前回の続きとなります。 セヴィニエ夫人はヴェルサイユで繰り広げられる
夜会の様子を娘に詳しく話して聞かせています。 セヴィニエ夫人も、貴族階
級の夜会の華やかさに、若干、呑まれ気味な感じです。 宮殿の運河にゴンド
ラを浮かべて舟遊びとは豪勢の極みですが、ちょっと馬鹿げていると感じる
のは、貧乏人のひがみでしょうか。
セヴィニエ夫人は、この手紙の中でモンテスパン夫人を「勝利の女神ニケ」
に例えています。 寵姫モンテスパン夫人が国王と同じ馬車に乗り、王妃は別
の馬車に乗せられている様を想像してみてください。 正妻を蔑ろにして気に
することもない、勝ち誇った愛人という意味が込められています。
1676年 7月 29日 (水) パリにて、娘フランソワーズへ
この混乱無き楽しい無秩序には、貴人たち全員が加わり、三時から六時ま
で続きます。 使者が到着したなら、陛下は文書を読むため退席しますが、ま
た戻っておいでになります。 陛下のいる所では常に何かしらの音楽が演奏さ
れており、それが心地よい雰囲気を醸し出しています。 陛下とお話すること
の許されている貴婦人たちに対して、陛下はその全員とにお言葉を交わされ
ます。 先ほど申し上げた時間に、ゲームはお開きとなりますが、そもそも
チップに金貨が使われているので、精算では何の問題も起こりません。 賭け金
はルイ金貨にして、少なくて五、六百から七百枚、多ければ千枚から千二百
枚が使われます。 最初にプレーヤーはそれぞれ二十枚の金貨を出しますから、
それだけで百枚です。 勝負を仕掛ける者は、さらに十枚を加えます。 ハート
のジャックを持っている者は全員から金貨四枚を集め、それを渡します。 そ
して、勝負を下りる場合は、賭金に十六枚を足して、それを他の参加者に宣
言します。 彼らは常に喋っていて、頭に浮かんだことは全て口に出していま
す。 「何枚ハートを持ってるんだ?」 「二、三、一、四だな」 その人はハー
トを三枚か四枚しか持っていないことになります。 ダンジョー氏はこうした
無駄話を大いに楽しんでいます。 というのも、ダンジョー氏はそこから相手
の手の内を読み、結論を引き出し、どうすべきかを知るのです。 私はそのよ
うな驚くべき手管を見て楽しんでいました。 全く持ってダンジョー氏は相手
の性格を知り尽くし、カードの下に隠されたものを見抜く名人です。
さて、六時になると、国王陛下、モンテスパン夫人、王弟、ティアンジュ
夫人が馬車に乗り込みます。 上げ起こし式の椅子にはアウディクール家のお
歴々が座っています。 言うなれば、それはまるで神々に付き添うか、或いは、
勝利の女神ニケに付き添うかのようです。 こうした馬車がどのように作られ
ているかご存じでしょう。 席は向かい合うのではなく、同じひとつの方向を
向いています。 王妃は王女たちと共に別の馬車に乗っています。 人々は自分
の好きなように、思い思いの形で寛ぎます。 陛下のご一行が運河に浮かぶ
ゴンドラに乗りに行ってしまうと、音楽は運河の方から流れてきます。 陛下
は十時頃にお戻りになりますが、それからまたゲームが始まります。 深夜に
は夜食が供されます。 土曜日はこんな具合に過ぎていきます。 私たちは、陛
下のご一行が馬車に乗り込んだ所で家に戻りました。
どれだけ沢山の人々が貴女についてお話ししたか、どれだけ貴女の近況を
尋ねられたことか、私の返答を待たずに皆さんがどれだけ質問を重ねてきた
ことか、私がどれだけの質問に答えられなかったことか。 そんなことを気に
掛けている人はいませんし、私もそんなことに思い煩うことはありません。
これを聞けば、貴女にも「宮廷の悪徳」が完全に理解できることでしょう。
それでも、これほど楽しい夜会は無く、もっと続くことを願っています。