氏に出した嘆願については、私か
 
らもお願いしておきました。 ビゴーさんは遠くにあっても、近くにいる時と
 
同様、貴女への感謝を忘れることはないでしょう。 単純にお礼を言って終わ
 
りではなく、感謝を持ち続ける気持が好きです。 ある種の人々は全く感謝す
 
らしないどころか、反感や厚かましさで返してきたりしますから。 
 
 ブリノン夫人はモビュイソンにいますが、すぐに飽きてしまうことでしょ
 
う。 ひと所にじっとしていられない人なのです。 何かと条件を付けては、何
 
度も修道院を変えています。 非常に知性豊かなのですが、その知性を持って
 
しても、悪癖を直すことはできないようです。 
 
 マントノン夫人は少女たちが上演する劇にかかり切りになっています。 噂
 
に聞くと、大変すぐれた出来だということです。